3章 ラメッタとバオムの姫
9話 : ポンコツ少女、慌てる
ラメッタの魔道具によって、魔法の弱体化による組織の力の低下は問題ではなくなった。むしろ強化されたくらいだ。
もちろん、魔法弱体化の原因はラメッタの『世界樹』に対する実験の結果だが話していない。
また、水を美味しく飲むための魔道具を作り、組織全体から信用を得た。
こうして、ラメッタはラメッタさんと呼ばれるようになる。
さらに便利グッズなる魔道具を量産する。
例えば。
「ここに材料を入れれば服ができる。洗濯はこれを使えばすぐに終わるのじゃ。これがベテラン魔道具職人の知恵じゃ! あ、わしの専門分野のこともあって、果実や野菜の栽培とかどうじゃろ? しかもこの建物で容易じゃ!」
どんどん組織は豊かになっていく。
時々魔道具で他組織を殺さないように壊滅させる。
「良いこと思いついたのじゃ」
水や食料の美味さ、生活の便利さを売りにして他組織から捕まえた者を味方にしていく。
大体の人は食事をすればすぐに従った。
元々生活のため自衛のために一般国民からテロリストになっていただけだ。
「ラメッタ様」
「どうしたのじゃ、ブラオン殿」
ラメッタはシュヴァルツの右腕となり、今ではシュヴァルツ以外の人間からは様付けで呼ばれていた。
「例の計画は進んでいます」
「ふむふむ。清潔な街にする。それから土壌問題を解決して砂漠化を止める。地味じゃが大事なことじゃ」
こうして、組織はラメッタが作った粉末を外に撒く。
これで砂や土が栄養や水を蓄えられるようになるそうだ。
また、ポッドの仕組みを利用して大々的に工事を始めた。
既にラメッタがバオムに来て二週間が経つ。
「あとはゴミなどの処理か。エデア王国の恩知らずと違ってバオムの人たちは素直じゃな。だいぶ住みやすくなったし」
「そうだな。俺たちの組織ともう一つの組織の二大組織になった。あとの小さい組織も大体どちらかの傘下だ。第三勢力として政府か」
「じゃが力でわしらが劣ることはない」
「そう思うが、秘術を持っているらしい」
「ふむ。興味深いの」
ラメッタは金色の自室でブラオンのあの飲料を飲みながら、建設したドーム(魔道具)で栽培した瑞々しい果物を摘まんで味わっていた。
「そろそろ下水とか工事の様子を見に行くかの。それと、新しい野菜の栽培じゃ」
ラメッタはブラオンと共に建物を出る。
煙が出ている箇所まで歩いた。
そこではラメッタが指示したようにドームを作っている。
魔道具の仕組みはほぼラメッタが作っているが、組み立てるのは非力のため難しい。そこで、組織の人間に力が必要な部分は頼んでいる。
部品と仕上げにラメッタの技術があれば十分な設計・建設方法にしているのだ。
代わりに大きなドームや扱う要素が多いものは作れないといった制限付き。要素が多いとは、水・土の栄養・温度・圧力制御システム、成長促進システム、自動収穫システムなどをたくさん採用するということだ。
現在、成長促進や栄養は魔法薬、収穫は人の手で行うことでこの問題を解決している。
「よし。まずまずじゃな」
「もうすぐ食えるのか?」
「三日もすればじゃな」
「ああ」
ラメッタたちが工事現場から離れようとしたときだった。
背後から声が聞こえる。
「お前ら許可も取らずに何をしてる? 力があれば許可などいらないと。俺に勝てると思っているのか、くそテロ組織が」
ラメッタは振り返らずに、ブラオンに魔道具で戦うように指示する。
「敵か。ついに来た」
ラメッタは自分の弱さを知っている。
走って逃げだすことにした。
しかし。
ラメッタが走ろうと足を前に出そうとしたとき、後ろから重さを感じて前から倒れた。
「逃げれないのじゃ。ブラオン」
「一撃でこのざまだ。ラメッタ様だけでも」
「重い。まずは退くのじゃ」
ブラオンは転がって仰向けになると立ち上がった。
「ラメッタ様、逃げて。それから」
合流しましょう、と言い終える前に蹴り飛ばされた。
ブラオンは血を吐いて喘ぐ。
「裏切りか。殺すぞ、いや殺されなくても死刑(笑)か?」
聞き覚えのある話し方、声色。
ラメッタの視線の先には大剣を持つ髪があらゆる方向に跳ねた青年がいた。
「お、おお。お前は!」
「ラメッタの監視役、そして政府の最大戦力クレーエンだ。テロ組織をまとめて反逆か?」
「いや、その、もっと早く助けに来ないか!」
「ラメッタはテロ組織の人間に尊敬されているようだ。もし裏切りじゃないならどうして逃げなかった? 逃げて城まで来たらいい」
「美少女に夜道は危険だもん」
クレーエンは頭を掻いた。
ラメッタの唇が震えている。
冷や汗に鳥肌。心臓が鳴っている。緊急事態だ。
「ごめん」
「裏切りか?」
「元は一般国民じゃったが国が荒れてテロ組織をするしかなかったようじゃ。そこでわしの力でなんとかしたかった。この国をまとめる、魔王軍と戦うなら必要なこと」
「嘘ではなさそうだな。分かった、信じる。だがクソガキ、ならもっと早く説明に来るべきだった。そう思わないのか?」
「それなんじゃが、魔道具作ってたら楽しくなって、誘拐されてた身分なの忘れておった」
ラメッタは立ち上がると恥ずかしそうに人差し指をくるくる回している。
クレーエンは固まった。
……。
は?
こいつ。
「忘れてたのか? おい、お前」
「そうじゃ。わし、どうして逃げなかったんじゃろ!」
「知るか!」
「そうじゃな。二週間も経ってるのに助けに来ない方が悪い!」
「逃げてきたらいい話だろ」
「それはわしの優秀さに依存しておる。護衛と監視を任されているあたり悪いのはクレーエンでした」
「ラメッタ、許さん。こんの、ガキ」
「ガキはお前じゃろ。わしは七十八なの。労われ、ガキ」
「体は十三だろ」
「美少女の損失は世界の損失!」
クレーエンはラメッタの髪を、ラメッタはクレーエンの腕の皮膚を掴む。
互いに引っ張り合う取っ組み合いをしている。
「仲良しかよ」
地面に倒れるブラオンは溜息をつきながら言う。
「そこまでです。仲間同士なのに、一体どうして大変な事態に」
クレーエンにお供していたお嬢様ディーレがあわあわと慌てて同じところを行ったり来たりと歩き回っていた。
「ラメッタ、俺は疲れた」
「わしもじゃ」
「引き分けにしよう」
「いいぞ」
「ならどっちも悪いってことな」
「ああ」
ようやくラメッタとクレーエンは離れた。
しかし。
「わしは大人じゃから許すのじゃぞ。悪いのはほぼクレーエン!」
「黙っていたら好き勝手言いやがって。クソガキのために俺が我慢してあげてたんだよ。悪いのはラメッタだ!」
再び取っ組み合いを始める。
終わったのは、体力が少ないラメッタが地面に座り込んだときだった。
「生意気小僧が」
ラメッタの言葉に対してクレーエンは聞こえないふりで対抗する。
「クソガキ!」
「ラメッタここまでか? 負けた方が悪いんですけど? 悪いんですけど?」
「そんなわけあるか。この!」
口喧嘩に関しては日が落ちるまで続いた。
結局、ラメッタは一度城に行って経緯を話すことになったのだ。
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