8話 : 職人スキルと魔道具
ラメッタは綿棒のようなもので剣を優しく隅々まで叩く。
頷きながら他の剣や銃、弓などと見比べていた。
「ふむふむ」
ラメッタは用意してもらった木の枝をナイフで切る。
それから紐を取り出して、枝で三角形を作るように固定していく。
中央に容器を置いて水を注いだ。
枯れている薬草を指で擦るようにして粉末にする。
容器に入れると、カッと光って容器の中に紫色の液体ができた。
ラメッタの隣にいた青年ブラオンは手を伸ばして液体に触れようとした。
「馬鹿か!」
「痛い。なにする?」
「これは簡易的な魔道具じゃ。位置をずらしてはならぬ。それに、触れれば黒色になって重くなる。二日ほどすると身体を侵食して黒い領域を増やしながら砕けていく。触れるな、死にたくなければ」
「分かった」
ラメッタは真剣な表情を一変微笑んだ。
「さて、長よ。わしの技術を見るといい。この剣をおぬしのために改造しよう」
ラメッタは紫色の液体のそばに剣を置く。
綿棒のようなもので液体を混ぜ、滴る液体を何滴か刃に垂らす。
ラメッタは目を瞑って、指をもう一方の手の指と指の間に入れるようにして手を合わせる。
それから水を剣に掛けた。
「斬撃が出るようになったわ。それと魔法や精霊などにも干渉して斬れるようになった。もちろん、使用者の魔力を吸いながらではあるが」
「そうか。試させろ」
「外に出ればいいじゃろ? 威力は想像以上だと思うの」
「ああ。ブラオン。お前も来い」
建物を出る。
人気のない通りで長のシュヴァルツは大剣を振った。
輪郭を帯びた黒い刃型が風を巻き込みながら飛び、遠くで砂埃のようなものが見えた。
「上物だな。お前の腕は確かだ。……どうした?」
「あー、力込めすぎかなってな。その、さっさと帰ろう!」
「何言ってるんだ、お前」
「あ、あれ」
ブラオンが指差す。
そこには剣を持って駆けてくる男たちがいた。
「貴様ああ! 俺たちの拠点に攻撃とは!」
他の組織の建物まで斬撃が飛んだようだ。
なお。
長のシュヴァルツが斬撃を放ち続けて敵組織は壊滅した。
死者が出なかったのは幸いだ。
シュヴァルツいわく力加減が分かったらしい。
敵組織の男たちは捕らえた。
「次は銃や弓も頼む」
「分かった。じゃが二つ約束しろ」
「少しなら聞こう」
「ピンチ以外で何者も殺すな。そして、わしに発明と開発、研究をさせろ。野郎どもは英雄になりたいじゃろ?」
「何を言っている?」
「わしがバオムを変える。大天才ラメッタ様がッ!」
シュヴァルツは無言で建物に戻った。
広間に着くと、シュヴァルツは床に座る。
「面白い」
「そうじゃろ。その前に水じゃ。臭くて美味しくない、危険じゃから。王国の水も一時期飲めないことがあった。国全体が乾くとろくに熱消毒もできない。貴重な水分を蒸発してしまうからの。昔は大変なこともあった」
「昔ってお前はガキだろ?」
「ガキはお前じゃろ。わしは七十八なのじゃ!」
「ガキ?」
シュヴァルツの眉が動く。
手の甲に血管が浮かび上がった。
「あ、ああ。ご、ごめんなさいなのじゃ」
ラメッタは涙で頬を濡らし、鼻水を風船のように膨らましながらシュヴァルツの手を包むように握った。
シュヴァルツの目が鋭くなる。
「まあいい。水をどうにかできるんだろ?」
「もちろん。今日中に」
ラメッタは涙を流したまま寝室へ戻った。
ブラオンが定期的に釜や薬草、魔物の角を持っていく。
「あはははは、きゃははははは」
部屋からはラメッタの高笑いや不気味な笑い声が聞こえたという。
それから。
ラメッタの手には透明なポッドが三つほどできていた。
「これじゃよ!」
「うるせえ!!」
ラメッタが叫ぶと、目を擦りながらブラオンが来た。
「夜中だぞ」
「ふむ」
「寝かせろよ。というかずっと作ってたのか?」
「もちろん。プロ魂じゃ。ただの水もいいんじゃが、果物はないか?」
「ない」
「木の実は?」
「小さいやつならな。赤いやつ、歯くらいの大きさだぞ」
「その方がちょうどいい」
「分かった」
ブラオンが持ってきた木の実を五つほどポッドに入れる。
そして、少し臭い水を注いだ。
「わし喉渇いた」
「俺もだ。ラメッタ、飲んでないんだよな? 俺たちが出した水は」
「懐かしい臭さ。今はお腹を壊すだろうからな。でもこれで大丈夫。美味い水はもちろん」
ポッドから容器に真っ赤な液体を注ぐ。
甘い香りが鼻孔をくすぐる。
ブラオンは口の中に唾液が染み出すのを感じた。
これは。
「飲め。これがわしのすごさじゃ」
「分かった」
ブラオンは目を閉じて容器を口元へ近づける。
ぐっと一気に飲み干した。
「甘い、なんだこれ。いくらでも飲める」
「じゃろ。わしは世界一の魔道具職人じゃからな」
「本当だな」
「そうじゃろそうじゃろ。じゃあわしも。うっま!」
「ああ」
「まだまだあるから」
「くれ」
「嬉しいの。孫がいたらこんな感じじゃろか」
「ガキのくせに」
「ガキはお前じゃろう!」
「チビのくせに」
「チビはお前じゃろ?」
「チビかどうかは身長だろ?」
「うぐ」
ラメッタは悔しそうに下唇を噛む。
「わしチビじゃない。チビじゃないもん……。ただの美少女やもん」
ブラオンは言い過ぎたと思って慰めようとしたが、その気は覚めてしまった。
魔道具職人ラメッタはこういうやつなのだ。
「自分で言うなよ」
「事実じゃ。美少女で成長したら傾国の美女じゃ」
ラメッタは相変わらずで。
ブラオンは呆れた表情でもう一杯飲むと部屋を出た。
翌日。
この飲み物はシュヴァルツを中心に気に入られて。
ラメッタは組織から信用を勝ち取るのだった。
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