7話 : 美少女(笑)な魔道具職人

「ほえ? わし、何をしておった?」

 

 ラメッタは目を覚ます。

 立ち上がろうとすると、枷を繋ぐ鎖が張ってしまう。


「そうじゃった」

「おい、お前」

「わし、ラメッタという名前がある。ぷいっ」


 ラメッタは頬を膨らませると、寝返りを打つようにして男の反対側を向いた。


「ラメッタ、一度枷を外す。これからお前の身元を確認して、どう国と交渉できるのか考えることになった」

「野蛮じゃない?」

「反抗しなければ」

「分かった。それより夕食食べたい」

「朝だぞ」

「ふぁ!」


 ラメッタはベッドに座る。

 目が泳いでいた。

 つまり。


「俺が叫んだら気絶して、一日眠っていたんだ」

「えー。わし、弱すぎん? それで寝てたの?」

「ああ。そうだ、ラメッタは魔法が使えるのか?」

「うむ、いい質問だ。使えぬ」

「俺はエデア王国の人間ほどではないがそれなり使えた」

「使えた? その言い方はまるで」

「つい最近のことだ。今は強力な魔法なら一回、弱い魔法なら三回。一日で使える魔法の限界だ。組織の人間はみんなそうみたいだ。……。ラメッタ、顔色が悪いな。強く拘束しすぎたか」

「そうじゃな、枷まで用意されると苦しくてな、あはははははは」


 ラメッタは死んだ目で乾いた笑みを浮かべる。

 つい最近『世界樹』を暴走させた、それが理由だろう。

 魔法を使えない原因がラメッタにあると知られたら?


「組織の力の低下は無視できないな」

「他の組織も力を落としているのではないか?」

「魔法弱体化の原因も分からない。他の組織だって、なんて楽観すぎる」

「そ、そうじゃなあ。慎重でいいと思う」


 男が枷を外すとラメッタは立ち上がった。

 痒くなった足首は赤く腫れてしまっている。


「行くぞ」

「うむ。手加減を熱望じゃ」


 広間に出る。

 床一面に灰色の絨毯が広がっている。

 ラメッタは足を踏み入れる。

 粗く編んであるため、長時間足を着けていると跡が付きそうだ。


「ほらよ、パンとスープ」

「ふむ」

「それと水だ」

「臭いの」

「これでも飲めるようにしている。初めてなら身体を壊すかもしれないが、直に慣れる」

「まずい」


 ラメッタは水を啜る。

 小さな舌をペロッと出した。

 ちょうど他の人たちもやって来て、ラメッタを値踏みするようにじっと見る。

 ラメッタは急いで舌をしまって戦慄している。


「嬢ちゃん、うちの水はまずいか?」

「むむむむむ、ものすごくおいしゅうございました」

「ラメッタ?」


 男は笑いを堪えていた。


「こいつらがうちの幹部たちだ。俺はシュヴァルツ、隣の筋肉だけが取り柄の男はヴァイス、そこの栄養が足りてない男がグリューン、お嬢ちゃんの隣の男はブラオン。お嬢ちゃんは」


 組織の長は葉巻を加えていた。

 煙が部屋全体に広がる。


「わしはラメッタ。先に言っておくぞ、わしは幼い少女じゃ。力はないし権力もない」

「ほう。だがバオムの国王と姫たちに呼ばれていたな。なんの用だ」

「魔王軍との前線に出る」

「お前が? 死ぬだろ」

「そうじゃな。わしを無事に返すつもりなどエデア王国にはない」

「政敵かなんかか?」

「わしは魔道具職人。どうやら優秀すぎた(ために製造した魔法薬が『世界樹』の暴走に繋がった)のがいけないようじゃ」

「そうか。魔道具職人か。その幼さで」

「わし、実は子供じゃないからの。その正体は、七十八歳の大人な女性じゃ!」


 場が固まった。

 一度七十八歳という話を聞いていたブラオンが「おい」と言っていたが、ラメッタはしたり顔、堂々と背筋を伸ばして長のシュヴァルツの言葉を待つ。


「何言ってるんだ、ガキのくせに」

「本当じゃ。なら、圧倒的な知識と技術を見せよう。魔道具のための道具は持っておるか?」

「使い方は分からないが一部持っている」

「そうか、そうか。なら持ってくるのじゃ。わしの、魔道具職人ラメッタのすごさを披露してやるわ」

「それはいい。嘘だったらどうするだろうな?」

「脅さなくとも良い。じゃあ、そうじゃな。見てもらいたい魔道具を見せよ。調整などしよう。それと」

「なんだ?」

「この絨毯も魔道具じゃな」


 長のシュヴァルツは口を手で押さえて笑い声をあげる。


「まさにそうだ。気に入った、交渉材料に使うなんぞもったいない。ラメッタに魔道具を見せるぞ、お前ら。魔道具の改良も新たに製造もできるよな」

「もちろん。最強の魔道具職人とは私のこと。それに見たことがある魔法薬も大体作れるぞ」

「それはいい。野郎ども急げ」

「「はい」」


 シュヴァルツはラメッタの目の前に来て胡坐をかいた。


「今、俺たちの組織は魔法が上手く使えなくなって大幅に戦力を失った。もし魔道具により戦力増強できれば仲間として歓迎しよう。ただし」

「なんじゃ?」

「調整の途中で逃げ出したり、想像以下の技術しかなければ獣の餌にでもするからな」

「しつこい男はモテぬぞ。わしは魔道具のプロじゃからな」


 ラメッタの前に剣や銃、弓、盾、甲冑などが並ぶ。

 手元には綿棒のようなもの、釜とスプーンがある。

 さらに薬草や木の枝、虫の死骸に、魔物の角まで。


「そういことじゃな」

「どうした?」

「元々魔道具職人がいた。とびきり優秀な」

「ああ」

「おぬしの仲間ってわけではない。商品を買わせておいてその後魔道具を作る商法をしていた。バオム国の経済力の衰えを察知して逃げていったわけか。ここに並ぶ魔道具は魔族と戦う威力を持つものは少ない。ほとんどが威力を抑えた分即時性に優れた対人間用。魔道具はこれくらいか」

「そうだ」

「武器ばかりじゃな。魔道具は元々生活を豊かにするものじゃが、こうも荒れた国では仕方ない」


 ラメッタは口角を上げる。

 目の前にいた華奢な少女が綿棒を手に取る。

 それから、銃身を優しく拭く。


「わしが大改造してやる」


 変化した態度に誰もが息を吞む。

 ラメッタは嬉しそうに微笑んでいた。





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