10話 : バオムの姫、語る

 ラメッタたちは城の大広間へやって来た。

 執事と従者たちが紅茶と焼き菓子を用意する。


「夜じゃぞ、太りやすいぞ」

「なら食わないのか」

「いや食べるが。わし、食べないなんて言っていないが!」


 席には三姫(長女ディーレ、次女ベリッヒ、末っ子チルカ)と、ラメッタ、クレーエンが座っている。

 幼いチルカは白目のまま頭を上下に揺らしている。

 こっくりを超えた睡魔が襲っているのだろう。

 ベリッヒは下を向いて湯気が出るカップを大事そうに持っている。

 ディーレはベリッヒとチルカを見て苦笑していた。


「あなたがラメッタ様ですね」

「いかにも、なの。わしがこの国を守るためにエアデ王国から参上した最強の魔道具職人じゃ」


 クレーエンはラメッタに耳打ちする。


「偉そうだな、おい。死刑囚(笑)の分際で」

「黙るのじゃ。姫様じゃぞ、まだまだ若いがしっかりしておる。死刑囚が来たとなれば、王国に見放されたも同然。悲しんでしまうんじゃぞ」

「それもそうか。どうする?」

「言わなければいいだけ。姫を悲しませたくないじゃろ?」

「どっちでもいいが?」

「おぬし、わしに狂乱科学者だの言っておらんかったか?」

「言ったが?」

「おぬし冷たい」

「この世界は弱肉強食だぞ。弱いのが悪い」

「お、おう」


 ラメッタは紅茶を飲む。

 があまりの苦さに、ぺろっと舌を出す。

 急いで焼き菓子を噛んだ。


「おいおい、角砂糖入れるつもりか? この国では大変貴重なものだが?」

「わしは大人じゃ。平均を取るとお姉さんだし必要ない」

「なんの平均だよ!」

「ところで、ディーレ姫はタイプじゃないのか?」

「話が飛びすぎだ」

「綺麗とは思うが、お姉さんというのはもっとこう。よしよし、みたいなものでな」

「クレーエンは甘えん坊さんじゃな。七十八、頑張ろうかの?」

「なんかゾッとした」

「わし、傾国の美女になるんじゃぞ」

「老いる薬を飲み続けるといいんだっけ。ポリポリ」


 クレーエンは焼き菓子を頬張る。

 サクサク感と噛めば噛むほどドライフルーツの深い甘みを感じる。


「違うわい! なんじゃ、老いる薬って。呪いを薄める薬じゃ」

「ふーん。疑問いいか?」

「少しならな」

「複数の呪いを受けた場合って呪いを薄める薬ってどうなるんだ?」

「良い質問じゃな。呪いが複数ある場合は軽い方が薄まる。厄介なのは強力な呪いだと二種類以上の呪いと判断されることがあるのじゃ。一方しか薄めることができないからの。そうじゃ、建設中の建物にて呪いを薄める薬を作るための原料を栽培する。わしのバッグの材料も使うがここでは調達できないので量産体制とはならないが」

「作るんだな」

「いつまでも子供はつまらんからの」

「そうか」

「そういうものじゃ」


 ラメッタとクレーエンはハッとして目の前の三姫を見た。

 久しぶりの再会ということもあって盛り上がってしまった。

 相変わらず末っ子のチルカは眠気と奮闘中だが。

 なお、ほぼ負けだと思われる。

 首を痛めないか心配である。

 ちなみに、次女ベリッヒは「私は逃げてもいい、私は逃げてもいい、私は逃げてもいい」と呪詛のように呟いている。

 長女ディーレというと。


「わ、私を無視して話すとは寂しいですわ。焼き菓子おかわりお願いします、じゅるり」


 頬を膨らませて怒っていた。

 お菓子はたくさん食べていたが。


「よく食べるのお。太ると思って控えるつもりじゃったが美味かった。姫よ、名前は」

「私はディーレ、こちらの次女がベリッヒ、寝てしまっている末っ子がチルカです」

「どっちがより食べられるか勝負したいのじゃ。せっかくの仲良くなる機会じゃからな」

「はい、じゅるり。じゅるり。私は負けません!」


 ディーレは頬を緩ませて涎を漏らしていた。


「ふ、面白い姫じゃな。全く」

「大食い勝負楽しみです。父が見たらはしたないって言うんでしょうね」


 ディーレの遠くを見るような目が儚げに見えた。

 ラメッタは紅茶を啜る。


「疑問じゃ」

「はい」

「父は、国王はどこじゃ」


 ラメッタの言葉を聞いて、クレーエンは急に立ち上がった。


「本当だ。どうして気づかなかった!」

「本当じゃよ」


 ラメッタが頷くと、クレーエンはゆっくり座る。


「ディーレ様」


 執事が間に入ろうとするとディーレは立ち上がって頭を下げた。


「ごめんなさい。父は、前線に行ったきりです。父である国王は国民の声を聞く方でした。しかし魔王軍との戦いが激化して、土壌が腐って、あらゆる問題を父のせいに。国民が意見を決める多数決制度のためにテロ組織ができてしまった。意見を多数派にするために集まった人間はやがて武力行使に。それからテロ組織が増えていって収拾がつかなくなって」


 ディーレは窓の向こうを眺めた。


「国民の不満が貴族へ。不十分な準備のまま貴族が前線に行き無事で済むはずがなく。父は責任を感じて前線へ、今はどこにいるかすら分かりません。この国はもはや力こそすべての国。どうしたらいいのか。組織の一つが私たち姫を嫁に差し出すように要求してきましたし」

「ふむ。大体の背景は分かった。国の外から入ってきたわしらを早々襲撃してきたのは、外の人間は金を持っているから、物資も持っているから、それに政府と繋がっているため交渉に使えるから、辺りかの」


 ラメッタの言葉を聞くと、ディーレは頷いた。

 ベリッヒはラメッタと目を合わせないようにして焼き菓子を食べる。


「わしが誘拐された一番の原因は国を治める力がないからじゃな。国王がいない以上三姫で治めるしかなかった。ならおぬしらの責任」

「おい、ラメッタ」


 クレーエンは強い口調で止めようとした。

 ラメッタは紅茶を飲み干すと立ち上がってディーレの元へ行く。

 執事が間に入ってきた。






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