2.これから
今まで書いてきたものは主に現代ドラマというか、舞台設定が現実に即したものだった。
でも初期の頃は、SFやファンタジーを書きたかった。
だが、そういった現実に即さない設定を持つ作品というものに慎重すぎた部分がある。
慎重さの原因。
要は設定が作れなかった。思いのままに作ると矛盾が多かった。
そして特に、SF・ファンタジーの類は既出作品の踏襲が必要だと考えたのもある。
温故知新というが、なんとなくそれが1番近い表現だ。
極端な例えだが、自分が新しいと思ったアイディアがもう100年前に出ている、なんてこともあったりする。自分の具体例はもう思い出せない。キリがないので忘れたのかもしれない。
例えば、
{ロボット}という語、その反乱というテーマをカレルチャペックが作り、アシモフがそれを防ぐためのロボット工学3原則を提唱した。
そういうことを知らなければ、超えられない。
もちろん、新しさに重きを置かなければそれでもいいのだが、踏襲して新しくしないと結局【いつものあのパターン】みたいに思われてしまう。
それでも【ベタなもの・王道】の方が強いところもあるのでこの塩梅は難しい。
要素の刷新を少しした上でリバイバル、つまり古い時代によくあったものを制作し、人気になることもある。ここらへんは、ファッションスタイルに似ているところだ。
ファンタジーも同様だがくどいので例示は割愛する。
大別してローファンタジーにハイファンタジーがある。西洋ファンタジーとして、原点(原典は翻訳や引用の元という意味なのできっと適さない)は、ギリシャ神話やローマ神和など。神話でなければ『指輪物語』とか。(僕は映画ですら飽きてしまったので、おそらく読むことはできないと思う。僕に取っては濃厚な味で受け付けないのかもしれない)
グリムやシャルルペロー、アンデルセンなどの作品も今ではモチーフになっている。もっとも、グリムやシャルルペローはヨーロッパの伝承の収集によるところがあるが、アンデルセンは彼自身の創作による。
そういったもの、今まであったものとの矛盾が作品にとってダメージを与える性質があるために慎重に進めようとする。
結論から言うとこの慎重な姿勢は、自動車のパーキングブレーキとなってしまった。動き出さないためのブレーキとして。
変な発進でぶつからなかったのはよかったのだが。これはもちろん比喩ではあるが、創作の世界も車の運転のように安全確認を怠ってはならない。事故を起こして炎上なんて、みんな避けたいだろう。
だから、基本的には現実に即したものを書いてきた。SFやファンタジーを書けなくても文章は書き続けなければならないと思った。
運良くも、文章の練習に、特に地の文の練習には、現実のものを書くのは適していたような気がする。
地の文に求められるのが説明ではなく描写だからこれを心がけた。
そのために、観察や理解が大切だった。ちょっとした体の動作さえ、一人の部屋で実際に動いて確かめた。
実際に作品には使わなかったが考察検証の例えとして、
〔この場から去ろうとしている人が自分に背をむけてから立ち去ろうとしている。主人公が右手でその人の右手、あるいは右肩をつかむとする。主人公、言い換えれば自分の足はどう動くのか?〕
とか。
考えただけでは本当に分からなかった。加えて、実際に動くと映像的に理解できた。多角に置かれたカメラを得たようだった。仮に文に出さなくともこの検証のおかげでストーリーの展開を考えやすくなった。
この検証のおかげで、動きが出たのだろう。右足を出すか左足を出すか。動きが違うので次に考えられる動きにも違いがあった。
こういう、大事なところを知ることができた。
そして。
現実に即した作品に対して飽きが出てきたのがこの頃である。
連載中の作品はちゃんと仕上げるが、これから新規に書く作品は挑戦も含めてSFやファンタジー(たぶんローファンタジー)を増やすだろう。
そうやって色々な物を少しづつ書くのだと思う。
作品のストックというか先送りにしていたもののリストがあるのだが、ファンタジーやSFがとても多いことに気がついた。
それを見て、
『そろそろ書いていいんじゃないか?』
と思えた。
心境が変わったのだ。
バランスという意味でもこれらを書くことは設定を作る能力や、いわゆる三幕構成の理解と実践という次の段階に移ったほうがいいだろう。
現実の問題として、プロットを書く能力は足りない。今までは、アドリブのような描写もよく使った。でもそれだけではこれからは通用しないだろうことも感じた。
慎重に書くことは間違いない。ゆっくり進めると思う。
その方がいい。その方が直しやすい。
早く書くことは、自分にとって、創作物の脆弱性に繋がることを、これまでの執筆から知った。
違うジャンルというのも作風に刺激を与えるだろうが、それでも日本語を大切にして書きたいと思っている。
今の状況を描写してみる。きっと、こうだ。
『まっさらな紙を用意した。気づけば、インクを取り換える時だった』
だから、色の違うインクを用意しているのだろう。
その色の違いを味わってみたいのだというのが、自分の気持ちであるのだろうから。
気づけば、インクを取り換える時だった 上月祈 かみづきいのり @Arikimi
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