21世紀(3)フィリップ・コンタミーヌ『シャルル七世』感想文後半

 第六章から第八章にかけて、シャルル七世による「フランス王国のレコンキスタ」の進捗と、使命の完遂までを取り上げる。


 第六章は、1435年に締結されたアラスの和約について。

 ブルゴーニュ公フィリップ善良公が、トロワ条約(シャルル七世を廃嫡した)以来のイングランドとの同盟を破棄。ヘンリー六世への支持をやめてシャルル七世に一本化した条約で、過去との決別を示すとともに、フランス王国が権威を取り戻すために不可欠だ。


 条約調印に至る前段階として、地政学的な背景と、ブルゴーニュ公がシャルル七世に大義があると認めるまでの経緯を掘り下げていく。


 第六章後半は、1435〜1436年のパリ包囲戦、奪還・入城へと続く。


 順調に進んでいるように見えるが、第七章の章タイトル「苦労の末の復興、脆弱な基盤」が示す通り、そう簡単ではない。


 フィリップ・コンタミーヌは、1440年から1449年にかけて、数々の困難にもかかわらず、自らの権威を主張し、手強い国外勢力や王国内の諸侯から承認を得ることができたシャルル七世の政治的手腕を強調している。


 イングランドに勝利するよりも困難だったのは、長い戦乱で土地財産を失い、生きるために武装した流れ者たち(彼らは英仏に関係なく国土を荒らしていた)に対処することだった。


 シャルル七世はパリを取り戻して入城したが、長くとどまることはなく、フランス各地を駆けずり回った。


 そのため、パリ市民は、せっかく降伏したのに定住しない、なじまない国王に失望してしまう。さらに、美しいアニエス・ソレルとの関係が、民衆の不満に拍車をかける。


 民衆の不満や憤慨、政治的な危機が何度もおとずれるが、シャルル七世の勢いが後退することはなく、第八章ではノルマンディー奪還、第一次・第二次ギュイエンヌ遠征を経て、カスティヨンの戦いで「フランス王国のレコンキスタ」は完成。


 コンタミーヌが、イントロダクションで述べた本書を執筆する理由は「シャルル七世がを明らかにする」だった。


 第八章で、シャルル七世の政治的役割は確かなものとなる。


 第九章から第十一章は、勝利王シャルル七世の「勝利の後」、権威が揺るぎないものとなった後半世と晩年を取り扱う。君主としての公的な姿ではなく、個人的な性格と私生活についてだ。

 女性関係、信仰心、生まれつきの性格、これらが権力の行使と結びついているとコンタミーヌは分析する。税制改革、外交政策、そして司法(ジャック・クールの裁判、アランソン公の裁判、ジャンヌ・ダルクの復権裁判)に、寡黙なシャルル七世の正義感が現れているという。


 第十一章は、イングランド以外の外国勢力との関係について。

 シャルル七世の対外政策から、政治的一貫性と、権力を行使するときの特徴を浮き彫りにする。


 それから、晩年のシャルル七世を悩ませた三つの問題も。

 ひとつめは、横暴な息子ルイ(ルイ十一世)との不仲、ふたつめはブルゴーニュ公との不安定な関係、みっつめはイングランドの脅威再燃(薔薇戦争勃発)である。


 いくつかの不安要素を残しながら、1461年7月22日に死去する。


 コンタミーヌは、悩み多きシャルル七世の「最後の悩み」と葬儀の様子について書きながら、「冷静さと正義、思慮深さと知恵」をもって平和を回復し統治した君主に対する、当時を生きたフランス人たちのを明らかにする。


 コンタミーヌの最後の本を締めくくる第十二章と第十三章では、シャルル七世が統治した時代全体を見渡しながら、国王を操り人形としか見ていなかった側近たちを見ていく。本当に操り人形だったのは誰なのか、人形たちが果たした役割とは……?


 コンタミーヌは誰かを責めるのではなく、この時代は一枚岩ではなかったことを強調する。


 1430年代半ばから1440年にかけて大きな転機が訪れたようで、シャルル七世は「助言者の意見を聞いて、自ら決断を下す」スタイルを確立し、自己主張を強めていった。


 結論では、15世紀当時の大衆向けの物語と、実際の人物像を比較しながら、長い間、歴史学によって軽んじられてきた国王の本当の姿を明らかにする。

 コンタミーヌは、シャルル七世の「個人的な性格」と「君主としての政策」はその経歴を通じて一貫していたことを証明した。


 読了後、本書のタイトルと副題『シャルル七世:ある人生、ある指針(Charles VII. Une vie, une politique)』を見返したときに、歴史家がこめた思いと亡き君主への弔意を実感できるだろう。





 感想文はここまで。


 余談になるが、コンタミーヌは、今見ている『歴史家たちのポジショントーク:暗君か名君か、矛盾だらけのシャルル七世』の19世紀編で登場したヴァレ・ド・ヴィリヴィルやガストン・ボークールが収集してまとめた著書を参考文献に挙げて、「何のためらいもなく自著で引用している」と告白している。


 なお、ヴィリヴィルの本は全三巻、ボークールの本は全六巻・3445ページ。

 広辞苑を超える超大作で、軽い気持ちで読める代物ではない……。


 対するコンタミーヌの本は570ページ。

 ヴィリヴィルやボークールの重すぎる情報量をコンパクトにまとめていて、だいぶ読みやすい。シャルル七世のネガティブな印象を払拭するのに最適な一冊だ。日本語翻訳版の刊行を心待ちにしている。








最後までお読みいただき、ありがとうございました。

あとがきを少し追加したいと考えてますが、一応今回で完結のつもりです。


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タイトルページはこちら。

https://kakuyomu.jp/works/16818093075033117831




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