19世紀半ば(2)アンリ・マルタンの『フランス史』

 経済学者のシスモンディから、歴史家のアンリ・マルタンに話を移そう。


 1833年、アンリ・マルタンは、ポール・ラクロワとともに、主要な歴史家たちによる『最古の時代から1830年7月までのフランス史(Histoire de France depuis les temps les plus reculés jusqu'en juillet 1830)』の刊行を始めた。


 このシリーズはマメ社から、in-18(In-dix-huit、名刺サイズ、およそ6×9cm)サイズで全40巻刊行する予定だったが、実際に出版されたのは最初の1巻だけだった。


 翌年、著者はこの企画を再始動させて、in-8°(in-octavo、八つ折り、文庫本の判型、14×21cm)サイズで刊行し、1834年から1836年にかけて16巻出版した。


 この『フランス史』シリーズの中で、著者のアンリ・マルタンは、「わがフランス史のもっとも暗い局面の中で、光明となる(道標の役割を果たしている)数多くの年代記作家たち」の後塵を拝するふりをしている。


 シャルル七世については、当初、次のような人物として描写されている。



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 軽薄な精神で、快楽(plaisirs)を愛好し、あらゆる疲労を恐れ、肉体的・精神的労働を嫌う。一般に嫌われている派閥の指導者たちに支配され、父の王国に残された遺産を守ることができなかった。

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 しかし、後半ではこうだ。



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 何事にも積極的に取り組む姿から察するに、シャルル七世は別人のようになった。彼はもはや、快楽(plaisirs)に没頭してフランスの解放者を死なせてしまった、利己的で怠惰な王子ではない。

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 著者アンリ・マルタンは、王を変貌させた功績について、「少なくとも部分的には」美しいアニエス・ソレルの影響であると仮定し、「低俗な王室の寵臣たちとは区別すべきだ」としている。


 最後に、著者は次のように締めくくっている。



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 王冠も剣もほとんど支えてくれなかった人物や、自分の力ではどうすることもできない状況に囲まれながら、自分自身の幸運を頼りにして、これほど輝かしい成功を収めた王子は他にいない。

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 今回紹介したアンリ・マルタンの『フランス史』は、続刊と改訂版が何度も刊行され、20年後に全面改稿した最終版では大きな炎上と論争を巻き起こすことになる。


 ここまでの本作において、大いに参考にしているガストン・ボークール著『シャルル七世の歴史(Histoire de Charles VII)』は、実は、このアンリ・マルタン著『フランス史』最終版に対する反論として書かれたものだ。


 しかし、この件はひとまず脇に置いて、年代順に歴史家たちの論考を追っていこう。






(※)ちなみに、ガストン・ボークール著『シャルル七世の歴史(Histoire de Charles VII)』(1881年刊)は全六巻、総ページ数3445ページに及ぶ超大作です。


あまりピンとこないと思うので例を挙げると、広辞苑・第七版(最新版)が過去最高の3212ページだそうで。


いわば、シャルル七世の項目だけで、があるということですね。拙作『7番目のシャルル』シリーズも長いですが、人生が濃すぎる……。



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