19世紀初頭(2)ブルゴーニュ派から見たシャルル七世

 自著の中で、『ブルゴーニュ公(Ducs de Bourgogne)』時代の記述を巧みに作品に取り込んだ著者のシャルル七世評を見てみよう。この著者は徹底して、文献ではなく叙述(ナラティブ)を完全再現しようと試みている。




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 フランス国王がこれほど国民を憤慨させたことは過去になかった。

 それは国中の嘆きであり、誰もが「非常に残念で、恥ずべきことだ」と言った。


 シャルル七世の治世はとても長く、さまざまな謎に満ちていた。

 私は、この治世のすべての状況を再現した。


 シャルル七世は「王国のもっとも美しい地域がイングランドに侵略されていること」、「イングランド王が実父シャルル六世の遺言を根拠にフランス王を名乗っていること」、「内戦が長年にわたって国を荒廃させ、王家を分裂させていること」、「国民が悲惨な状態にあること」を知った。


 貿易も耕作もなくなり、正義が失われ、森には人の財産も生命も顧みない山賊があふれ、戦争に参加した兵たちは山賊よりも邪悪になり、王の権力は破壊された。シャルル七世は、立派な偉人から凡人まですべての人から軽蔑されるようになった。


 シャルル七世はこの不運を、忍耐と優しさで耐え忍び、決して心を失わず、神の加護と臣下の武勇に頼っていた。


 そう、まさにがシャルル七世を助けたのだ。


 王の軍隊はいきなり活気を取り戻した。ラ・ピュセル(ジャンヌ・ダルク)の謁見を通して、王は「神の加護」の明らかな兆しを確信し、その努力に拍車をかけた。

 敵方は混乱しておびえ、無秩序と悪政によって、賢明な助言と秩序ある事業が奪われた。

 やがて、ブルゴーニュ公爵は同胞の長(フランス王)に戦争を仕掛けることに飽きた。シャルル七世とその助言者たちは、時代の必要に屈して、ブルゴーニュ公の誇りと野心を満足させるような手段でこの問題を処理した……。


 王国は一歩ずつ征服されていった。

 シャルル七世はみずから軍を率いることはなかったが、少なくとも勇敢で大胆な騎士であることを何度も示した。


 しかし、無秩序は続き、民衆の災難は増すばかりだった。

 戦争に駆り出された民は、敵味方に関係なく害をもたらした。


 この頃のシャルル七世は、その勇気と優しさにもかかわらず、臣民の心をつかむにはほど遠く、王の弱さ、怠慢、宮廷のスキャンダルは大きなざわめきを呼んだ。


 何度も助言者を変え、謀略や陰謀に翻弄され、助言に従順すぎる時代を経て、王は賢明な人々に囲まれていることに気づいた。臣下の助言と民衆のうめき声に耳を傾け、(既得権のために)不安定な情勢を維持しようとする諸侯に屈することなく、それらを鎮圧した。


 長い遅れと極度の困難がなければ、驚くべき軍事改革は行われなかっただろう。シャルル七世はあたかも新しい王国を治めるかのように君臨した……。


 王はまた、現実的な制裁によって教会分裂を終わらせ、教皇を尊重しながらフランスの聖職者の自由を確立した。

 財政はよりよく改善され、司法の運営に関する賢明な法令が公布された。


 フランスのどの王よりも強くなったシャルル七世は、イングランドを王国から追い出そうとした。

 そのとき、分断されて素行の悪い国民に対して、賢明でよく統率の取れた王国の力が、その栄光のすべてを明らかにした。新兵器を導入し、規律正しく報酬の整った軍隊を前進させるだけで、ノルマンディーとギュイエンヌを短期間で回復させることができたのである。


 王の武功による栄光は、その後、彼の民衆の利益に変わった。

 再征服の後、シャル七世は生涯最後の10年間、気高く賢明な統治をおこなった。


 シャルル七世ほど執念深くない人物は、他にいるだろうか。

 その治世の間、王は決して犯罪を思い出さなかった。


 しかし、王は正義が貫かれることを強く望んでいた。

 王族であろうと王国の法律にしたがって処罰され、領主の反乱は抑えられた。

 シャルル七世の実の息子でさえ、何の理由もなく王に逆らうことはできなかった。


 ブルゴーニュ公との平和は、もはや服従ではなく権力によって保たれていた。


 評議会(高等法院、Parlement)と司法官(Officiers de Justice)は、暴力と無秩序に対していつも毅然とした態度で臨んでいた。


 犯罪は、フィリップ公の領地(ブルゴーニュ)のように、領主の力で隠すことはできなくなった。また、犯罪の代行でいくつかの悪事が犯されたが、全体的に見れば、正義は彼らの復讐心と欲望を満たす手段とはならなかった……。


 そのため、シャルル七世が亡くなったとき、人々は過去を後悔し、未来への不安を感じて嘆き悲しんだ。王国中が、亡き王を讃える声でひとつになった。

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