第32話 結婚
それから時が経ち、あっという間に、大学生活は過ぎていく。
演劇部では最初は裏方として出る傍ら、名前のないモブの役をやった。
初めてのセリフは「この先に王都があるわよ」と、主人公に情報を教えるだけの役だ。
それと掛け持ちでセリフのない二つの役もやった。
セリフはあまり多くなかったけれど、他の新入生の人たちに比べたら恵まれていたと思う。
そして劇の本番、彼が来てくれて本当にうれしかったと同紙に緊張した。
下手な演技はできないと。
そこから、私たちは一緒に大学に通い、一緒に青春を過ごした。
劇の方でも、段々とメインの役を貰えるようになり、四年生の最後の劇では、主役級の役を貰えた。
就職も決まったし、楽しかった。
そしてまた月日がたち、大学を卒業した後、私は就職した。
その数年後、茂も医者になった。
そして、ある日茂の誘いでレストランへ行った。
「今日もお疲れ」
「うん」
今日は鳩さんや十和子も呼ぶかと言う話になったが、茂が二人きりで飲みたいと言ったから、そういう形になった。
茂とは同棲してるし、なんなのだろう。別に休日に行っても良くないと少しだけ思うが、まあ茂と飲めるのは楽しい事だ。
そして駅で待ち合わせをした。
「愛香。お待たせ、行こうか」
と、茂に声をかけられ、そのままレストランへと向かう。
そのレストランは高級な店で、一人四〇〇〇円程度必要だなと思うほどだった。
不安そうな顔をするとすぐに茂が「大丈夫俺が払うから」と言ったので、安心して色々と頼む。まずチャーハン、エビチリなどなどの料理を頼んだ。
頼み過ぎかなと思ったけど、茂も色々頼んでたので、まあ良いだろう。
そして料理が届いた。
「……美味しい……」
チャーハンを一口口に咥えた瞬間にそう呟いた。味も濃くなく、チャーハンそのものの味を引き出してる感じで、色々と乗ってる具材もしっかりとうるさくなく、尚且つ美味しい。食レポ力のない私にはこんな事しか言えないけど、美味しいことには変わらない。
「良かった」
そう、彼も微笑ましそうに私を見る。
「俺にもちょうだいよ」
「もちろんいくらでも食べて良いよ。美味しいから」
「ありがとう」
そして食事を楽しんだ後、
「話があるんだ」
と、真剣な顔をしてきた。
「俺はこの幸せをもっと強固な物にする方法を考えた。今のままでも幸せだ。でも、俺はお前と一緒に生活するだけじゃあ物足りなくなった。俺たち……結婚しないか?」
「……」
まさかプロポーズされるとは思わなかった。そりゃあ私たちは結構を前提にした付き合いではあるけども。
正直嬉しい。でも……
「茂のお父さんは……?」
気かがりなのは茂のお父さんの事だ。同棲だけでもギリギリだったのに結婚を認めてくれるかわからない。
「それは説得するさ。いざとなれば無理やり結婚すれば良い」
「わかった。結婚しよう。でも、ごめん。重要なプロジェクトがあるから少しだけ待って」
「分かった待つよ」
「ありがとう」
「でも一つだけ。ありがとうプロポーズしてくれて」
「……どういたしまして」
そして八ヶ月後、私達は見事結婚の日程を決めた。
茂のお父さんの許可はなんとか取れた。そもそも彼は反対する意思なんて無かったらしい。ただ、私の顔を見ると辛いからもう顔を出さないでと言っただけで。
結婚すると決まった時に、十和子や鳩さんたちに連絡した。鳩さんはもう茂が送ってたのかもしれないけど。
二人とも祝福してくれた。十和子にいたってはもうお祝いとしてご馳走するから来て欲しいと言われた。
「二人とも結婚おめでとう!!」
そう、二人からクラッカーを食らった。
「私たちまだ結婚はしてないから」
「でも、将来的にするってことだからいいじゃん」
「そうね、別にお祝いは早くにしたって悪いことはないもの」
そう言って二人はねーと言って、顔を合わせる。この二人がまさかこんなに仲良くなるなんて思っていなかったな。
「それにしてもようやくか。子のイチャイチャカップルが結婚するの」
「ちょっと、最近はイチャイチャそこまでしてないわよ」
まあ、そう言っても嘘にはなるけど。何しろ昨日疲れてた彼に膝枕してあげたし、そもそもお帰りのハグとかしちゃってるし。そもそも私たち一緒にお風呂入ってるし。これ、イチャイチャしてないとは言えないかもしれない。
「それより茂はまだなの?」
「うん。もうすぐ来ると思うけど」
「お邪魔します」
「あ、茂来た」
これで全員揃った。
「じゃあ、祝福会を開始したいと思いまーす!!」
と、その十和子の言葉で食事会が開始した。
「いやーこのいちゃいちゃカップルがついに結婚か」
と、鳩さんがしみじみとして感じで言った。
「別にそこまでいちゃいちゃしてないから」
そいちゃいちゃはしてない気がする。昨日の夜だって膝枕してあげたし、ハグももちろんしたし、うん。これくらいいちゃいちゃに入らないよね!
「嘘だー、絶対してるでしょー!」
十和子が言った。「してないから!」と強く否定しておく。
「まあそれは良いわ、とにかく結婚かー」
「結婚先はまだあげてないけどね」
「それは別に良いわよ」
「そういや茂は?」
「もう少しで来ると思う」
「お邪魔しまーす。お待たせ愛香!」
「あ! 茂」
と私は茂に抱き着いた。その時鳩さんが「やっぱりハグしてるじゃん」と呆れ気味に言ったが、私には一切聴こえない。そう言うふりをする。
「本当イチャイチャするの好きだよね」
十和子が言った。
「イチャイチャじゃないし!」
そして、ご飯を四人で食べる。
「おいしい!」
「でしょ。私と十和子で作ったの。良かった、美味しいって言ってもらえて」
「ありがとう、私たちのために」
「いいってそんなこと言わなくても」
そしてご飯を一通り食べ終わった後、
「発表があります」
と言った。私には彼女ら(茂を含む)に言ってなかったことがある。
本当は二人きりの時に言おうと思ってたけど、言うタイミングとしては今が最適だろう。
少しだけ言うのが怖いという点もある。もちろん全員祝福してくれるだろうけど。
さて、
「実は私おなかの中に赤ちゃんがいます」
「……え?」
早速茂が、同様の表情を見せる。その後に、鳩さんと十和子が、「えおめでとう!!」と言った。
「愛香、お前、子供出来ていたのか?」
「うん。実は今日の昼にわかって」
「なら先に行ってくれよ」
「後で言うつもりだったの」
「まあ、でもうれしいよ。これで名実ともに結婚だな。まあまだ結婚式は上げてないけど」
「そうだね」
その言葉を受けて嬉しくなる。
数日後には結婚式も挙げる。
私は幸せだ。
真にそう思った。
人生の先が見えなかった私が、自分の命を終わらせようとした私が今茂と結婚して、お腹の中に命が宿っている。
人生は捨てた物じゃないと思った。
それもこれもすべて茂がいるからだ。
茂がいるからだ。
そう思って茂に抱き着くと、「イチャイチャしないの」と、鳩さんに怒られた。
ああ、幸せだなあ。
絶望の果てに君に出会えた 有原優 @yurihara12
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