第31話 新入生歓迎会
そしてついに二人で住む家を契約した。
少しだけ学校には遠いが、それでも三〇分もかからない距離だ。
茂の父親の財力で、賃貸ではなく、一軒家に住めるのは感謝だ。
私たちの結婚も考えてくれたのか、六人くらい一緒に住めそうな大きな家だ。
「今日から新生活が始まるんだね」
「そうだ。いろいろと楽しみだな」
「うん!」
それから私たちは学校が始まるまでの間、一緒に暮らす。料理も交代で作ったり、一緒にデートしたり、幸せな生活が続いた。
そして、暫しの時が経ち、大学へ行く日が来た。
今日は入学式兼新入生歓迎会だ。
入学式が終わり、ホールから出て、大学に入る。
すると、周りの空気が変わる。
様々なサークルが新入生を狙い、私と茂を虎視眈々と狙っている。
「サッカー部どうですかー?」「一緒にコスプレしてみませんか?」「ソフトボールどうですか?」
「ラクロスいいですよ」「文芸部どうすか?」「一緒にバーベキューして仲を深めましょう」
「吹奏楽どうですか?」「オーケストラどうですか? バイオリン出来る人急募くま
うう、さっきから沢山話しかけられた。茂も沢山話しかけられている。
茂が追い払ってくれたからよかったけど、一人だったら延々と狙われるところだったよ。
そしてついに目的地である、映画研究会……ではなく演劇部のところにたどり着いた。
やはり茂はどうしても私に演劇部に入ってほしいようだ。
「では、演劇をしてもらいましょう」と、偉そうな男性一人が言った。
「ここでは、演劇部という事で、みんなの演技力によってキャストが決まります。我々は、裏方を欲してるわけではありません。見込みがなければ、入部させない決まりになってます。では、このセリフを呼んでください」
その台本は、どうやら、オリジナル台本らしかった。
その内容は恋愛だ。
その台本の書き手は、小説投稿サイトでそこそこの人気を誇っている人らしい。
ブクマ五〇〇を超えているらしい。
つまり台本は信用できるという説明を受けたのだ。
さて、
「これですね」
私は恐る恐る声に出す。
感情を込めなくては。
茂が見てるのだから。
「私は、貴方を愛してます。この世の誰よりもずっと。あなたと一緒に慣れるなら、すべてを捨て去る覚悟です。国も身分もお金もすべて。だから、あなたの旅に連れて行ってくれませんか?」
はあはあ、こんなセリフ初めてだよ。
「ふむ、及第点か」
きゅ、及第点。
「もっと君ならいけるはずだ。胸から声を出していうんだ」
なんか、演技指導が始まった。
「ほら、お腹に力を入れて!」
そして和退社彼のアドバイス通りにセリフを話す。
「私は、貴方を愛してます。この世の誰よりもずっと。あなたと一緒に慣れるなら、すべてを捨て去る覚悟です。国も身分もお金もすべて。だから、あなたの旅に連れて行ってくれませんか?」
もう一度同じセリフを。
「いいじゃないか。想像以上だよ。君な数年の間にネームドキャラを与えられそうだ。どうだ? 入ってみないか?」
熱量が上がった。私の演技がいいと思ったのだろうか。
「考えておきます……」
そしてその場を離れた。
ちなみにラインのオープンチャットには入ったので、練習日に見に行くことなどは出来るようにはなっている。
そして次は映画研究会だ。っとその前に……
「茂は部活を見に行かなくて良いの?」
茂がどこの部活に入りたいかとかは全く聞いていない。
私主体で楽しんでいる尾は申し訳ない気が……
「いいんだよ。俺は医学部だからさ、講義場所も少し違うところになるだろうし、忙しいだろうからさ」
それに、愛香の楽しい姿を見たいしさと言って笑う茂。
まあ、確かに演劇部は茂が演技する私が見たいからだったけど。
「じゃあ、行こう」
そして映画研究会を見に行く。
そこの部活内容を部員から聞くが、なんというかアットホームだ。
みんなで洋画の話をしている。
どれも有名どころの映画で見たこともある。
ミッションインポッシブルや、スターウォーズ、ヘアスプレー、アニーなど様々な映画の話をしていた。
これなら楽しそうかもと一瞬思ったけど。
「なんか違う気がする……」
私の求めているのはここにはない気がした。そもそも私が興味があるの、日本の映画だし。
それも、恋愛映画だ。
ここの話を聞いていると、どちらかというと、アクション映画が多いイメージがあった。
「じゃあ、演劇部か?」
「勝手に決めないでよ」
「はは、悪い」
そして、その後も、コーラス部、アニメ研究会、フランス料理研究会、欧州歴史研究会、アイドルアニメ同好会などがあったが、どれもパッとしない。
「なら、演劇部で決まりだな」
そう茂が言う。もう私にも演劇部以外の選択肢はなかった。
そして私の新しい部活は演劇部に決まった。
その後も部活を決めるという本来の目的は達成したが、スタンプラリーの残りが埋まっていないという事で、近くにあった将棋部を見に行った。
そこでは数名のメガネ男子が将棋を指していた。
スタンプラリーは、一応もらい逃げなどができないように、ある程度の話を聞かなくてはいけないようになっている、
「茂って、将棋とか興味あるの?」
「いや、ニュースで言われている渡部八冠のことくらいしか知らない」
「そっか」
私もそんなところだ。ちなみに渡部八冠というのは、現役最強と言われている棋士で、私でさえ知っている人だ。
「茂は将棋部に入ってみたら? そこまで厳しい部活でもなさそうだし」
医学部はいりながらでも行けそうな緩さと見える。
「まあ、話だけ聞いてみるか」
そして茂は向こうに行く。
「それで、これは」
説明を聞く茂。本気で聞いている。
そして、いよいよ茂が将棋を指し始めた。
なんとなく様になっている気がする。ああ、イケメンだな。と、そう感じた。
「どうだった?」
戻ってきた茂に訊くと、帰ってきた答えは「まあまあだな」だった。
「俺は部活は無しだなと思った」
「そう? 楽しいかもしれないよ」
「それだったら俺は演劇部に入る」
「そう」
将棋部哀れなり……
茂は、私と一緒の部活に入りたかっただけなのだろうけど。茂は演劇部なんて忙しい部活に入る暇はない。
だが、形だけでも私と同じ部活に入りたいらしくて、裏方として参加が決定した。
こうして私たちの大学生活は始まりを迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます