不完全

 海は今日も穏やかに、包み込むように、優しく揺れている。今年も見事に散った桜の花びらを一枚手に取った時、とても細かい雨が私の頬を濡らした。

前にもこんなことあったっけ。

儚い花びらたちを見つめ

「明日にはもういないんだね。」

ちょっとだけ悔しくなった。

浜辺をゆっくり歩いているとふと笑い声が聞こえる。そこにはあの日の私たちがいるのだろうか。

「冷た。」

徐々に大粒になってきた。やはりこの雨で今年の花びらたちもすべていなくなってしまうのだろう。

けれど、それでも、もう雨は気にならなかった。

 

"不完全な私たち、ありがとう。"

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不完全 @zks2q9

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