第6話

 翌朝、目を覚ました戌亥の腕の中には変わらず彼女がいた。「おい、起きろよ」彼はそういって彼女を起こすことにした。彼女は眠たそうな目をこすりつつ、ゆっくりと体を起こした。


「んー・・・おはようー」まだ寝ぼけているのだろうか?彼女は、目の前の戌亥に、「あったかーい」といって戌亥の胸に頭をぐりぐりと押し付けた。

 彼女の行動に対して、戌亥は、ゆっくりを抱きしめた。しばらくすると、彼女はようやく目が覚めたようで、少し照れながら離れた。


「えへへーごめんねー。ついやっちゃったよー」彼女はそういいつつ笑っていた。


 二人は朝食を摂ることにした。メニューはトーストと目玉焼きだった。二人で向かい合って食べ始めたが、彼女が急に何かを思い出したかのように話し始めた。


「そういえば、昨日さ。私と戌亥君は一夜とともにした仲になったわけだよね?」彼女が切り出した話題は意外にもそんな内容だった。


「誤解を招きそうだが、そうなるな」彼もそう答えた。


「じゃあさ!私を恋人にしてよ!」彼女はそんなことを言い出した。


戌亥はその言葉にデジャブを感じた。そして、今回も同じように答えることにした。


「分かった。月島」戌亥は、一息入れて言葉を続けた。「俺は、お前のことが好きだ。ずっと一緒にいような。」彼のその言葉を聞くと、彼女はうれしそうに微笑んだ。


「やったー!」そういうと彼女は飛び跳ねるようにして喜んだ。そんな彼女の様子を見ながらも、戌亥はあることを聞いてみることにした。


「なあ、月島、どうしてそんなに積極的なんだ?」彼は何となく答えがわかる質問を彼女へした。


 彼女は、それを聞くと少し考えた後、答えた。「それはね・・・。もう一人の私と戌亥君が婚約していると知って、私もがんばらなきゃと思ったんだよ!」


「そ、そうか・・・」戌亥は、もう一人の月島と同じような答えを聞いて、彼女はどの世界でも変わらない、と感じた。


「そういえばさ、もう一人の私ってどんな感じだった?」彼女はふとそんなことを聞いてきたので、戌亥は昨日のことを思い出しつつ答えた。


「ああ・・・そうだな・・・。外見も性格も考え方も、まったく一緒だ。何も変わらない。」彼はそう答えた。


「そっかー、じゃあ、もう一つの性格の私っていう感じでもないんだね。」彼女はそんなことを言っていた。時間を見ると遅刻しそうな時間だった。


「あっ、そろそろ学校にいかないと」戌亥は、そういった。


「えっ戌亥君。今日は土曜日だよ?」「えっ」戌亥は、そこで考え出した。いや、そんな馬鹿な。


 戌亥は、テレビをつけてみた。土曜日の放送が流れていた。スマートフォンの日時も、確認すると土曜日を示していた。ただ、よくよく考えてみると、昨日は金曜日で矛盾はない。


 ただ、自分が、もう一人の月島とあっていた日は、今からすれば来週の月曜日だった。だから、戌亥は昨日を、来週火曜日と勝手に勘違いしていたのだ。


 しかし、現状が正しく、戌亥の記憶が正しいのだとすれば、戌亥は、来週火曜日から、先週の金曜日に戻って、昨日から一緒にずっと今の月島といたことになる。過去に戻るとは、なんとも不思議なことだった。


 少し考えた戌亥は解釈を思いつく。例えば、先週の金曜日は、本来は月島が失踪した日だったが、黒いダイスが割れたことによって、その日に戌亥が戻り、神隠しはなかったことになった。


 戌亥は、他にもいろいろとつじつまを合わせようと考えてしまったが、すべては、戌亥が知りようもないことだ、と結論が出てしまう。


 日付の確認をした後に、黙り込んだ戌亥を見て、月島は心配そうな様子でこちらを見ていた。


「月島、異世界のことで話したいことがある。」戌亥は、彼女へ、この不思議な現象を話すことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月島 由依は、裏世界で待っている 速水静香 @fdtwete45

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ