第24話 プロムクィーン

 プロムまでの学校生活は、ドレス選びやメイクの練習で楽しく過ぎていった。

 パンデミックの影響は続いていたが、行動制限はなくなっていたので、課外活動やボランティアは行われていた。

 広場でのダンスバトルは、今でも続いていてSNSでも再生回数が増えていた。

 今ではパンデミック前のように、観光名所に戻っていた。

 もう梨花は見学はしても、踊りでの参加はしなくなっていた。

 アリーナはジュリアード音楽大学院の舞踊部門に入学が決まったと、メールで知らせて来た。

 アレクセイというロシア人のボーイフレンドができてたとメールに書いてあった。

 最近の2人は、戦争からアメリカに逃れてきた人達のサポートを務めている事もあり忙しく、ここには来ていないようだった。

 不幸な事に、まだロシアとウクライナの戦争は続いていた。

 

 プロムパーティの主催は学校なので、会場は体育館でおこなわる。

 準備と片付けは父兄がするので、スナックとソフトドリンクが出るだけだ。

 パーティーのメインイベントは、プロムクィーンとキングが選ばれる時だ。

 プロムの当日3人は、梨花の家に集まった。

 母親の沙羅も当日は仕事を休んで、梨花達の手伝いをした。

 祖母の真知子はビデオカメラで、その様子を撮影している。

「今日は、みんな凄くきれいよ。美樹の時と同じように、2人の孫のプロムに立ち会えるなんてすばらしい事だわ」

 父親の真は会場でバンドとして、ライブの演奏をする事になっているので、

朝から機材の搬入と、セッティングで学校に行っていた。

 梨花は薄いピンク色で、生地がタフタの肩紐がないミニスドレス。

 スカートは張りのあるバルーンスカートで、バラの花びらのようになっていた。

 これはバービー人形を意識した、キュートなドレスだ。

 髪は前髪をポンパドールにして、再度の下ろした髪は外巻きの60年代風にした。       

 アクセサリーは、スワロスキーのきらきらと光ゴージャスな物を身につけた。

 マリアは、真紅の背中の大きく開いたマ―メイドラインのロングドレスで、髪は高い位置のアップスタイルにした。

 アクセサリーはシルバーの長いラリネットをつけた。

 リムは水色とイエローを重ねた、トラペーズラインのシフォン素材のフルレングスのドレスだ。

 アクセサリーはゴールドの繊細な物を選び、髪は緩いウエーブヘアにした。

 3人は身支度ができ上がると、リムジンが迎えに来た。

 リムジンからは、ジェフとリムとマリアのペアの相手が出てきた。

 女子達3人が車に乗り込む前に、ブートニアを男子の襟につける。

 男子はコサージュを、ペアになる相手の女性の手首につけた。 

 互いの相手のドレスの色に合わせた、ネクタイをした男子はいつものやんちゃな格好とは違い、今日はとても紳士にみえた。

6人を乗せたリムジンは、ホテルに向かった。

ブルックリン橋が見えるレストランで、食事をしてから会場に向かった。

 

 そこには、煌びやかに着飾ったシニアの生徒達が大勢いた。

 彼らはそれぞれ仲の良い子たちと、記念写真を取りあっていた。

 その中には、アリーナがボーイフレンドと一緒にいた。

 アイスブルー色のサテンのフォルターネックのロングドレスは、金髪で白い肌のアリーナを一層引き立てていた。

 

 皆は暫くおしゃべりを楽しんでいたが、サックスの音が響き始めると踊り始めた。

 長いダンスタイムの後は、今日のメインイベントのプロムクィーンとキングの投票結果が発表された。

 皆は一体誰がなるのかと、かたずをのんでその瞬間を待っていた。

 まずクィーンが先に呼ばれ,その後にキングが呼ばれた。

 その瞬間、会場がどよめき拍手と喝采が起こった。

 クイーンはアリーナで、キングはそのボーイフレンドのアレクセイだ。

 アリーナと同じく、両親はウクライナ人とロシア人だ。

 アレクセイはチャリティライブにも参加して、コサックダンスを踊ってくれたダンサーだ。 

 2人が違うのは、アリーナはアメリカで生れ、アレクセイは子供の頃に両親の仕事の関係でアメリカに移住してきたので、アメリカ国籍でないことだ。

 プロムのフィナーレは、クィーンとキングでそれぞれのペアでダンスをすることになっている。

 今回は2人がペアなので、そのまま踊ることになった。

 2人のダンスはワルツやクイックステップの社交ダンスと、ヒップホップを盛り込んだ圧巻のパフォーマンスだった。

 踊り終わると、ブラボーとアンコールの声に包まれた。

 梨花達は、2人の所へ祝福に行った。

「アリーナ、アレクセイ、二人共おめでとう。素晴らしいわ」

 アリーナは選ばれたことに、涙ぐんでいた。

「ありがとう、みんなのおかげよ。梨花のドレス、とても似合っているわ。リムも素敵だし、マリアのドレスもセクシーでいいわ。ジェフも一緒に来れてよかった」

 涙を拭いて皆に微笑みながら、アリーナは選ばれたことのへの感謝の気持ちを伝えた。

「褒めてもらって嬉しいわ。あなた達2人も、よく頑張ったわね」

 アリーナは、アレクセイの手を強く握って、お互いを見つめ合い頷いた。

「梨花の家族には、とても励まされたわ。パパは、とりわけお祖父さんの話に深く感銘を受けていたわ」

「グランパが聞いたら凄く喜ぶわ。日本古来の仏教精神には『困った時にはお互い様、良くなった時にはお陰様で』という互助の精神があるの」

「それは、素晴らしいわ。アレクセイもわたしと同じく辛い立場だったから、キングに選ばれたのは信じられないくらいに驚いたわ」

 梨花とアリーナは、抱き合って頬にキスをした。

「大変な4年間だったけど、良い思い出もいっぱいできたし、何よりもあなたたち3人と、知り合えたことが一番よかったわ。大学は違うけど、同じブルックリンに住んでいるから、また会えるわよね」

「もちろんよ、これからも、ずっと友達よ」

 梨花、リム、マリアの3人と頷いてアリーナはそれぞれ抱き合った。

「ありがとう、うれしいわ」

 梨花とアリーナは手を取り合った。

「ねえ、みんなで円陣を組んで誓おうよ」

 ジェフが提案した。

 その後8人は肩を組んで丸くなり、円陣を作った。

「輝かしい未来と、世界が平和になるように。オー」

 そう叫んで拳を上げた。

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ニューヨーク・カースト 綾風 凛 @kuzuhahime

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