最終話 それでも僕は生きてゆく(改稿)

 晴くんへ

こんにちは。お父さんです。この間は電話をくれてありがとう。ラインを聞いてすごく連絡を取りやすくなりました。嫌じゃなかったかな?

今週の日曜日、池田霊園で待っています。

          

お父さんからぎこちないラインが来た。普段から使っているはずなのになんだかおじいちゃんみたいな文章で緊張する。

僕は隣町へ来ていた。お母さんのお墓参りのために電車で一時間かけてやってきている。

この前の事務所も同じ町にあったはずなのに一時間という時間の感じ方がまるで違う。この間は長い。今回は短く思える。

 時間の感じ方は人によって違うというけれど、僕は同じ人間なはずなのにどうしてこんなにも違うのだろう。大人はみんなこの一年早かったというし、年を重ねるごとに時間の感覚は変わっていくものだと思っていた。気持ちの問題なのかどうなのか自問自答しながらお墓へと向かう。

 父さんが霊園の入り口で待ってくれていた。この霊園は墓を世話できる人、頼れる日がいないための霊園らしい。おびただしい数の人の名前が眼前に広がっている。墓石の数の多さになんだか悲しくなる。

おーい聞こえてるかと目の前の若い青年が手を振ってきた。

 「ごめんなさい。少しボーっとしてしまって」

 「いや、俺も初めて来たときは驚いたからさ。こんなにも人と繋がれない人がいるなんて」

「そうですよね。僕もびっくりしてしまいました。だってこんなにも人が」

お父さんは少し寂しそうな顔をしている。僕と同じ気持ちなのかもしれない。

「じゃあ行こうか」

父さんは小高い丘の上にあるお母さんの墓を教えてくれた。

 潮﨑家

墓石の文字を見て母さんはどんな気持ちでいたのか想像した。自分でこの墓を買ったのだろう。両親との縁は切ったと宮永先生から聞いていたし。きっと家族のお墓に入れてもらえないって考えたのかな。一度人の温もりを知った人がこの選択をするのはあまりにも悲しいことだ。だって自ら人と縁を切りたいなんていない。と、一人で感傷的になってしまった。横で祈っているお父さん。癖毛なところが僕と一緒だ。似ている部分が見つかって心が温かくなる。

「晴君。今日は来てくれてありがとう。嬉しいよ」

「いいえ。僕も来たかったので。あのお父さん・・・」

「ん?」

「僕、これであなたに会うのは最後にしたんです」

「どうして?やっと出会えたのに」

父さんはさっきまでの落ち着いた顔から怪訝な顔つき変わった。ひるむな。分かってくれるはずだ。

「僕、分かったんです。この一週間僕は何で僕であるか、僕が選ばれたのかずっとこの答えを探していたんです」

「それで?答えが見つかったのか?」

「はい。でもこの答えは年月を重ねれば変わると思います。だからその時はまたお父さんに会いたいです」

お母さんとお父さんのことが知れて僕は結局今の家族が家族だと認識することができた。でも、お母さんとお父さんも家族だ。僕はこの二人がいなかったら今の家族に出会うこともなかったのだから。僕の家族は凸凹で、僕自身も凸凹で。僕は僕だから選ばれたんだと今の僕にはこの答えしか出せない。

 お父さんが空を見上げる。僕もまた空を見あげる。

 “じゃあね、お母さん。いつかきっとこの答えを教えに行くから“






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誰でもいいから僕が選ばれた 涼野京子 @Ive_suzun9

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