怖いまんじゅう

 玄関先に紙袋が掛かっていた。中にはラップで巻かれたまんじゅうが一つだけ入っていた。両親や姉に確認をとったが、どうやら心当たりはないらしい。

 今から3ヶ月前、このアパートでは痛ましい事件が起ったため、住人は苦学生である自分だけである。家賃を安くしてもらう代わりに、自分は残ることとなった。事故のあった部屋の捜査が終わり次第、僕はその部屋も名義上借りる代わりに、家賃はほぼ大家さんが補填してくれている。

 事件現場である一階のその部屋にはお供え物が置かれることは今もあるが、僕は二階のその部屋とちょうど反対の部屋に昔から住んでいた。間違えて置いていくことはない、誰かが気を利かせてお供えついでに置いて行ってくれたのかもしれないと考えた。今すぐに食べる気にはなれないが、食料として確保して冷蔵しておくことにした。


 食料がそこを尽きていることに気づいたのは翌日の夜だった。朝は食べないし、昼はバイトの賄いで済ませるのが習慣だった。給料日前、財布の中はそこをつき、銀行へ向かったが、今日は生憎祝日で銀行が閉まっていた。今あるのは玄関先のドアノブにかかっていたまんじゅうだけだった。

 深夜までは水で耐えたものの腹が減り、ついに食欲に負け、まんじゅうのラップを外して、食べていた。腐ってはいなかった、至って平凡なまんじゅうだった、中には白餡が入っていた。腹が減っていたので1分も経たないうちに食べてしまった。食欲が少しだけ満たされた僕は深い眠りに落ちていた。


 翌日、バイト終わりに弁当を買い帰ると、またまんじゅうがかかっていた。弁当を食べ終わった後に、そのまんじゅうを食らった。今度は躊躇いはなかった。今日の紙袋にはまんじゅうは2個入っていた。2個とも食べ終わると深い眠りに落ちた。


 翌日も、翌々日も、同じことが起きた。まんじゅうの個数は増えていった。


 朝出かけようとすると、まんじゅうが入った紙袋が玄関のドアにかかっていた。そのまんじゅうを食べてから出かけようと、思っていたが、食べ終わると僕は眠ってしまった。昼に起き玄関を見に行くと、またまんじゅうがかかっていた。食べた。夜も同じことをした。そんな日々が続いていた。


 僕が発見されたのは倒れた、3日後のことだった。血糖値に異常になり、倒れてしまっていたらしい。今思い返すと、どこから来たのか、何が入っているかわからないまんじゅうをよく食べていたものだなと思った。


 無事、明日の朝に退院が決まった。その日の夜の病院食にまんじゅうがでた。

「まんじゅう好物なんですよね」

看護師は言った。

「今はもう、まんじゅうがこわいんだ」

僕はまんじゅうをすぐさま手にとり食べた。

「だから、早く食わないと」

「なら、食べなければいいのに」

看護師は笑った。




 

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短編集 黛 美影 @midorineko

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