短編集
黛 美影
かの女
彼はバンドマンだった。いや、バンドマンの彼氏がいたというのが正しいだろうか。私はついさっき、別れることになった。別れ話を切り出したのは私だったのにさんざん泣いてしまった。今日は何をする気にもなれなくて、メイクを落とさずベッドに入ったものの、頭が帰って冴えてしまっていた。
彼は真面目だ。音楽に対して。その代わり、バイトを全然しなかった。でも、ギャンブルをするわけでもなかったし、私がお金を渡すことがあっても、彼からお金をくれと言い出す事はなく、お金がないときはご飯を食べさせてくれや弁当を作ってくれと言うのが彼だった。彼はとある大学を卒業し、ものの3年で武道館公演も勤めるほどになり、最近は外食は決まって、彼がお金を大体出してくるる。家賃などの生活は半々になり、今年の誕生日プレゼントはブランドバッグだった。彼はお酒は多くて3杯までと言うルールを決めているらしく、彼が3杯以上飲む事はない。暴れてしまうのが怖いと言う理由らしい。彼は家でのルールはなるべく守るようにしてくれるし(ルール自体を忘れた事はあった)、彼自身ミュージシャンとして、楽器は午前中に練習し、午後はデモ曲を作ると言うルーティンを守っている。
彼のデモ曲が好きだ。理由は彼の歌声がはいっているから。バンドでは2人のギターボーカルが彼の作った曲を歌う。男女のツインギターボーカルで、コーラスも大体その2人がやる。最近はマイクを用意できるようになり、彼もコーラスをやるようになったが、バンドが始まった頃は用意するのにかかるお金が無駄だから、と2つのボーカルマイクがギターボーカルの前に用意されているのだった。彼の歌声は私は好きだったが、ギターボーカルの2人の方が上手い。カラオケの点数も彼は低い。しかし、彼の作った曲の歌に関しては、彼の歌声が1番だ。歌詞を理解しているからか、1番曲を表しているのは絶対に彼だと思う。
彼が一度週刊誌に載った事があった。2人と熱愛報道とあったので、どちらでもない私は激昂し追求した。しかし、記事をよく読むと1人はギターボーカルの女の子との写真だった。その後記者会見で彼のことをどう思うかと言う質問に対し、彼女さんは不安かもしれないけど、恋愛対象としては生理的に受け付けないから安心してと言い放ったのだった。この答え方はかなり棘があったので、彼にそこまで言う必要はないんじゃないかと言う声もあったが、紅一点だから俺らの彼女に浮気を疑われり、俺らと噂されたりするんだよ。嫌気がさすのは無理もないし、大事なバンドメンバーだからあんまり悪く言わないでくれ、と擁護した。ただ、彼女の家に打ち合わせに行く時の写真だったらしい。しかも、バンドメンバーのあと2人やマネージャーもいて、次のライブハウスが最も近いあの家で打ち合わせをしただけと言う話らしい。
問題はもうひとりの女の子だった。大学の同級生らしく、私は大学卒業後に知り合ったのでより強い繋がりがあるのではないかと思った。だから、ギターボーカルの女の子も記者会見が終わるまではそちらの方がお似合いなんじゃないかと少しくらい思ってしまったのだった。私は週刊誌から彼女の電話番号を聞いていたので私は連絡して、会う約束をした。
私は彼女に彼とは別れたわ。といった。
その言葉の意味は私には分からなかった。「彼とは別れたわ」と言われてもと思った。だって、彼とは大学から付き合い初めたし、彼に以前に彼女はいなかった。これが本当かは分からないが、彼に浮気をする暇がない事くらいは私は知っていた。私は彼と同居しているからわかる事だが、彼は基本的家で外出せず音楽を作ったり、演奏の練習をしたりする。前にいる女は「応援してるわ」と言った。良い人なのだろうか?誰なのだろうか?
私はカフェで彼女の困惑した様子と警戒している様子を見て悪いことをしてしまったと思う。彼女はスタイルが良く。お人形のような女の子だった。彼にとってもお似合いだと思った。彼女に「応援してるわ。私帰るわね」
私は彼に彼女の名前を知っているか聞こうとした。浮気を本当にしていたのではないかと思い、なかなか切り出せずにいた。ライブの準備をリビングで始めた時に、ニュースに今日あった彼女が出てきた。週刊誌を脅した女として。答える週刊誌側もどうかと思うが。彼にこの人知ってる?と尋ねる。彼はもちろん知らなかった。誰かわからない人と会うのは迂闊だったなと思う。と言うか、女性ボーカルの方の声だと思ってしまっていた。あの子と電話番号交換しとかないとな。履歴から捕まった彼女の電話番号をブロックし、彼に新しい携帯をねだり引っ越しを提案した。
「いいよ。さんざん、助けてもらってきたし、携帯は月曜にはいけるかな。引越しは先になるかもしれないけど」
「いや、早い方がいいわ。私が良い物件探しとくね」
「安くて良い物件を頼む。今度は家賃とか全部払えると思うから」
「あと今度バンドメンバー紹介してよ」
「いいけど、それで別れたら顔が立たないから、ずっと一緒にいてね」
「...っっ」
恥ずかしくて声が出なくなってしまう。
「ありがとう。ライブ頑張ってね」
私は彼に口付けをした。
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