7月第2週 汚物は消毒だ~!!

『シノン レ・テラス

 2017

 ベアトリス・エ・パスカル・ランベール』


 実は神の血シリーズ第1作に登場したワインである。


 かつてフランスへとワイン修行の旅に行った時にブドウだけ収穫したワイナリーのものだ。

 とある事情、例のクラウドファンディグの限定ワインが中途半端に残ってしまい、ワインセラーのスペースが逼迫されて放出された1本だ。

 僕自身が行った年ではないので、ここで開けても良いだろう。

 

 ワインの説明は『神の血に溺れる』第一部第三章シノン ベアトリス・エ・パスカル・ランベールを参照してもらいたい。

https://kakuyomu.jp/works/16816452221215702293/episodes/16816700428500009601


 前回開けた日から3年近く経っており、良い感じで熟成が進んでいた。

 溌剌とした若さ溢れるフルーティーさがまとまったように落ち着き、ジューシーさと深みが増したように思える。

 最近はどうかは知らないが、本来の30代男性のように活力と経験値が同居した脂ののっている時期だと思われる。


 つまり、一言で現すと『美味い』


『鶏もも肉のカツレツ』


 急を要する作業は一段落したとはいえ、まだまだやることは山積みだ。

 出来合いのものを買ってきて油で揚げるだけの簡単調理で済ませよう。

 ガーリック醤油味とシンプルながら体力回復を増進させてくれることを期待しよう。


 実食はしてみるが、このままの味付けでは物足りないのでマヨネーズと粉末パセリを振りかけてもう一捻りしてみる。


 うむ、これならば悪くなかろうと咀嚼する。


 そしてワインと合わせる。


 悪くはないが、ワインが思っていたよりも力強さがあったので少しアテの方が物足りないかな?

 牛の赤身ぐらい強めの肉の方がより良い組み合わせになっていたかもしれない。


 だが、これもまた生きる糧となる。

 食べる喜びと飲む喜び、これらを味わうだけでも魂の安寧となり明日への活力となるのだ。


 完璧なものばかりを摂取することもまた人間性の欠如になるだろうと考える。

 成功することの甘美さ、失敗することの辛酸、人間として熟成していくには様々な経験が必要だろうと思う。

 自らの五感で体感することによって、良し悪しの基準を本当の意味で知ることができるのだ。


☆☆☆


 この週は先週からの天気予報通り、これまでの少雨が嘘のようにひたすら雨ばかりであった。

 梅雨本番といったような天候である。


 大雨すぎて畑に出れない日は休み、ではなく溜まりに溜まった事務作業を行う。


 まずは5月後半から溜まりまくった領収書やカード決済のオンライン明細書を整理し、帳簿に数字を入力していく。

 本当はもっと小まめにやっていれば楽な作業であるが、農繁期にそんな余裕はない。


 そうして入力が終われば、就農報告書なるものを作成する。


 この報告書は国や自治体によって農業者であるという認定を受けた新参者に必須な面倒な作業であるが、この認定を受けることによって様々な特典があったりする。

 

 農業の盛んな地域では各自治体で様々な補助事業を行っているので、農業経営にかなり重要な力となっている。

 というか、無ければ新規で始めることはほぼ不可能か、すぐに廃業することになるだろう。


 他にも、例のクラウドファンディングで資金を集めた畑の準備として、苗木やら土壌改良剤などなどの業者へ依頼していた見積もりを整理した。

 近日中に本格的な開始になるので、株主の皆様には楽しみしていてもらいたいと思う。

 今年の収穫祭は9月後半だろうと思われるが、これは天気次第でまだまだ予定が読めないところだが。


 事務仕事で大雨の月曜日は過ぎ去ってしまったが、その後も降ったり止んだり小雨の日々が続く。

 そんな時には草刈りをしよう。


 下手に雨で濡れている状態だと草が水分を含んでいるので刈るのは大変だが、他にやる暇が無いのだ。

 畑の端っこの乗用草刈機モアちゃんの入れない部分や支柱や木の根元周りの細かい部分、物置小屋や家の周りもスッキリだ。


 火曜日は草刈りで1日が過ぎ去ってしまったが、まだまだ雨が続く。

 予報通りだと水曜日が雨の合間であったが、朝起きるとまた天気予報が変わった。

 これだけコロコロと変わると、天気予報ではなく天気速報である。


 ここらで農薬散布を行いたいところであったが、すぐに雨が降り出してしまった。

 ギリギリと歯ぎしりをして雨に殺意が湧くが、天気には敵わない。


 仕方がないので、例のクラウドファンディングの畑にある木々の伐採だ。


 金の発生しない作業であればやっても良いらしいので、やれることは早めにやっていこう。

 昨年の巨木の伐採に比べればまだ楽であるが、大きい木を切り倒す時は恐怖心で集中力が研ぎ澄まされる。

 この恐怖心をなくした時に大事故に繋がるだろうから、この感覚をなくしてはいけないだろうと思う。


 今回の造成範囲は昨年の4分の1程度なので、今月中にある程度ケリを付けたいところだ。


 木曜日、天気速報は再び予報を覆して午前中に大雨が降ってきた。

 殺意が再び湧き上がりそうだが、昼過ぎには太陽が顔を出して雨を一気に乾かしてくれた。


 伐採をやりながら何度も畑の様子を見に行き、17時頃ようやく農薬を撒いても良いぐらいに乾いた。

 農薬の効果はモノによるが、散布後の総雨量が200ミリを超えると効果が消えると言われているのでギリギリの戦いだった。

 ちょうどこの日の想定外の雨で超える雨量であったのだ。


 そんなわけで、汚物は消毒だ~!!

 翌日金曜日は苗木の方も、汚物は消毒だ~!!


 ちなみに、今回撒いたのはボルドー液と呼ばれるもの、有機農法でも使える伝統的かつ安価で最も殺菌効果のある農薬である。

 有機農法、オーガニック食品でも普通に使われている農薬だが、青白い斑点がブドウにこびり付くので見た目に悪いが、これも自然界にある物質だから有機になるのだ。

 この現実をどう捉えるのかは、各個人の判断に委ねる。


 その後は梅雨の晴れ間になり、日曜日の夜から再び梅雨空のようだ。

 しかし、タイミング良く汚物は消毒されたので、しばらくは気が楽になったのであった。

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