転生した悪役令嬢(弱小貴族)は一旦変わって超悪役令嬢(ツンデレ)の専用メイドになる。

たらころ

第1話 私、悪役令嬢に転生いたしました!

 「お前なんて出て行け!このろくでなし!」

 そんな捨て台詞を吐きながら私の実の父でもあろうお方が娘を外に放り投げた。

 放り投げられてしまったせいで、私は頭を強打してしまったようだ。

 そのまま視界がぐりんっと変わり、ほぼ民家と変わらない自宅が映る。

 もう殆ど平民なのに、未だに貴族と喚く一家が哀れでならない。

 、、、なにか、頭の中に霧が掛かっているようだった。一部の記憶に灰色の雲がかぶさっていた。

 何かを忘れている。大事なこと。家の中のリモコンを探している時のように、記憶の中を弄っていく。

 、、、リモコン?

 そのとき、週末の夜中にやるドラマの最終回のエンドロールように、頭の中の記憶が巡り出した。

 

 私は田中美玲という名前だった気がする。

 高校2年生。取り柄はゲームがうまいことと勉強が少しできること。死因は確か事故死だっただろうか。

 寒かったことは覚えている。寒い冬の中、訳もわからずにアスファルトの地面に体温を奪われていった。その横には、私が命懸けで弾き飛ばした男の子がいた。

 男の子は大量の赤を見て、大泣きしていた。それでもお母さんは来ない。

 私は、男の子の無事に喜んだ。こんな私の心の中とは対照的に、最後には体温などなくなっていた。

 、、、そして、私は死んだ筈。死んでもなお生きている。しかもこれは自分ではない。もしかして、、、

 「異世界転生ってやつ、、、?」

 、、、はあ。私は今世も死んでしまうのだろうか。

 そういえば、ときどき違和感があった。既視感のようなもの。

 それは、私がこの世界を知っていたからだ。

 私はゲームをよくしていた。その中でも、絵が綺麗だから、と言う理由で始めた名前も覚えていないゲーム。

 それがこの世界だ。内容がよくあるものだったため、そこまで鮮明には覚えていない。

 しかし、とても鮮明に鮮やかに縁取られている記憶がある。

 サイファ・アルゲノン。男爵家という低い地位でありながら、その美貌で多くの者を虜にしてきた。

 そんななかで、確か聖女とか言う子にちょっかいをかける。

 そして最後の方は死んでしまう。

 私はこのゲームシナリオにうんざりしていた。

 なぜなら、主人公の聖女が生意気な小娘だからだ。

 知ったような口を聞き、自分の身分も考えずにイチャイチャする。

 しまいには婚約者もいる王子を横取りするのだ。

 このゲームにはもう一人悪役がいた。名前までは覚えていないが、王子を聖女に横取りされた人だ。

 こちらの方が印象はつよいのだが、何故だか私はサイファに肩入れしていた。その為、私はこの本命悪女のことを覚えていない。

 まあ、正直言って、聖女が悪い。この言葉に限る。

 そんなクソゲーの世界に、どうして入ってしまったのだろうか。

 しかし、私も相当嫌な奴だ。

 悪役令嬢というだけあって、今までの記憶で言うと、まあ前世だったら自殺者が出るくらいのいじめっ子だ。

 こんな弱小貴族のくせに、プライドだけは一丁前。

 貴族学院に憧れ、平民が通う学校でそのプライドのためためだけに暴れ回り、出来もしないくせに逆らったら一家もろとも権力で揉み消すと脅していた。 

 、、、私、やばい奴じゃないか。

 

 しばらく歩いた。こんな体力もない少女の体では少し山を登ろうとするだけで足が止まってしまう。

 幼稚園の遠足ぐらいの山を一つ登っただけで足が折れそうなほどだ。

 筋肉でもつけなければあと半日後には死んでいるかもしれない。

 足は悲鳴の雄叫びをあげ、許してと処刑台に立たされたかのような気迫で泣いている。

 そこまで考え、処刑台というワードに体が震えた。

 私は聖女になんらかのことを仕掛けて死んでしまう。 

 処刑台に立たされ、ギロチンが降りるのだろうか。それとも火炙りだろうか。

 私は自分が処刑され、それを微笑みながら見送る聖女と王子の姿が映し出された。

 因みに、私は自分がどんな結末を送るのかは知っているが、詳しいことは知らない。

 なぜなら、つまんなすぎて途中で投げ出したのだ。

 そんなことなら最後までやっておけばよかった。

 私がサイファの結末を知っているのは、最初のオープニングでチラッと流れたからだ。

 私は悪役令嬢であり、サブキャラでもある。このゲームの中の本当の悪役令嬢は、王子の婚約者だからだ。

 その王子の婚約者の結末は知らない。

 でも、大概私と同じような運命を辿っているのだろう。

 私は悪役令嬢+サブキャラ。こんなの燃えるゴミ同然。私はどうせ死んでしまう。

 そんな中、私は目をゆっくりと閉じた。


 、、、豪華な壁が見える。ここを私は知らない。どこなのだろう。

 そう思っていると、目の前にパンが差し出された。そこにはパンの他にも湯気の立つスープ。紅茶。そして生ハムがあった。

 なにも考えずにそれにかぶりつく。

 普段なら絶対にしないほど、汚らしく食べた。私の姿は餌にありつく猛獣そのものだろう。

 しかし、この食べ物は、空腹のせいか、それとも単純にとても美味しいからか、今まで食べたもののなかで1番美味しかった。

 しばらく幸福感に浸っていると、我に帰った。

 そういえば、これを差し出したのは誰なんだろう。

 視線を上に向けると、そこにはとんでもない美人が立っていた。

 私と同い年くらいだろうか。私も美少女な筈なのに、そんな私が霞んで見える。

 腰まである輝く銀髪に、この世の美しい物を詰め込んだかのような青い瞳。それに恐ろしく整った顔。

 私はしばらくの間、視線を彼女から離せなかった。

 「あなた、そのパンを食べたのね?」

 美しいものは怖い。初めて知った。彼女は微笑みながら、私の耳元で囁いた。

 「あなた、森の中で生き倒れていたの。だから私(わたくし)が連れてきた。感謝なさい。」

 へー。そうなのか。親切にありがとうございます。

 しかし、彼女は私に向かって意味深な笑みをぶつけてくる。

 他のご令嬢がたなら失神は軽くしていただろうか。

 しかし、私もまた悪役令嬢の意地がある。ここはプライドを簡単にバキボキと折るわけにはいかない。

 「あなたは今日から私の犬よ。餌もあげたしなんなら助けてやった。命の恩人。あなたは私に跪くべきなの。わかる?」

 彼女の笑みは、ぞっとするようなものであり、どのような彫刻品よりも美しかった。

 これに従わない奴はいないだろう。

 「もちろん。私に逆らわないわよね?」

 なぜか、彼女のその一言に、救われた気がした。恐ろしいことを言っているのに。

 彼女は私を救ってくれて、そばに置いてくれるということか?と、勝手に都合の良い解釈をする。

 、、、は!?もしかしたら、彼女は遠回しに、『私のそばにいて』と言っているのでは!?

 もしかしたら、彼女はツンデレという類の人種なのかも知れない。

 そう考えると、突如私は彼女のことを愛おしく思えた。

 「はい!私はあなた様の忠順なる犬であります!」

 気づけばそんなことを口走っていた。 

 外から見ればきもい美人と『こいつヤベェ奴だ』と悟っている美人の図だ。

 なんと美しく、シュールでキモいのだろう。この状況は。

 にしても、彼女がツンデレだったとは。もしや私にベタ惚れとか?

 そんなことを考えていたら、頭の中の体温が上昇していた。

 そう。何を隠そう私はツンデレキャラが大好きなのだ。

 どんなゲームアニメでもツンデレキャラの推しになり、追っかけをしていた。

 そんな私が、ツンデレキャラとずっと一緒だなんて、夢のようである。

 彼女は気持ち悪い者を見る目をしていた。

 それから、悪役令嬢と超悪役令嬢の主従関係が始まった。

 

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転生した悪役令嬢(弱小貴族)は一旦変わって超悪役令嬢(ツンデレ)の専用メイドになる。 たらころ @tarankoron

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