◇似て非なる、
……『俺』が存在する。
それはたぶん『奇跡』なんだろう。
いいことなのか、悪いことなのかは、わからないけど。
ただ、それを――『意味のない』ことにはしたくない、って。
……そう、思う。
* * *
「……」
扉を前に、ちょっと考える。
この先は『ゆうにい』の部屋。
この邸における、彼の領域。
誰も、彼の許可なくして踏み入ることも、覗くこともできない場所。
『ゆうにい』の力は『宮内』で1番強いから、そういうことができる。
――だけどそれも、『俺』には関係ない。
「…………」
でも。
考える。
他人の部屋に入るときは、ノックをするものだって、りっかが教えてくれた。
『最低限の礼儀』として、するべきだって。
『俺』はそれを覚えてる。知ってる。
なのにそれを実践しなかったら、『俺』はそれを知らないも同然ってこと。
少なくとも、そうとられても仕方ないってこと。
……それは、いやだ。
なんか、いやな気がする。
扉を見る。
ノックするために、手をあげる。
「……何やってる」
閉まってた扉が開いて、低い声がした。
……『ゆうにい』だ。
「ンなとこでつっ立ってんな。邪魔だ」
……扉の前にいただけなのに。
そう思ったのが伝わったみたいに、『ゆうにい』が続ける。
「お前の気配はうざったいんだ。用があるならとっとと入れ」
吐き捨てるみたいに言われるけど、『ゆうにい』は『宮内』関係には、基本的にこんな感じだ。
例外は、りっか。
『ゆうにい』は、りっかに対しての感情を、『同情』だって言った。
『普通』に生きて、『普通』に死ねるはずだったのに、そうじゃなくなった、りっか。
『宮内』を嫌ってる『ゆうにい』だから、きっと『同情』以外の気持ちも、そこにあるんだろうけど。
『ゆうにい』が、りっかをたすけようとしてるのは、確かだから。
だから、『俺』は。
……『ゆうにい』に協力するって、決めたんだ。
最初から、そう『決まってた』んじゃなくて。
『俺』の意思で、『決めた』から。
りっかはきっと、余計なことだって言うだろうけど。
でも、『俺』がしたいことをできるのは、あと少しだけだから。
ごめん。
ごめんね。
ごめんなさい。
届かない言葉を、胸の中だけで呟いた。
『俺』とりっかは、似てる。
似ているけど、違う。
……そんな、存在。
りっかが居たから、『俺』は『俺』を得た。
だから、りっかが望むなら、りっかの望む通りにしようと思ってた。
見たくないものは、見なくていい。
期待を持ちたくなければ、持たなければいい。
逃避の末の受容でも、諦観の末の選択でも。
そこにりっかの意思があるなら、それでいいと思ってた。
……思ってた、けど。
思ってた、はずだった、けど。
たぶん、それじゃだめなんだ。
それじゃ、だめだよ。
……りっか。
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