第4話 過去

 颯爽と去ってったソラをドア越しに見送り、俺はルカに目をやる。

 お互いに突っ立っていてもしょうがないのでとりあえず「飯は?」と声をかける。外はすっかり暗くなっていた。

 ルカはちょっと申し訳なさそうにはにかみながら「ペコペコ」といった。

「大したものは作れないけど…。嫌いなものはない?」と聞くと首を傾げながら「こっちのご飯はよく知らないけど多分大丈夫。あーでも本当にパルレッコだけはダメ。匂い嗅ぐだけでもムリだから」と一人悶々としていた。


 何を言っているのかわからないけど、その姿が子供らしくって可愛らしくって何だか俺のルカへの警戒心が緩んだ。


 とりあえず、リビングのソファーで待っててもらい、俺はナポリタンを作ってやった。


「それで?」

 俺は「美味しい」「なんですかコレは!止まらない!」「こんな美味いもの初めて食べました」と一口食べるごとに感想を述べながら

 ガツガツと頬張る少年を見て少しだけ微笑ましく思いながらも問いかけた。


「え?あ、はい。本当に申し訳ないです」とだけ答えるルカに対して、「いや、そうじゃなくて、君の素性を教えてくれない?実家は?なんでこういう流れになったの?てか君いくつ?」と先ほどソラに聞けなかった質問を次はルカへと投げかけた。

「…。」ルカは少し黙った後、「リクさんはソラさんが好きですか?」と逆に質問をしてきた。

「え?あ、うーん。どうだろう。好きと言えば好きだな。弟だしな」

「一緒にいる時…、ソラさんはいつもリクさんの話ばかりしていましたよ」

「え?あいつが?なんでだ?」

 大人になってから俺とソラとはほとんど一緒に過ごした記憶はないので、思い出せるだけの記憶を頭に浮かべた。


 親が離婚する前、俺とソラはいつも一緒だった。寝る時も、学校も、外で遊ぶ時も24時間いつも一緒だった。

 ソラは幼少期から中性的な綺麗な顔立ちで、みんなのアイドルだった。

 どこに行ってもみんなの注目の的だったソラだったが、そんなのお構いなしにいつも「兄ちゃん、兄ちゃんと」俺の後を追っかけまして

 屈託のない笑顔を向けてくるソラが俺は大好きだった。


 だが、小3くらいに上がった頃から状況が変わってきた。

 親父が外に女を作って家に帰らなくなると、母親の様子が段々とおかしくなっていった。


 母親はその寂しさと苛立ちを俺たちにぶつけるようになり、ソラには狂気を感じるほど愛を注ぎ、俺にはストレス発散かの如く暴言と暴力を振るった。


 辛くなかったと言えば嘘だが、俺と親父の顔はよく似てたし、母さんの気持ちも分からないこともなかったので、どうすることもできなかったし、しなかった。

 しかし、日に日に増えていく俺の痣をみて周りが心配しだし、近所に住んでいた父方の祖父母が俺たちを引き取ろうとした。


 俺は救われた気がしたが、ソラと離れるのは嫌だった。

 俺は必死にソラも一緒に来れるように交渉したが、母親は「この子と離れるくらいなら死んでやる。お前だけいらないんだ。顔も見たくない。疫病神め!早く出ていけ」と手当たり次第にモノを投げつけてきた。


 祖父母は変わり狂った母親に驚愕しつつも、「なんてことをするんだ。リクもお前の可愛い息子だろ」と怒鳴りながら母親の暴挙を阻止しようと必死だった。

 ソラはそのやり取りを見ながら「兄ちゃん、兄ちゃん」とただ泣き叫んでいた。相当な修羅場だった気がする。

「大丈夫。俺らはいつも一緒だ。双子だから。困った時は俺が必ず助けるから!」俺はそうソラに向かって叫ぶと、祖父母に抱きかかえられ回収された。


 俺は家を出てからもずっともソラが心配で堪らなかった。俺がいた時は俺にしか手をあげなかったが、俺の代わりにソラに暴力を振るっているのではないかと気が気でなかった。

 

 俺は毎日学校に行くとすぐにソラを呼び出しボディチェックを行った。服を捲り、体に痣はないか、ご飯はちゃんと食べているか確認した。

 ソラは「くすぐったいよ」と照れながら、でも嬉しそうにいつも笑っていた。そして俺が「よし!」とチェックが終わると「兄ちゃん!」と言いながらギュッと俺を抱きしめた。俺はその白くまだか細い小さな天使のような弟が堪らなく愛おしかったし、絶対に守ろうと心に誓っていた。

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双子の王子様 Summer @minascotty

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