第3話 置き去り

 「じゃあ改めて」とソラは少し楽しそうに場を仕切り始めた。

「こちらがオレの崇拝する双子の兄のリクでーす」

 まるで通販番組で商品を紹介するかのように両手で俺を紹介した。

 謎の好青年は「えっ」と驚いたように俺とソラを交互に見た。


 うん。言いたいことは分かる。俺とソラは双子だけれども全く似ていない。この反応には慣れている。

「二卵性だからね。似てないよ」と補足してあげた。

 そうすると「そ、そうなんですね」といい、次は目線だけで俺とソラをちょっと遠慮がちに見比べていた。

「んで、こちらは?」と俺はソラに問いかけると「あー、ルカはその、えーと、うーん。オレの…。うーん…こっちでの設定考えてなかったね。何がいい?」と、そのルカという少年に意地悪そうな笑顔で問いかけた。

「ソ、ソラ様にお任せします」

 急に話を振られて驚いたルカは早口に頭を下げた。

 ソラはルカの慌てぶりを愛おしそうに見つめてからまた口を割った。


「それでアニキに相談というか、もうお願いなんだけど、ルカをしばらくここに置いてくれないかな?」

「…はひ?」


 想像していなかったお願いに俺はみっともない声を出してしまった。


「え?何?置いてくれってどういうこと?てかマジでこの子何者?」

「拾ったの」

 小学生が帰り道に子犬を拾ってきましたかのような口ぶりでソラは眩い笑顔を俺に向けた。


 俺は久々に見たソラの悩殺スマイルをしばらく見とれてから、話の内容が遅れて頭の中に入ってきた。ちょっと待て、意味がわからん。


「え、何それ。どういうこと?」

「えーとね。ルカは今ひとりぼっちなんだ。遠い国から来て不安そうだろ?」

「待て待て、遠い国ってどこよ?親とかそういうのは?てかこの子いくつよ?警察とかに連れて行ったほうがいいんじゃないの?」

「えー、質問多いし、警察は流石に頼れないよ〜」

「いやいや、こっちも急に預かってって言われても意味わかんないし。それにお前についても俺何の情報もないんだけど。今まで何してた?元気だったか?飯は食えてるのか?そうそう、仕事は?家はどこなんだ?」

「だから質問多いよ〜。まあ、そうだね、簡単に言うとオレはいま世界を救ってて、そんでもってとっても忙しいの」

「いやいや、説明雑すぎ。しかもそういうファンタジーな冗談いいよ」

「まあそうだよね。でもとにかく今こっちの世界で頼れるのはアニキだけだ。それにオレ、アニキと離れ離れになってから、本当に大変だったんだ。今まで頼れなかった分、ここで使わせてくれ」

「それは本当にごめんな。一緒にいてやれなくてごめん」

「いいよ。アニキは悪くないし。でもオレずっと寂しかったんだよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。」

 久々に再会した大好きな弟の切ない顔に、俺の胸はギュッと締め付けられた。

 これまで疎遠だった時を取り戻すため今夜はとことん飲み明かそう!と持ちかけようとした時、すっかり存在を忘れていたルカが視界に入った。


「あ、ごめん。君のこと忘れてた。とりあえずこの子の素性をちゃんと説明してちょうだい。思い出話はその後だ」

 ルカはまだ目線だけで俺とソラを交互に眺めていた。

「とりあえずそれはおいおい話すよ。オレ行かなきゃだし」

「え?おいおいってどうゆうこと?」

 すると、突然ソラの携帯のバイブが鳴り響いた。

「アニキ、悪い。俺そろそろ行かないと」


「は?」

「今日中に戻らないとワープゾーンが閉じちゃうんだ」

「え、ちょっと待て待て何て??この子は?」

「うん。だからアニキ。頼んだよ」

「頼んだよって言われても…」

 俺はルカに目をやると、捨てられた子犬のような瞳をしていた。

「ルカ。大丈夫だよ。リクは強いから」

 ソラがルカの頭をポンポンと撫でるとクウゥンと鳴き声が聞こえてきそうな表情で裕太は頷いた。

「アニキ。急に来てこんなお願いで申し訳ないんだけど、本当に頼れるのはアニキだけなんだ。本当は一緒に来て欲しいんだけどそれは流石にな」

 ソラは困ったように笑った後、真っ直ぐに俺を見た。

「とりあえず1週間。オレが帰ってくるまでよろしく頼む。ルカを守ってやってくれ」

「じゃあ!」と言ってソラは行ってしまった。

「いやいや、雑すぎるっつーの。しかも守るってなんだし」

 ポカンとしてる俺にルカが背後から近づいてそっと俺の服の袖をギュッと掴んだ。

 俺はその切ない表情に少し胸が締め付けられ、そっとその少年の頭に手を置いた。

 

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