第2話 ツレ
弟と会うのはもう何年ぶりだろうか。弟とは小学五年生まで同じ屋根の下で育ったが、その後は親が離婚し、俺は父方の祖父母に、弟は母親に育てられた。
とはいえ、離婚しても家は割と近所だったので高校卒業までは同じところに通っていた。
しかし同じ学校に通っていたとはいえ、苗字も顔も性格も全く異なる俺たちが同じグループに所属することはなく、学校ではまるで他人のように過ごしていたため、俺らが双子であることを知る人は少なかったような気がする。その後、俺は大学に進み、弟はどこかの専門学校に通い始めたため二人の接点は皆無となり、連絡も数年前のあけおめメールが最後と言った具合である。
「久しぶりだね!最後に会ったのは多分成人式とかだからもう七年くらいかな?」
「あぁ、成人式が最後だったか。といってもちょっと会場で見かけた程度だったからほとんど記憶にないな」
「それはアニキが露骨にオレを避けてたからだろ?」
「いや、あれは避けたっていうか、近づけなかったんだよ」
そう言うと弟は「はにゃ?」と言うような顔をした。
成人式。俺は特に誰かと一緒に行く約束などはしていなかったので一人で会場に向かった。
行けば弟のソラもいるだろうし、どうせ地元の顔馴染みたちが集まっているのだから行けばなんとかなるだろうと思っていた。
会場につくと一番にソラを見つけた。俺がソラを驚かせようと背後からゆっくりと近づこうとしたその途端、全方位から赤やら黄色やら、目がチカチカするほどカラフルな振袖軍団が突進してきてソラの周りに群がった。
みんな初めて見るソラのスーツ姿に目をハートにして記念撮影をせがみ、いつの間にかそこには長蛇の列ができていた。
「すげぇな。あれ」
俺の後ろから中学から同じ野球部で親友の拓也が声をかけてきた。
「まあな」
「あいつ芸能活動とかしてないの?その辺のアイドルとか俳優よりオーラあるんじゃね?」
「知らんけど。たぶん俺の知る限りはやってないと思う。たぶん」
「ふっ。相変わらずお前らは双子だと言うのに無干渉だな」
「まあな」
「あんだけ顔整ってたら人生何やっても勝ち組だろうな」
「さあな。そうなのかな?」
俺は次々とソラの横に沸き立つ女子のキメ顔と、ひきつってもその美しさが崩れることのないソラを交互に見ながら曖昧に答えた。
「それよりリク、あっちにグッチーたちいたから行こうぜ。なんか張り切って袴着てきたらしいぜ」
「まじか。それは見ものだな」
背後から「アニキー!」と俺を呼ぶ声がしたが、俺はそのまま拓也と共にむさ苦しい男の群れへと向かった。
「んで、相談って何?」
俺は部屋の中を色々と物色し始めたソラに向かって問いかけた。
「あー、それね。ちょっと言いずらいんだけど」
「何?お金?いくらぐらい?」
「いや、お金じゃないんだけど」
「え、何?なんか怖いんだけど」
「うーん、どこから説明しよう…」
ソラは俺が取材に行った観光庁からもらった赤べこの頭をツンツンしながら言葉を探していた。
しばらく二人でされるがままに無表情に頭を上下する赤べこを見ているとその沈黙を破るように
ピンポーンと自宅のチャイムが鳴った。どうやらエントランスではなく玄関の方のチャイムらしい。
ソラを見ると子猫のような目をして、「入れてもいい?」と聞いてくる。
俺は眉を顰めながらとりあえず玄関の方へ向かって扉を開けた。
ガチャ。
扉を開けるとそこには線が細く色白で、今にも泣き出しそうな少年が申し訳なさそうに佇んでいた。
俺は何故かその子にものすごい神秘的なものを感じた。俺を見つめてペコっとお辞儀をした後、俺の背後にいるソラを見つけると安堵したのか表情がパーっと明るくなった。
そしてその表情はすぐに捨てられた子犬のような目で「ソラさんすみません。なんだか知らない世界でひとりで不安になっちゃって合図の前にチャイムならしちゃいました。ごめんなさい」といった。
するとソラがそっと手を伸ばし、ヨシヨシとなだめるように頭を撫でた。
「グッドタイミングだったよ」と飼い犬を褒めるようにはにかんだ。
アニキ、この子も一緒に中でさっきの話の続きを話してもいい?」
「あぁ」この状況で断る選択肢もないので俺はとりあえず二人を中に入れ、コーヒーとジュースを用意した。
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