双子の王子様
Summer
第1話 再会
(母親からの罵声)
「アンタを見ると虫唾が走る。気持ち悪いからどっかいけ!」
小さい頃に母親に言われた言葉がふと頭をよぎった。
なぜ今頃そんなことを思い出したのかは分からない。
・・・
都内から少し離れた郊外の2LDK。ちょうど動画編集を終わらせた俺は、ベランダで息抜きがてらタバコを吸っていた。
全国の観光地を巡り、依頼されたカフェや観光スポットを数十秒のストーリーにまとめ、投稿するのが今の俺の仕事だ。
SNSマーケティングとやらが流行る前から趣味で投稿を続けていた俺にはそれなりにファンは多く、今では案件だけでも稼げるようになってきたのでパワハラまがいの会社を辞め今はこの仕事だけで食っている。
言わずもがなファン…といっても顔出しをしているわけではないので俺のお店チョイスとか編集技術などが高く買われているのだろう。
とはいえ、紹介の際には俺の音声を入れているので、最近では妄想に駆られた女性ファンらが「声が好き!」「癒される」「絶対イケメンだから顔出しお願いしまーす」などのコメントやDMが増えてきた。
無論、俺の弟くらい整った顔だったら俺も彼女たちの期待に応えて喜んで顔出しするが、そこら辺によくある顔で、なんともパッとしない俺なんかを載せたらせっかく大事に育ててきたアカウントからみるみる人が減っていくのが目に見えているため天地がひっくり返ってもそんなことはしない。
息抜きと言いつつ先ほど編集し終えた投稿をスマホで確認していると早速ファンからの反応が返ってきており、
まだ数分しか経っていないのにコメント欄がいっぱいになっていた。
よしよしと、自分の頑張りに自画自賛しているとポンっと1通のメッセージを知らせる通知が画面の上に表示された。
(アニキー、今だいじょうぶ?)
メッセージを開くと弟のソラからだった。珍しいこともあるもんだ。
どうした?と返信を打とうとしたら、返信を急かすように同じ主から着信が来た。
俺はちょっとめんどくさい気がして着信が切れるまで待ったが、一度止まった着信音はまたすぐに俺の手元でポップな音を鳴らした。
仕方なく俺は電話に出るとちょっと不貞腐れた弟の声がスマホから聞こえた。
「ちょっとー、1回目わざと出なかったでしょー」
「いや、ちょうど手が離せなくて」
「うそだー。オレ見てたんだからね」
「え?見てたってどういうこと?」
にひひぃと弟の笑い声を聞きながらオレはありえないと思いつつ後ろを振り返って部屋の中やあたりを確認する。
挙動不審な俺に向かって弟は「しーた!」とにやけ声で正解を教えてくれた。
言われた通りに俺はベランダから下を覗き込むと、はち切れんばかりの笑顔を向けた弟が大きく手を振っていた。
俺はその笑顔にちょっと見惚れつつ、すぐに正気を取り戻し「なんでそこにいるの?」と俺は弟を見下ろしながらスマホに問いかけた。
「ちょっと相談があるんだ。忙しかったらこのまま帰るけど?」
「いや。あー、ちょうど一段落したところだから別にいいけど、来るなら先に連絡しろよな」
「うん、だから突撃する前に事前に連絡しただろ?」
「まあ」
色々と思うところはあったが、とりあえず家に入れることにした。
部屋番号を確認されてから数分とたたないうちにインターホンがなり、画面いっぱいにイタズラな笑顔が写し出された。
俺はため息をつきながらエントランスの自動ドアのロックを開け、部屋の鍵は開けとくから勝手に入ってくれと伝え、ポットで湯を沸かした。
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