転生ヤンキー  ~転生者である最強ヤンキーは普通に生きたい~

ヤマト

第1話  目覚めと違和感、そして確信

 目が覚めた時、まず目に飛び込んできたのは、知らない天井だった。

 慌ててベッドから飛び起きると、ふと自分がとても小さくなっていることに気づいた。声もずいぶん高くなっているし、部屋も見慣れぬものになっている。


 事態を飲み込むのに丸一日かかってしまったが、まあいいだろう。お陰でだいぶ落ち着いた。

 ここでいったん現在俺が置かれている状況について説明しよう。


 どうやら、俺は転生したらしい。

 それも、現代日本の小学1年生に。


 覚えている限りでは、高校2年の夏休みに徹夜で漫画を読み、エナドリを飲んで寝た。これが最後の記憶だ。


 転生前は友達がほとんどおらず、そいつらがアニメオタクだったのもあり、それなりにラノベやアニメを見て、異世界転生に憧れた者の一人ではあったので、現代日本に転生したことが残念で仕方がない。

 まあ、高校までの勉強が楽になったと思えばいいか。


 話は変わるが、俺には転生したらかなえたかった夢がある。それは。


「普通に生きる」だ。


 転生前の俺は親がピアニストとして有名であり、そんな親の才能を継いだのか、幼いころからコンクールでよく賞をとり、そこそこ有名だった。

 それを妬んだ奴らに変な噂を流されたせいで、俺は小、中、高とかなり浮いていた。

 ま、それでオタ友ができたから特に気にしたことはなかったが、変に知名度があり、あまり楽しい学校生活を送れなかったのだ。


 だが、今の俺は違う。

 この子の記憶では親が有名人というわけでもないし、変に浮いているわけでもなさそうだ。


 これなら、「普通に生きる」こともできそうだ。

 そんな期待に胸を膨らませながら、俺は再びベッドに身を沈めた。小1の体には夜中に起きてるのはなかなかしんどいようだ。

 

 それじゃ、おやすみ~。






あれから数年がたち──────────







───────違和感に気づいたのは、小学4年生のときだった。

 

 学校からの帰り道、ふと、気まぐれにのぼった階段の先にある、神社の境内で見た光景に、俺は目を疑った。



「とっととくたばらんかい!!」

「それぁこっちのセリフじゃい!!」


 二人のヤンキーが喧嘩をしていた。

 めったに見られるものではないそれに興味を惹かれ、物陰に隠れて観戦することにしたのだが…


(…?なんかおかしくね?)


 あんだけ殴り合ってんのになんでまだ元気に動けるんだ?もう三十分くらいやってるぞ?体力お化けかよ。

 俺が唖然としているのもお構いなしに、勝負は進んでいく。


「いい加減うっとうしいわボケェ!!」

「おどれこそ往生せぇ!!」


 互いに勢いよく振り抜いた拳がもろに顔面に刺さり、敗者が吹き飛び、階段を転がり落ちていく。勝者となった男は、静かに右手を天に突き上げ、息をひとつこぼし、タバコを吸い始める。

 粘り強すぎるだろうが馬鹿野郎だの、またやりてえななどとすっきりとした顔で独り言ちながら。

 青春してんなぁなどとおっさんじみたことを思いながら、家路へとつく。そしてふと思った。


(人ってあんなに吹っ飛ぶものなのか?)

と。


 そう思ったものの、俺は特には深く考えずにいてしまい、少しするとその違和感は頭の片隅に追いやられてしまい、そのまま忘れてしまった。


 だが、この日を境に俺はたびたびヤンキーの喧嘩や抗争を見かけるようになる。


 どこかにカチコミに行くのか、朝っぱらからどこかから調達してきたらしい鉄パイプを握りしめたヤンキーの群れ。


 駅で待ち伏せ、電車から降りてきた数人のヤンキーたちを倍以上の人数でふくろにするヤンキーたち。


 仲間を引き連れおやじ狩りにいそしむヤンキー集団。


 そしてかならず遅れてくる警察。


 それらをみて、俺は確信した。


 ここ、ヤンキー漫画の世界だ


 と。





 ──────いそいで家に帰り、この世界について調べてみた。

 そしたら出るわ出るわ、北海道から果ては沖縄に至るまでヤンキーの大規模抗争や事件事故、全国制覇の記録などなど。

 前世では考えられないほど治安と民度が悪い。


「最悪だ…」


 主に人が死んでるのが。


 そこまで多いわけではないが、全国的に有名な抗争では必ずと言っていいほど人が死んでる。

 一度転生したとは言え、死ぬのは怖い。二度目も転生できるとは限らないし、前世の出来事で死が軽くトラウマとなっている。

 

 この世界でヤンキーに関わらず、平和に生きるためにはどうしたらいいか。そう考えていた俺の頭に天啓が下りた。


「そうだ。モブになればいい!」


 だが、モブになったといってもパシリにされたらたまったもんじゃない。だから俺は、ヤンキーに目をつけられないようなモブになる!!


 そうと決まれば早速行動に移さなければ!!フハハハハ!!


 この時の俺は知るよしもなかった。

 

 ───これから、俺に何が起こるのかを。


 



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