No.03 水天一碧:The Double Face①
彼女の幼少期は前述した通りだ。
しかし、小学校へ進学し一種の佳境を迎える。
此が彼女にとって鬼門の始まりと捉える他者が多いことも然る実状…しかしながら当の彼女は自分自身への理解を深める絶好の機会となる。
入学から半年が過ぎ、一年生の二学期へ差し掛かった頃、
何故か薄暗い夜道のような通学路。
未だ身体より幾分大きさのあるランドセルを背負い歩く彼女。一年生ということもあり、高学年の生徒達が先導する後を必死で着いて行く。登校班の列が並び歩き、順繰りに横断歩道を過ぎた処で事は起こった。
小学校まで残り僅か、公園の前を横切る。
すると、赤ペンキで「スクールゾーン」と大きく書かれた白看板から、突如黒い人影が襲い来る。大人程の背丈をした実体の無い人影。
其は紅く鋭い眼光と無慈悲な形相をしており、まるで幽霊のよう。前方へ両手を突き出し幼い少女へ覆い被さろうとした瞬間、目が醒める。
「はっ…………」
止まりそうな呼吸を吹き返す。
心臓が鼓動を轟かせ激しく脈を打った。
どくどくと身体中に心音が鳴り響く。
「お姉ちゃん、起きたのか?」
祖母が隣の部屋から引戸をそっと開け、顔を覗かせている。其を見て一息吐き不安を拭う。
一先ず安堵したのか、何事も無く返答をする。
「うん。今、起きた。」
寝床から半身を起こすと目覚まし時計を確認する。ホルスタイン柄が可愛らしい牛の目覚まし時計。誰もが知るクラシック曲の電子オルゴール音を毎朝響かせ、時間通りに目覚めさせる。
ー現在時刻ー 午前6時30分
日曜日ということもあり、普段より遅い起床となってしまった。
僅かに寝過ごした後悔と共にベッドを後にし、桜色の
背中に掛かる長い黒髪を払い、薄手のシャツに袖を通す。其の上に
身仕度を整えると洗面所へ向かい、長い黒髪へ櫛を通した。
其所まで終えると母が仕上げにやって来る。
6歳ということもあり髪結は母に任せていた。
取り掛かると、少し強引なくらいに手先で髪を束ねる。櫛で丁寧に髪を揃え、真ん中から両側へ均等に分けた。
先ず右側、次いで左側。
飾りゴムで左右に結われた髪。綺麗に櫛で解き直すと、さらりと艶やかに流れる。
「はい、完成。」
簡潔な仕上りに満足した表情で言う。
「ママありがとう。」
鏡を覗くツインテールが揺れた。
指通りの良い黒髪。
飾りゴムが良く映える。
母は既に台所へ、朝食の支度に向かっていた。
【洒落頭shallechove髑髏】冷と不甲斐シリーズ 靑煕 @ShuQShuQ-LENDO
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