No.01 天才少女:The Genius
そう、彼女はごく普通の高校に通う一般的な女子生徒。
等ではなく…寡黙で聡明、尚且つ可憐で凛とした佇まい、鋭敏な感性は独特でいて繊細、雲一つなく晴れ渡る倫理的思考、文武両道の上に成り立つ【彼女】そのものが異質な雰囲気を醸し出している。
生まれながらに学業の才を有し、3歳を迎える頃には躾の厳しい祖母から、国語の読み書き算数の計算式に加え時間の計り方や長時間の読書を徹底され始めた。
入園式を終えるとその肉体の虚弱さからか読書に耽り日々を過ごす。眉の高さで一直線に切り揃えられた前髪、腰迄届く美しい黒髪は常に左右均等に三つ編みへ結い上げられ、仕上げに少女らしい飾り付きのカラーゴムで綴じられた。
髪飾りはその日の気分で彼女が選ぶ。
三つ編みの頂点は大きめのハートやリボン、ドット柄の球体やファーボールの付いた飾りゴムでインパクトがあり、下方は頂点の髪飾りと同色の小さな花や無地のヘアゴムで結び終わり、左右対象になるよう母親がしっかりと編んでくれた。
服装も独特。
装飾付きの三つ編みに負けぬ様レースをふんだんに用いた所々に小さなピンクのリボンがあしらわれている白ブラウスと白ソックス、時折側面にアーガイル柄やハートが刺繍された白タイツを身に付けた上をフリルたっぷりの赤や水色のワンピースが覆った幼女の姿が出来上がるのであった。
それもお気に入りの三段フリルのワンピース。
まるでドレスのような出で立ちに加えリボン飾りのエナメルシューズが拍車を掛けて身支度終了となるのが日課である。
祖父母は顔を綻ばせ、両親は着飾った娘の手を引いて食事やデパートへ出掛けるのも楽しみの一つだった。時には水族館や遊園地、史跡のある観光名所など行き先は豊富で、小学校へ入学すると直ぐに博物館や美術館、雨の日は科学館など知的好奇心を擽る場所へ赴く様になった。
無論、彼女も其が楽しみで仕方なかった。
遠方旅行という御褒美のため日々読書と勉学に勤しんだ。
彼女にはもう一つの楽しみがある。
暇さえあれば動植物や昆虫を触って観察し、将来は生物学者を幼いながらに志していた。
彼女がまだ4歳の時である。
普段は歌唱とダンスが好きな可愛らしい女の子で、歌い踊る度にスカートのフリルを揺らしてははしゃいでいた。加えて美術にも関心を持ち模写やスケッチを初め、写真撮影やカメラ弄りに玩具の解体など興味の湧くもの全てを納得するまで確かめるのが彼女の性分だった。
特に玩具の解体は酷い。
母方の祖父の家を訪れたある日、孫娘の来訪を楽しみにしていたであろう祖父は、お茶やお菓子を頬張る彼女に近所の駄菓子屋で買った女児向け玩具をプレゼントした。
鮮やかなピンク色に円形のフォルム、クリーム色の下地に金色の装飾…そして極め付きは押すとキラキラ光る赤いハートのボタン。
如何にも女児が夢中になりそうな代物だが、久遠寺実成花は違っていた。
“中身が気になって仕方がない。”
玩具を手に取り数回ボタンを押すや否や開けても良いかと祖父に尋ねた。承諾を得ると直ぐ様傍にあった定規を隙間に捩じ込み、クリーム色のプラスチック板を剥がし始める。バキバキと恐ろしい音を立て板は激しく破壊された。ドライバーを使えば元に戻せたであろうが、幼いためドライバーという概念が無かったのだ。
他の女児であればボタンを押す度に喚声を上げ変身ポーズをとりそうな魔法グッズなのだが…彼女にその選択肢は無かった。
ピンクのリボンもフリルのワンピースも装飾に過ぎない。真実が知りたいだけなのだ。
ほんの2、3分後めでたく謎は解けた。
キラキラ光る魔法のボタン。
その正体は何てことはない…只の色付けされた電球だったのだから。それを知ることが彼女にとっての発見であり、楽しみの一つであった。
その小さな色電球は発光ダイオードという名で家庭のクリスマスツリーに巻き付けてある発光ダイオードと同じものである。
魔法でも何でもなく、身近にあるものが光っていることを知れて満足する彼女の手元には、無惨にも蓋をへし折られ基盤が剥き出しになった魔法の変身コンパクトが悲哀の発光ダイオードを力無く明滅させているだけだった。
プレゼントの魔法のコンパクトを解体され祖父は酷く困惑したが、合点がいったのか孫娘は血色良く至福の面持ちでお菓子を頬張っていた。
そんな変わり者が今や16歳。
当然、幾度の成長期を越え大人へ向かいつつもまだまだ呆気なさを遺す年頃。
そんな彼女には大きな秘密があった。
決して誰にも言えない。
否、口にしてはいけない。
まさか…
【
が使えるなんて。
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