たった四人の濃さじゃないよな...

 困惑している一年生たち。そんなこともお構いなしで、ブルーと呼ばれる先輩は説明を続けていく。

「ルールは簡単!今から、本名、二年生は部ネームも。そして誕生日、好きな食べ物、趣味。最後にみんなへ一言。の順番で自己紹介をしてもらいます!」

「その中で、たった一つだけ嘘をついてください!最後に、何が嘘だと思ったか聞いてた人に聞いていきます!ルールは以上!コツはポーカーフェイスを忘れるな。です!」

 ダウンタウンばりの進行を進める司会とブルー。周りの者は皆、雛壇芸人と化していた。順番は上級生からとなり、一年生たちの左隣から始まっていく。

「はい!まずは俺から!竹中颯斗です!部ネームは親方、ふざけて組長とか呼ぶやつがいるけど、ヤクザじゃねぇからな!」

 親方と呼ばれた彼は、その名に負けぬ体格で、座ってみるとそれがいっそう際立っている。ヤクザに見えるのも頷ける。恋斗はそう心中で思う。身振り手振りが騒々しく、歪んだ音符が散らかされているように見えた。

「誕生日は六月六日。悪魔の数字で覚えてくれ!食いもんは……たこ焼きが好きだな!趣味は筋トレ、筋肉は全てを解決するぞ!一言は……一緒にDIYしようぜ!」

 言い終わると、親方は、ポージングを幾つか決めた。カッターシャツの皺が伸びて、シルエットがより明確に見えている。

「はい!ということで、今から一つずつ聞いていくので、嘘をついていると思った項目の時に手を挙げてください!では、名前・部ネームだと思う人!」

「…………」

「これは、誰も居ないね。じゃあ次、誕生日だと思う人!」

 二年生の数人の手が挙げた。挙げた者の顔も、少し顰めていて、確信がある。という訳ではないようであった。

「はい、 次!好きな食べ物だと思う人!」

「………………」

「おぉ、これも居ないのか。じゃあ、趣味だと思う人!」

 二年生の残りと、一年生の女性陣が手を挙げる。誰も確信して手を挙げているものが居ないのか、気まずい雰囲気が漂っている。

「……へぇ。これが多いのかぁ。じゃあ最後、一言だと思う人!」

 手を挙げたのは、最後まで残った、叶と恋斗である。何の自信も無ければ、ただ、手を挙げそびれての結果だというのは、言うまでもない。

「それでは!正解の方を親方!発表してください!」

「……ん?正解?」

「…………え?」

 親方は、錆びたブリキのおもちゃのようにゆっくりと首を回して皆と顔を合わせると、ようやくそこで自分の過ちに気づいたようである。

「ごめん……。嘘つかなきゃいけなかったの、忘れてた……」

 場の空気は、サーっと音を立て、静かに引いていった。中には、やれやれ。とため息をつくものまでいた。

「はい!今のが、悪い例です!次の人から、嘘をつくと言うことを忘れないでくださいね!じゃないとゲーム成り立ちませんから!!」

「……じゃあ、次は俺の番かな。ちょっと待ってね。嘘つく場所を考える」

 黒縁の眼鏡をかけた、大人しそうな先輩が立ち上がる。背は170センチ程に見える。体格が良いわけではないが、スラリとしたそ立ち姿には、竹のようなしなやかさを感じられた。

「名前は飯田直幸。部ネームは、モカって呼ばれてます。由来はコーヒーから。誕生日は4月27日。好きな食べ物は……コンビニのおにぎり。ツナマヨがいいな。趣味はは散歩。健康的でいいぞ。最後に、是非照明部署へ。以上」

 少し早口に、淀みなく言い切ると、またもや静かになるが、今度は不都合な点はない。まさにそれは、竹を割ったようであった。

「……じゃ。じゃあ!聞いていきましょうか!まず最初、名前・部ネームだと思う人…………」

 全項目を聞き終わった時、そこに居た者の八割ほどが趣味に手を挙げた。モカから滲み出るインテリジェンスな雰囲気が、散歩と言う語彙に違和感を持たせているのだろう。残りのものはと言うと、誕生日に挙げた。しかしこれも、情報の少なさのあまりか、消去法という様子であった。

「さぁ!全員に聞き終わりました!それではモカ!正解の方を……お願いします!」

「えぇと。正解は、好きな食べ物です。おにぎりは合ってるんですけど、ツナマヨじゃなくて昆布が好きです」

「……わかるかぁ!!!!」

 なんとも仲の良く、息のあったツッコミが二年生から総じてされた。

「わぁ……なんかコントみたい〜」

「感心するところじゃ――いや、演劇部では感心するところなのか?叶どう思う」

「うーん……今は感心するところじゃないかもなぁ」

 などと、恋斗の隣、三人は話している。

 親方とモカの隣には、またも男の先輩――先程出会った、もりっぴーである。彼は、先刻恋斗たちに見せたような、もはや大根役者の域に差し掛かる振る舞いで自己紹介をやってのけた。

「俺の名前は、森下小次郎。もりっぴーと呼ばれているぜ!教育番組の緑の地理とは関係ないから、そこんとこ宜しくう!誕生日は、2月の4日!バレンタインが近いから、誕生日プレゼントのついでにチョコを!勿論、彼女も募集しているか安心してくれよな!」先の二人に比べて、馬車馬の様に舌がよく回っている。

 普段からこんなことを言っているのが、女性の先輩たちの顔から見てとれた。

「好きな食べ物は……何でも好きだぞ!一緒に飯食いに行っても気持ちよく飯が食えるな!趣味は…………俺は多趣味なんだが、絵を描くのが好きだな。一言は……みんな自分の部署の話ししてるもんな。自分じゃねえ誰かになるのも、楽しいもんだぞ!」

 もりっぴーの最後の一言が終わると、恋斗と叶、大志は顔を見合わせた。それは、彼女募集中の一言に終わると心中密かに思っていたからであろう。その後の答え合わせは、趣味が嘘だという結果であった。絵は小学生ぐらいの頃に、絵心のなさに絶望したらしい。本当の趣味はギターらしいのである。なんと今回は、二年生は皆当たっていた。もしかすると、彼の絵の下手さは、逆に才能と呼べる程なのかもしれない。と勝手に想像を膨らませる一年生たちなのである。

「はい!じゃあ、もりっぴーまで行ったので、次、隣のラビちゃん!お願いします!」

「はーい!名前は、鈴村美姫って言います!部ネームはラビって言うんだけど!理由はうさぎさんが大好きだからです〜!誕生日は10月16日で、誕生日が同じ弟がいます!」

 おぉ。と少し場が沸いた。同じ誕生日の兄弟はなかなか珍しいが、これが嘘なのではと恋斗は疑心暗鬼のにかけてみる。

「好きな食べ物は甘いもの全般が好きです!最近はチーズケーキにハマってます!いいお店あったら教えてください!趣味は……映画見ることです!私も、この女たらし鳥やろうと一緒でー」

 いきなり矢を飛ばされたもりっぴーの驚く声がステージ上に響く。見ていた雪はより一層ラビを気に入っていそうな笑顔。口角が上がり続けている。

「役者とか、あとは演出も兼ねたりしてます!興味あったら色々聞いてね!宜しくお願いしまーす!」

 終始にこやかなラビの姿は、朝の報道番組の天気キャスターのようで、きらきらと晴れている。ヒロインとして舞台に立っている姿が、自然と浮かんでくるのである。

「さて、また手を挙げてもらいましょうかね〜。じゃあ名前の人!.......無し。次、誕生日の人!……これは3分の1ぐらいかな?その次の趣味は……ほお。これもゼロ。じゃ……一言一ええ!?ここで手を挙げるって……あれかな?もりっぴーが女たらしじゃないとか?」

 皮肉ったらしい部長の言葉に、数人が吹き出す。不服そうなのは、当の本人である。

「ではラビちゃん!正解の方をお願いします!」

「正解は!誕生日です!弟ではなくて、誕生日が一緒の妹がいます!」

「おぉ……。これはなかなか上手いすり替えしましたね。ラビちゃんに拍手を!」

 満足げに座るラビ。拍手も相まって、佇まいはさながらアイドルである。

 漸くここで、二年生の自己紹介が、残り半分のところへ差し掛かっていた。

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ココアが溢した、恋、一色 戀一色 @renEso

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