この写真は私達の宝物

@rekiyama

第1話

   この部屋、この写真は私達の宝。

       10年前の話…

 

 私達のお父さんは1人で私達3人を育てていた。6歳の長女と4歳の次女、3歳の三女。3人ともとても仲が良く、よく色んなところへお出かけをして遊んでいた。私達のお母さんは長女の記憶が無い頃、既に私達の家族の元から離れて暮らしていた。自分達のお母さんの事を詳しく聞こうとしても父親は答えてくれなかった。私達に皆んなみたいな温かいお母さんはいない。だけど、私達は、お母さんの存在に飢えていなかった。何故ならお出掛けで遊ぶ時、いつも私達と遊んでくれるお父さんの知り合いのお姉さんがいるから。そのお姉さんは、どのお母さんよりも優しくて、温かい。お母さんがいない私達にとって、その優しいお姉さんは母親かの様に想っていた。

 ある日、お姉さんと遊ぶ時、お姉さんとお姉さんの友達が来た。私達はいつも通りお姉さん達と楽しく遊んだ。

 でもその日から、お姉さんと遊ぶ日は来なくなった。

 長女『何でお姉さんと遊べなくなったの?』

 父親『お姉さんは忙しいんだよ。遊びたかったら3人で遊んでなさい。』

 その後も何度もお姉さんと遊びたいとわがままを言ったが、了承される事は無かった。

 

 9年後、私達の家族に、新しいお母さんが来ました。

 新しいお母さんの姿を見た時、微かな記憶が蘇った。

 長女『この女の人、どっかで見た事ある…』

 次女、三女『た!確かに!』

 仮母『突然でビックリするわよね、これから私は皆んなのお母さんです。よろしくね!』

 三姉妹『は、はい。よろしくお願いします…』

 長女『もしかして、昔私達と遊んだ事ありますか?』

 仮母『あら、何の事かしら?』

 長女『ち、違うのかな、ごめんなさい急に。』

 次女『え、でも私もそんな気が…』

 長女『私もそうだと思ったけど、この人の顔、見覚えあるんだけど、よく思い出せなくて…』

 三女『ねぇお父さん、私知らない人がお母さんやだ!出てけ!』

 父親『コラ!知らない人じゃ無いよ、この人はずっと前から知り合いで、お父さんの恩人なんだよ。大切な家族なんだよ。』

 正直私達3人はこの新しいお母さんはあまり向かい入れたく無かった。理由は特に無いが、何と無く…

 仮母『まぁまぁ、知らない人が急に家族だなんて私でも嫌よ、これから少しづつ仲良くしていきましょう!』

 三姉妹『はーい』

 最初は受け入れ難かったが、新しいお母さんはすごく優しくて、面白くて、とっても良いお母さんだと私達は気付いた。お母さんという存在が、どれだけ大きい物かを私達3人は思い知った。それからは、お姉さんの存在を忘れるかの様に楽しく普通の家族として過ごしていた。少し違和感を感じながらも…

 

 新しいお母さんと、お父さんは幼馴染だったらしい。

 ある日、お母さんが家に居ない時があった。私達はお母さんの部屋には入っちゃダメと言われていたが、長女の私は気になってお母さんの部屋に入った。入ってみると普通の部屋だった。何故入っちゃダメと言われていたのか不思議な程に。だが、ふとした時にお母さんの机の引き出しに自然と目がいった。鍵穴があった。私はその引き出しを開けたくてたまらなくなり、鍵が何処にあるかを探し始めた。部屋の隅々まで調べ尽くしたが、何処にも鍵は無かった。諦めようと思ったが、一応鍵が空いていないか確認をする為に、引き出しを引いた。すると、鍵が掛かっていなかった。引き出しの中にはノートが何冊も入っていた。恐る恐るそのノートを私は開いてみると、日記が書いてあった。他愛の無い普通のの日記だった。

 長女『他のノートも見てみよう。』

 私は他のノートを開いた。

 その瞬間、私は自分の母親だと思っていた人がとてつもなく怖い者だと気付いた。日記の一部に、こう書いてありました。

 日記『彼に、アイツとの子供はいらない。私との子供だけでいい。あの女に良く似ている3人を見ると虫唾が走る。頑張って抑えて生活するのが苦しい。私は彼が大好きなだけなのに。彼を奪い返したと思ったら、今度は子供が邪魔だ。あの女への憎しみは日々増す一方。いっその事、あの女を殺せば済む話。』

 長女『な、何これ…私達、こ、殺されるかもしれない…どどどどどうしよう…』

 これは一体現実なのかよく分からなかった。恐怖で身体が動かない。これからどうすればいいのか、早くこの部屋を出なきゃ、お父さんに言わなきゃ、妹達を守らなきゃ。恐怖で体が震えてきた。

 すると突然、部屋のドアが勢い良く開いた。

 バァン!

 ビックリし、私はドアの方へと振り向くと、そこには母親が立っていた。血の気が引き、身体が更に固まったが、私は母の日記を見てから警戒は怠らずにいたので、母が急に部屋に入って来た頃にはノートも引き出しも元通りにしてあった。私はとにかくバレ無い様にする事だけに注意を払った。

 長女『入っちゃ駄目って言われたのに、ごめんなさい。』

 特にヤバいものは見てませんという雰囲気を全面に出し、平然を装った。

 仮母『別に見ちゃ駄目なものは無いから、そんなに気にしなくていいわよ。』

 仮母はそう言って、安心した様な顔をしながらベッドへ座り込んだ。とりあえず一安心と言いたいが、謎が多い分、恐怖は増すばかり。私はそのまま母親の部屋を出て、自分の部屋に戻って考えた。

 長女『とりあえずお父さんに言わなきゃ…妹には黙っておこう…』

 私は事の経緯を父親に全て話した。すると父親は心当たりがあった様な顔でこう言った。

 『あの人とは離婚しよう。そして遠い所に引っ越そう。お前は気にするな、大丈夫だからね。』

 正直私は、母親の恐怖よりも、父親の愚かさに幻滅していた。私達の本当のお母さんとも別れその理由も話さず、小さい頃遊んでいたお姉さんとも会えなくなり、その理由も話さず、更にこんな危険な人と結婚し、それに気付かず子供を危険に晒した。怒りがあったものの、父親に直接それをぶつける事はしなかった。とにかく私達の安全を最優先した。

 引っ越しを終え、妹達にも全て説明した。すると私達はある事を父親から教えられた。

 父親『俺がお前らの本当のお母さんと別れる事になったのは、あの女のせいなんだ。でも俺はその時良い事をしてくれたと勘違いして…再婚する前は何度もあの娘3人は元嫁に育てさせろと言われたが、俺はお前らが本当に大事だから、俺が育てた方が、絶対に安全だと思ってそうしてたんだ。でも俺が馬鹿過ぎるせいでこんな怖い思いをさせて本当にすまない。』

 長女『そうだったんだね。ちゃんと詳しく聞いてないから何とも言えないけど、お父さん本当に馬鹿だと思う。』

 次女『私達にそんな事言われても何も言えない…とにかく怖い。』

 三女『きも!マジあほ!何が言いたいの?普通に○ね!』

 

 半年が経ち、父親が新たな報告をして来た。

 父親『お前ら、今までちゃんとしたお母さんいなくて、大変だっただろ。何回目だよって思うかもだが、お父さんまた結婚しようと思ってる。これからは最高に楽しくなるぞ。』

 それを聞いた私は怒りが爆発しそうになったが、まだどんな母親かも知らないのに否定するのは違うと思ったので、必死で堪えた。

 数日後、二度目の新しい母親が家に来た。

 新母『どうも。』

 挨拶はそれだけだった。自己紹介も何も無くして、用意された自分の部屋に入って行った。暗くて無口でとてもお母さんとは思いたくも無い様な人だった。そこで溜め込んでいた私の怒りが爆発した。

 長女『お父さんホントに良い加減にして!どれだけ私達を振り回せる気なの⁉︎何回再婚するんだよ!こんな事になるならいっその事本当のお母さんに育てて貰えばよかった!』

 父親は何も言い返さずただ黙っていた。

 

 新しい母親は、必要最低限の会話すらもせず、ずっと自分の部屋に引きこもっていた。一度私は、新母の真相が気になり過ぎて、直接質問をした。

 長女『お父さんとは知り合いなんですか?』

 新母は質問をしても振り向いてすらくれない。無視をされて少し苛立ちを覚えたが、そのまま私は自分の部屋へ戻った。

 数日が経ち、新しい母親に不満を抱えていた私達三人はある事を考えた。三人でなら、母に直接言いたい事全部言えるだろうと。そして私達は引きこもってる母の部屋に入り、三人で言ってやった。

 長女『ねぇ、何で私達の事無視するの?夜中こっそり見てみたら、お父さんとは普通に話してるみたいね。どんな思いで私達が生活してるかとか考えた事ないの⁉︎』

 次女『私達は前のお母さんに殺されそうになったんですよ。私達はただ普通のお母さんが欲しいだけなのに、何でこんな辛い思いしなければいけないんですか?』

 三女『お前喋んないから嫌い。何しに来た!』

 言いたい事を思い切り言った。しかし新母は、それでも無反応だった。沈黙が続き、時間が経つにつれ、私達は更に怒りが込み上がって来た。すると、ずっと背中を向けていた新母がこちらを振り向いた。すると、下を向きながら、申し訳無さそうにしていた。

 三女『黙ってちゃ分かんないって!何なのホントに!?[#「!?」は縦中横]』

 すると突然、母が私達3人の手を強い力で握りしめて来た。

 長女三女『イッタ!』

 

 新母『ごめんね。』

 

 次女『え…?』

 三女『謝ったってしょうがないよ!』

 新母はそう言って荷物をまとめて、そのまま家を出た。

 長女『え?何あれ。謝るだけ謝って、家を出ていくつもり?』

 新母が家を出て数日経ったが、ずっと帰ってこない。父親に事を説明すると、父は慌てて新母に電話して家に帰らせようとする。が、それからもずっと新母は帰ってくる事は無かった。

 あれから1ヶ月が経っても尚、母が帰ってくる事は無かった。すると次女が物凄く慌てた様子で私達へと向かって来た。

 次女『待って嘘でしょ、ヤバい。』

 長女『どうしたの?』

 次女『ニュース見てないの⁉︎これ見て!』

 それを見た私達は目を疑った。

 長女三女『え、嘘でしょ…』

 ニュースの内容は、家を出て行った新母が殺人に遭って死亡しているという内容だった。

 長女『え…この容疑者ってさ…』

 次女『そう、新母を殺した人、この人、前の仮母だよ。』

 三女『嘘でしょ…どういう事…?』

 父親にもそのニュースを見せたら、そのニュースを見た父親は絶望していた。

 

 数日が経っても父親は絶望してずっと動かずにいたので、私達3人で新母の部屋を片付ける事になった。何が起こったのか理解が出来ないが、私達3人は部屋を片付けながら色々と推測を述べる。

 長女『何であの時さ、新母はごめんねとしか言わなかったのかな。』

 三女『普通にそれしか言いようが無かったじゃん、あの時は。』

 次女『でもさ、手を握るって事は何か想いがあったんじゃ無い?実はあの時私には新母が涙を流してる様に見えたの。』

 三女『マジ?あの人ずっと下向いてたからよく見えなかったんだけど。』

 長女『え、私も泣いてる様に見えたんだけど、そんなわけ無いなってスルーしてた。』

 色んな事を推測するが、手掛かりが少な過ぎて、何も良い結論は出ず謎のままだった。

 部屋を片付け始めて1時間。突然三女が大声を上げた。

 三女『ねぇ!これ引き出しに入ってたんだけど、これってさ…私達の写真じゃ無い…?』

 それを聞いてビックリした私達は三女の方へ飛び込んだ。私は長女なので、一番昔の事はよく覚えてます。引き出しにあった写真は、私達が小さい頃、あのお姉さんと遊んでいた時の写真でした。確かにあの時のお姉さんは、私達の写真を撮っていた気がします。その写真が何百枚も引き出しに入っていました。

 長女『ねぇ…も、もしかしてさ…新母ってあのお姉さんじゃ無い…?』

 三女『え…?』

 その可能性がよぎった瞬間、私達は全ての出来事がリンクしました。

 次女『ねぇ、もしかしてだけど、私達の本当のお母さんってさ……』

 最後の一言を言う間もなく根拠は無いが私達は完全に確信した。実の母のこれまで、実の母の現状、全ての出来事が一瞬にして伝わって来る。

 私達の本当のお母さんは、小さい頃私達が大好きだった、本当のお母さんと思っていたあの人だったという驚き…

 そしてその実の母が私達を庇う為に自分を犠牲にして守ってくれた…

 それに気付いた私達は皆んな写真を囲いながら泣き叫んだ。

 

 真実を知ってから、私達が立ち直るのにはとても時間が掛かりました。ですがあの写真を見つけたあの日から、私達にとって、

 この部屋、この写真は、私達の一生の宝物です。

 

 

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