【声劇台本】活劇×龍櫻綺伝 序章/覚醒 篇『キミシニタモウナカレ』

家楡アオ

『キミシニタモウナカレ』(男:女:不問=3:3:0)

<台本名>

 活劇×龍櫻綺伝

 序章/覚醒 篇『キミシニタモウナカレ』

 ※テスト前台本です。


<作品情報>

 脚本:家楡アオ

 所要時間:??~??分

 人数比率 男性:女性:不問=3:3:0(総勢:6名)


<登場人物>

 祈里待 湊(いのりまち みなと)

  性別:男性、年齢:10代後半、台本表記:祈里待

   本作の主人公であり、八大貴族・八芭螺家に仕えている。

   義理堅く争いを好まない心優しい青年であるが、自身の大切なヒトが

   危機に陥った際は、自己犠牲を厭わない行動をとることがある。


 八芭螺 桔梗(はばら ききょう)

  性別:女性、年齢:10代後半、台本表記:桔梗

   八大貴族・八芭螺家の次女で、現当主の姉の補佐役

   として領内の政務を手伝っている。

   容姿端麗で品行方正の人柄から龍櫻國民の人気が高い。

   湊とは幼馴染の間柄で、密かに彼の事を想っている。


 【将軍】龍宮豊玉之命(りゅうぐうとよたまのみこと)

  性別:女性、年齢:??歳(見た目は20代)、台本表記:竜宮

   龍櫻國を統治する【将軍】を務める女性で、

   そして龍櫻國の守護龍たる【神龍】リュウオウの継承者。 

   一人称は「妾」など古風な言葉遣いで話し、立場に相応しい

   威厳を兼ね備えてる一方で、柔らかくも蠱惑的な雰囲気も纏っている。


 【狻猊】八芭螺 纏(はばら まとい)

  性別:女性、年齢:30代前半、台本表記:纏

   八大貴族・八芭螺家の現当主で、『煉獄』を司る

   【竜生九子】である【狻猊】の継承者。

   豪放磊落で自由奔放と我が道を往く性格であり、

   将軍に対しても敬語を使わない。

   治安維持組織【八芭螺警邏隊】の総隊長でもある。


 【睚眦】㐂那屋敷 厳爾朗(きなやしき げんじろう)

  性別:男性、年齢:30代前半、台本表記:㐂那屋敷

   八大貴族・㐂那屋敷家の現当主で、『闘争』を司る

   【竜生九子】である【睚眦】の継承者。

   風貌・言動共に荒々しく、圧倒的な威圧感を持つ。

   価値観の全てを戦闘に置き、戦いと強さが全て。


 【贔屓】壱宣瀬 秤(いちのせ はかり)

  性別:男性、年齢:30代前半、台本表記:壱宣瀬

   八大貴族筆頭・壱宣瀬家の現当主、『秩序』を司る

   【竜生九子】である【贔屓】の継承者。

   非常に冷静沈着な性格の持ち主であり、

   【贔屓】の名に恥じない程の厳格で規則に厳しい。

   八芭螺 纏とは幼馴染の間柄であり、よく彼女と喧嘩する。


 皇儀 緋真(すめらぎ ひさな)

  性別:女性、年齢:享年30歳、台本表記:皇儀

  先代【椒圖】を務めていた女性で、竜宮とは親友であった。

  継承する前から原因不明の難病にかかっており、

  継承後も病は治ることがなかった。

  そのため戦いに身を投じたことで、やがて衰弱し病死してしまった。

  物静かな貞淑な女性ではあったが、時折大胆な行動をとることがあった。


<用語集>

 『龍櫻國』(読み:りゅうおうこく)

  【神龍】リュウオウと【四英傑】と呼ばれる4人の英雄が創設した東方国家。

  龍神信仰が盛んであり、一年中咲き続ける【千年桜】と呼ばれる桜の木が

  国中に植えられている。

  一部の者はヒトと龍の間に産まれた半人半龍であり、ほとんどが支配層にいる。



 『八大貴族』(読み:はちだいきぞく)

  【神龍】リュウオウの子となる【竜生九子】の血を受け継いだ、

  龍櫻國において強大な権力を担う8つの貴族。

   【贔屓ひき】:『秩序』を司る龍で、壱宣瀬いちのせ家が継承している。

   【螭吻ちふん】:『知恵』を司る龍で、弐櫂籐にかいどう家が継承している。

   【蒲牢ほろう】:『音楽』を司る龍で、参虹橋さんぐうばし家が継承している。

   【狴犴へいかん】:『正義』を司る龍で、四雀梅しがらめ家が継承している。

   【饕餮とうてつ】:『豊穣』を司る龍で、五穀寺ごこくじ家が継承している。

   【𧈢𧏡はか】:『水界』を司る龍で、禄貞辻ろくじょうつじ家が継承している。

   【睚眦がいさい】:『闘争』を司る龍で、㐂那屋敷きなやしき家が継承している。

   【狻猊さんげい】:『煉獄』を司る龍で、八芭螺はばら家が継承している。


『椒圖』(読み:しょうず)

 【竜生九子】に数えられるも、他の龍たちとは異なり力の継承に血筋は関係ない。

 そのため、【椒圖】自身に選ばれないといけないが詳細な選定方法は不明。

 前任者の9回目の命日を迎えた年に新たな継承者が誕生すると言われている。

 

 『神祇官』(読み:かみづかさ)

  【神龍】リュウオウおよび龍櫻國を守護する龍であり、

  【竜生九子】とは上位の位置に立つ。

  謂わば、神直属の親衛隊のような存在であり、全戦力を以てして

  簡単に一国を亡ぼす事は可能と言われるが、基本的に俗世の争い

  については原則的に不介入である。

  ただし【椒圖】のみは例外として【竜生九子】として数えられる。

   『神祇官』一覧

    【将軍】:龍宮豊玉之命

    【霸上】:??????

    【牛囚】:??????

    【椒圖】:空席(先代:皇儀 緋真)


【台本・配役テンプレート】

 台本名;

 活劇×龍櫻綺伝 序章/覚醒 篇『キミシニタモウナカレ』

 URL


 <配役>

  祈里待 湊:

  八芭螺 桔梗/皇儀 緋真:

  【将軍】竜宮豊玉之命:

  【狻猊】八芭螺 纏:

  【睚眦】㐂那屋敷 厳爾朗:

  【贔屓】壱宣瀬 秤:


※配役検索に役立ててください。

☆:祈里待

●:桔梗、皇儀

□:竜宮、N②、N③

△:纏

◇:㐂那屋敷

▽:壱宣瀬、N①、N④、N⑤、N⑥、N⑦



――――――――――――――――――――――――――――――――――


【零】


☆祈里待N:大海たいかいわたり、東の果てにひとつの国あり。


☆祈里待N:永久とわに咲き続ける数多あまたさくら、龍の血を受け継ぎたみ


☆祈里待N:そして和をもっとうとしとくに


☆祈里待N:龍神りゅうじん御座おわす、くには。


☆祈里待N:——『龍櫻國りゅうおうこく』。



(間)



□竜宮:『今よりは 秋風へさむく 吹きなむを 如何いかにか独り 長き夜を寝む』


□竜宮:――緋真ひさな其方そなたがいなくなってしまったのが昨日の事に感じるぞ。


□竜宮:時は無情むじょうにも進みくもの……


□竜宮:理解しておる。


□竜宮:このようなじょうを抱いたとしても何も変わらぬ事を。


□竜宮:九度くたびの命日を迎えし時、【椒圖しょうず】の新しき継承せし者、現世うつしよに現る。


□竜宮:見定めよう、其方が認めし者を。


□竜宮:このくにおさめる【将軍しょうぐん】として——



(間)



☆祈里待:んっ……ここは……


▽N①:青年・祈里待いのりまちみなとは、自身が見知らぬ場所にいることに気付いた。

    ひとみに映る光景は、咲き誇る千年櫻せんねんざくらの木々と、龍の紋章もんしょうきざまれた

    石の灯篭とうろうが規則正しく配列されていた。


☆祈里待:灯篭とうろうに、参道さんどう……ってことは、神社なのか?

     けど、本殿ほんでん鳥居とりいが見当たらないし

     それに——


●皇儀:こっちですよ。


☆祈里待:えっ?


●皇儀:こっちに来てください。


▽N①:見知らぬ女性の声が聞こえる。

    辺りを見渡してもどこにもいない。

    その女性の優しい声に懐かしさをみなとは覚えるも、

    思い出そうにも思い出させない。

    声にかれる様に彼は奥へと足取りを進める。


☆祈里待:あれは……


▽N①:光景が一瞬にして変わる。

    先程まで参道さんどうを歩いていたはずなのに、

    気が付くと、ある丘の上に辿たどり着いていた。


●皇儀:こんばんわ、ここまでご苦労様。


▽N①:そう言って、ひとりの女性が慈愛を込めた笑みを浮かべる。

    一見すると気品あふれる名家の女性ではあるが、

    それに似つかわしくない羽織はおりまとっている事にみなとは気付いた。


☆祈里待:龍紋羽織りゅうもんはおりに、それにその紋章もんしょうは……!!

     失礼致しました!

     神祇官かみづかさ様の御前ごぜんにも関わらず、とんだ御無礼を!


●皇儀:頭を上げてください。

    今は……貴方あなたと私の二人しかいません。


☆祈里待:しかし!


●皇儀:此処ここにいるのは、同じ龍櫻りゅうおうたみです。

    この場では身分と立場などは不要。

    ――それに私は、貴方あなたとお話をする為に来たんです。

    だから、頭を上げてください。お願いします。


☆祈里待:……わかりました。


●皇儀:ありがとうございます。


☆祈里待:失礼致します。

     神祇官かみづかさ様、お話と言うのは——


●皇儀:今は……


☆祈里待:えっ?


●皇儀:祈里待いのりまちみなとという名前なのですね。


☆祈里待:どうして、名前を——


●皇儀:ごめんなさい、今は詳しいお話をすることが出来ません。

    〝彼〟が創って時間は僅かしかありませんので……

    ――祈里待いのりまちみなと

    〝私達〟は貴方あなたに問います。


▽N①:おだやかな雰囲気が一変して、

    女性は厳格げんかくな裁判官のように質問してきた。


●皇儀:貴方あなたは——「何のために戦う」のですか?


▽N①:彼女がそう問いかけた瞬間だった。

    世界全体がガラスの様にヒビが入り割れてしまう。

    割れたその先は、暗闇くらやみの世界。

    底が見えない奈落ならくに、二人は落ちていく。


☆祈里待:おわっ!? 落ちる!!


●皇儀:あぁ、ごめんなさい……時間切れのようですね……


☆祈里待:ま、待ってくれ! まだ最後まで!!


▽N①:みなとは諦めきれずに、女性へと手を伸ばしさけんだ。

    しかし彼女に近付くことは出来ず、反対に彼女は離れていく。


●皇儀:また近いうちに会う事になるでしょう。

    だからこそ——


▽N①:最後の一言を彼女は言う。


●皇儀:キミニシタモウコトナカレ。


▽N①:離れているのに、女性の声は彼の耳元で明瞭めいりょうに聞こえた。



☆祈里待:活劇かつげき龍櫻綺伝りゅうおうきでん


□竜宮:序章じょしょう覚醒かくせい へん


●皇儀:『キミシニタモウナカレ』



【壱】


☆祈里待:待ってくれ!

     ――あれ? ここは……俺の部屋だよな?

     夢、だったのか。

     なんか現実な事のように感じたけど……

     あのヒトはどうしてそんな事を……

     それに——


●皇儀(回想):貴方あなたは——「何のために戦う」のですか?


☆祈里待:なんであんなことを……

     んっ? この鐘の音は——

     やっべ! 寝坊だああああああ!!



(間)



☆祈里待:1121、1122、1123……


△纏:みなと、お前は実に八芭螺はばらのために良く尽くしている。


☆祈里待:1150、1151、1152……


△纏:だからこそ、俺は心苦しく感じている。


☆祈里待:1161、1162、1163……


△纏:さっ! 後、200回追加だ!!


☆祈里待:ちょっとまてぇい!!


△纏:なんだ? 今動かすのは口じゃなくて、身体だ。

   ほれ、続きを早くしろ。


☆祈里待:「なんだ?」、じゃないでしょーが!

     この炎天下の中、100㎏の巨石きょせきを背負わされた上に、

     スクワットもさせるだけでも鬼畜なのに!!


△纏:しょうがないだろう。

   稽古けいこに遅刻したお前が悪い。


☆祈里待:それはスイマセンでした!

     でも、どうして200回追加されるんですか?!

     増やされる要素、なかったでしょ!!


△纏:それは俺の言葉に反応しないからだ。


☆祈里待:理不尽だあああああ!!


●桔梗:――うふふ、随分と姉上にしごかれているのですね、みなと


☆祈里待:お、お嬢……


△纏:おはよう、桔梗ききょう! 良い朝だな!!


●桔梗:おはようございます、姉上。

    朝餉あさげの時間になっても、お二人の姿が見えない

    と思ったので様子を見に来たんですか……予想通りでした。

    姉上、いいですか?

    みなと警邏隊けいらたいの一員であるのは

    承知しておりますが、私の護衛官なのでもあります。

    そうやってイジめないでくださいませんか?


☆祈里待:お、お嬢……ぐおっ!!


△纏:だってさ、どうする?


☆祈里待:だってさ、じゃないでしょーが!!

     てか、なんで重量が増しているんだ……!


△纏:俺が乗っているからな!


☆祈里待:ああっ! 納得の重さだ!

     あれ? まとい様、前より少し重くなりました?


●桔梗:あっ……


☆祈里待:あっ……やっぱり、今のナ——


△纏:よし、死ね。


☆祈里待:ああああああああああああ!!



【弐】


☆祈里待:あぁ……全身がいてぇ……マジで地獄だった……


●桔梗:姉上に対してあんなことを言ってしまったら、

    制裁を与えられるのはわかっていたでしょうに……

    みなとはいつも一言多すぎです。


☆祈里待:でもさ、桔梗ききょう


●桔梗:えい!


☆祈里待:あいたぁ!? 湿布しっぷを貼るときは優しく……


●桔梗:……また、傷が増えている。


☆祈里待:えっ?


●桔梗:傷が増えている、と言ったのです。


☆祈里待:もしかして、背中の火傷のことか?

     大丈夫、もう治っ——


●桔梗:この間の火事の時ですか?


☆祈里待:……あぁ、まあな。

     子供が取り残されたって聞いてさ……

     それに火消し隊が到着するまでには手遅れになると思って。

     ――って、そんな顔をするなって!

     俺なら大丈夫だよ! ほら!!


●桔梗:どれだけ心配しているか、わかっている?!


☆祈里待:うっ……


●桔梗:確かに貴方は、私の大事な護衛官でもあり、幼馴染!

    今回はたまたま無事でいたからいいけど……

    本当に死んでしまったら、私……私……


☆祈里待:――ごめん。


●桔梗:ちゃんと約束を守ってください!

    私の許可なしで死ぬ事は許しません!!


☆祈里待:うん、わかった。


●桔梗:……足りません。


☆祈里待:へっ?


●桔梗:ちゃんと誓ってください、言葉で!


☆祈里待:さっきのじゃダメなの?


●桔梗:ダメです!!


☆祈里待:泣き虫のくせに、相変わらずの頑固さだなぁ……わかったよ。

     どんなことがあっても、お嬢――桔梗ききょうの元に戻ってくる。

     約束する。


●桔梗:よろしい!


☆祈里待M:良かった……なんとか機嫌を取り戻してくれたか。


△纏:ほ~う?


☆祈里待:こ。この声は……


△纏:随分とお熱い場面に出くわしてしまったな~?


●桔梗:姉上!?


☆祈里待:最悪だ……


△纏:みなと~? 何か生意気な事を言ってたな~?


☆祈里待:えーっと……自分には何のことだがさっぱり……


△纏:「どんなことがあっても、お嬢――桔梗ききょうの元に戻る。約束する」


☆祈里待:おーい! やめろー!!


△纏:なんだ? お前のマネをしただけだが?


☆祈里待:明らかにバカにしているだろ!!


●桔梗:そ、それにしても! 姉上?

    一体、どうされたのですか?

    みなとは今日、警邏隊けいらたいの仕事は無い筈ですが……


△纏:それはそうなんだが……ちょいと面倒な事になってな……


●桔梗:面倒な事?


△纏:みなと、お前に客人だ。


☆祈里待:俺に、客人ですか?


△纏:そうだ。てか、もう来ているんだがな。


□竜宮:【狻猊しゅんげい】、其方そなたところは大変賑やかで愉快じゃな。


☆祈里待:えっ?


●桔梗:今の声……もしかして……


△纏:そうだろう、そうだろう!


☆祈里待 / ●桔梗:将軍様ー!?


□竜宮:ふふっ、良き反応をするものじゃ。


☆祈里待:た、大変失礼いたしました。


●桔梗:将軍様の御前ごぜんにも関わらず、礼を失くした愚行ぐこう

    ……大変申し訳ありません。


□竜宮:良い良い、おもてをあげよ。


●桔梗:しかし——


□竜宮:此度こたびの訪問は非公式ゆえに、其方そなたらに非はない。

    それにしても――


△纏:んっ? なんだよ。


□竜宮:【狻猊しゅんげい】、其方そなたぐらいだぞ? わらわの前で自由にしているのは。


△纏:だって、この家の主だし。


●桔梗:姉上!!


□竜宮:嘆かわしいものじゃ。

    八芭螺はばら家の当主が妹君ではないということが……


△纏:しょうがねーじゃん、先に俺が産まれちゃったんだからさ。


□竜宮:まあ、そんなお主をわらわは気に入っておるからいいんじゃけどな。

    【贔屓ひき】は許してくれなそうじゃが。


△纏:確かにそうだな!

   はかりのヤツがいたら、ひと悶着もんちゃくは起きていただろうさ!!

   あーはははは!


▽壱宣瀬:――ならば。


△纏:えっ?


▽壱宣瀬:貴殿が望むのなら、その軽口の通りに実現しようか?


△纏:げっ……いたのかよ……


▽壱宣瀬:当然だ。

     将軍が動く以上は、【竜生九子りゅうせいきゅうし】の誰かが護衛につくのは必須だ。


△纏:相変わらず堅苦しいヤツだよ、お前は。


▽壱宣瀬:祈里待いのりまちみなと、今すぐに支度したくせよ。


☆祈里待:えっ、支度したくですか?


▽壱宣瀬:お前に、幕府への登庁が勅令ちょくれいとして公布こうふされている。


☆祈里待:ちょく、れい?!


□竜宮:そうじゃ、わらわはお主に用があるのじゃ。


△纏:何かやらかしたのか?


☆祈里待:まとい様じゃないんだから!!


△纏:おっ?


☆祈里待:スイマセン。


▽壱宣瀬:【狻猊しゅんげい】、お前もだ。


△纏:えっ、俺も?


□竜宮:そうじゃ。

    もちろんだが、それも勅令ちょくれいじゃ。

    ……わかっておるな?


△纏:わかってますよっと。

   勅令ちょくれいに反するは流石に犯さねぇよ。

   で、参考程度ですけど……登庁については俺なら納得ですが、

   どうしてウチのみなとを?


▽壱宣瀬:貴様、いい加減に——


□竜宮:構わん、【贔屓ひき】。

    龍神りゅうじんから託宣たくせんが下った。

    ――「祈里待いのりまち みなとが【椒圖しょうず】の次代継承者の可能性あり」、と。


△纏:なっ!?


●桔梗:うそっ……


☆祈里待:えっ、どういうこと?


□竜宮:なんじゃ、知らぬのか?


△纏:当たり前だろ……こんなことは限られたヤツしか知らねぇんだから。


□竜宮:そういえば……そうじゃった。

    いかんなぁ、永く生きていると物忘れをしてしまう。

    ――さて、祈里待いのりまち みなと


☆祈里待:は、はい!


□竜宮:お主には、この國の守護者たる【神祇官かみづかさ】であり、

    【竜生九子りゅうせいきゅうし】最後の一柱、【椒圖しょうず】の次代継承者の候補者として選ばれた。

    その御身おんみがふさわしいかどうか、【継承の儀】を将軍であるわらわ

    直接たてまつる――よいな?


☆祈里待:承知しました!


□竜宮:ふふっ、期待しておるぞ?


△纏M:うっわ……あの顔は何か企んでやがるな……?

    しかも絶対にロクでもない事だ。

    みなと、ご愁傷様。



【参】


□N②:幕府へ向かう馬車のひとつにみなと桔梗ききょうまといの3人が乗っており、

    車内の空気は重苦しい雰囲気ふんいきであった。

    突然の来訪者から告げられた言葉は、にわかに信じられない

    内容でみなとは頭を悩ます。

    【神祇官かみづかさ】は龍櫻國りゅうおうこくの守護神として役割を担い、

    そして【椒圖しょうず】は【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱に数えられながらも、

    【神祇官かみづかさ】の役割を担う特殊な龍。

    その力を継承する候補者として選ばれたのだから。


☆祈里待M:――【将軍】からの言葉だ、そこに嘘偽りは無いはず。

      でも、どうして俺なんだ?

      高貴な出自ではないし、八芭螺はばら家と親交があるとは言え、

      血縁関係があると言うわけではない……ただの一般庶民だ。

      にも関わらず、【八大貴族】と同等の権限を持つ立場に

      なるかもしれない……今でも信じられない……


△纏:なんだ、お前は! 辛気臭しんきくさい顔をしやがって!


☆祈里待:だー! もう! わかっているんですか?!

     結構やばいことになっているんですよ!!


△纏:だから言ったじゃねえか、面倒な事になったって。


☆祈里待:他人事だからって……てか、全然驚かないんですね。

     まさか……知っていたんですか?


△纏:まあ、そりゃあ俺だって【竜生九子りゅうせいきゅうし】のひとりだしな。

   とは言っても、気配を感じたが曖昧あいまいだった。

   まるでもやがかかっているかのように、な。


●桔梗:姉上……もし、みなとが本当に継承者なら……


△纏:あぁ、【椒圖しょうず】は【竜生九子りゅうせいきゅうし】でもあるが

   【神祇官かみづかさ】の役割も担っている。

   その時は【将軍】の元に仕えなきゃいけない。

   正確に言えば、龍神りゅうじん様の元だけどな。


●桔梗:それじゃあ……いずれは八芭螺はばらの家を出なければならない

    という事なのですね。


△纏:そうだ。


●桔梗:そう、ですか……


☆祈里待:ちょっと待てよ! まだ決まった訳じゃない!

     それにいくら八芭螺はばら家と付き合いがあるからって俺が——


△纏:くどいぞ、みなと


☆祈里待:っつ!


△纏:おまえがいくら足掻あがこうとしても無駄だ。

   それとも、なんだ?

   【将軍】が嘘をついていると言いたいのか?


☆祈里待:そんなことは——


●桔梗:良い事ではありませんか、みなと


☆祈里待:桔梗ききょう

     お前、何を言っているんだよ……


●桔梗:とても名誉な事です。

    あるじとしてはとても……とてもほまれ高いことです。


☆祈里待:お前はそれでいいのかよ!!


●桔梗:…………。


☆祈里待:約束しただろ! 何があってもお前の傍にいるって!!


●桔梗:……そんな事、此度こたびの事に比べれば些末さまつなモノです。


☆祈里待:桔梗ききょう


●桔梗:黙りなさい!!


☆祈里待:っつ!


●桔梗:貴方は私の従者なのです!

    自らの忠誠を尽くす相手に対する無礼な態度は言語道断です!


☆祈里待:お前は——


△纏:二人ともそこまでだ。


☆祈里待:っつ!


●桔梗:姉上……


△纏:馬車が停まった。

   どうやら幕府に到着したみたいだな。

   みなと桔梗ききょう、降りる準備をしろ。


☆祈里待:……はい。


●桔梗:わかりました……


△纏:(※小声で)……まったく、まだまだ子供だな。



【肆】


□N③:幕府内にある特別留置場。

    ある一人の男が収容されていた。


◇㐂那屋敷:んっ?

      よぅ……誰かと思えば壱宣瀬いちのせじゃねえか。

      相変わらず、気に食わねぇツラをしていやがるなァ!


▽壱宣瀬:…………。


◇㐂那屋敷:おいおい、無視かよ……

      こちとら謹慎きんしん中の身の上で、暇で暇でしょうがねぇってのによぉ……


▽壱宣瀬:…………。


◇㐂那屋敷:黙ってるんじゃねえよ!

      こちとら、鬱憤うっぷんが溜まりまくってしょうがねぇ!

      あまりめた態度をとっているとるぞ?


▽壱宣瀬:なら、それは良かった。


◇㐂那屋敷:あっ? 何を言って——


▽壱宣瀬:出ろ、【睚眦がいさい】。謹慎きんしん解除だ。


◇㐂那屋敷:ふざけるな、何のじょうだ――!


▽壱宣瀬:勅令ちょくれいが下った。


◇㐂那屋敷:……なんだと?


▽壱宣瀬:これより、【継承の儀】が始まる。

     貴殿には「継承者候補の相手をせよ」とのことだ。


◇㐂那屋敷:おいおい、今度こそ本物なんだろうな?

      かれこれ8人を相手にしてきたが、全員が偽物だっただろうがァ!


▽壱宣瀬:だからと言って、不殺ころさずの命を破るのは御法度ごはっとだ。

     死罪とならなかっただけでもありがたいと思え。


◇㐂那屋敷:こちとら不愉快でしかねぇんだよ!

      全員が無能なザコばっかりだ!

      しまいには戦いを恐れて背中を見せた馬鹿野郎もいる!!


▽壱宣瀬:…………。


◇㐂那屋敷:最後のヤツは地方貴族かなんだが知らねぇが、

      一言一言がしゃくさわるから斬っただけだ。


▽壱宣瀬:ふぅ……野蛮なのは【睚眦がいさい】の継承者だからなのか、

     それとも生来のモノなのか?


◇㐂那屋敷:そう思うんだったら、他の【竜生九子りゅうせいきゅうし】の奴らに頼みな。

      俺は降ろさせてもらうぜ。


▽壱宣瀬:それは許されない。


◇㐂那屋敷:あ゛ァ?

      邪魔すんなら、代わりにテメェを今ここで叩き斬ってやろうか?


▽壱宣瀬:勅令ちょくれいだと言ったはずだ……それに、今回は不殺ふさつをしなくてもいい。


◇㐂那屋敷:はっ?


▽壱宣瀬:【将軍】より「殺してもかまわない」との通達だ。


◇㐂那屋敷:はっ! おいおい、遂に【将軍】様も狂っちまったか?

      お笑い草だなァ!!


▽壱宣瀬:言動を慎め、【将軍】への不忠ふちゅうと判断するぞ。


◇㐂那屋敷:事実じゃねえか!

      よし、わかった! それなら喜んで従ってやるよ!!

      もちろん、殺してしまっても謹慎きんしんはないんだろ?


▽壱宣瀬:勿論もちろんだ。


◇㐂那屋敷:ククッ……クククッ、久しぶりの本気の殺し合いだァ!!


▽壱宣瀬M:――しかし、これでいいのだろうか……?



(※回想シーン:開始)



▽壱宣瀬:はっ? 今、なんと……?


□竜宮:【睚眦がいさい】を解放せよ、今回の【継承の儀】に必要じゃ。


▽壱宣瀬:御言葉ですが、㐂那屋敷きなやしきは前回の儀式において

     不殺ころさずめいを破りました。

     また、あの野蛮やばんな男の事です。

     此度こたび祈里待いのりまちについてもほふられる可能性があります。


□竜宮:……おまえさんは、あの者が負けると思うのか?


▽壱宣瀬:はっ?


□竜宮:今までの者は、貴族の者たちが自身らのはくをつけるために

    寄越よこした者に過ぎないのは明白じゃ。

    しかし、あの者は本物じゃ……ひとめ見ただけでわかる。


▽壱宣瀬:それは一体……


□竜宮:あやつから緋真ひさな残滓ざんしを感じた。

    今までの者にはない、明らかなモノじゃ。

    しかし、このままでは力を解放する事は出来ん。

    ならば、無理やりにでもこじ開ける。


▽壱宣瀬:つまり——


□竜宮:荒療治あらりょうじというやつじゃ♡



(※回想シーン:終了)



▽壱宣瀬M:――ことの真意は本物か、それとも単なる気まぐれか。



【伍】


☆祈里待:ここは……?


□竜宮:幕府地下の最下層、通称『阿鼻あびの間』じゃ。

    ここで発生するあらゆる音や衝撃は、地上に決して届くことは無い。


☆祈里待:まるで阿鼻地獄あびじごくみたいだ……あぁ、だからそういう名前か。


□竜宮:ええのう、わらわは学がある者は好きだぞ。

    ならば、どうしてお主をここに連れて来たか……わかるか?


☆祈里待:それは……【継承の儀】のため、ですよね?


□竜宮:そうじゃ。そして、そのために——


◇㐂那屋敷:テメェが【椒圖しょうず】の新しい継承者か?


☆祈里待:えっ?


▽壱宣瀬:遅くなってしまい大変申し訳ありません。


□竜宮:構わんぞ、わらわたちも先程着いたばかりじゃ。

    さて……祈里待いのりまち みなと、準備は良いかのう?


☆祈里待:準備?


□竜宮:其方そなたの実力、試させてもらうぞ。


☆祈里待:え、えーっと……


◇㐂那屋敷:よそ見をしている暇はねぇぞォ!!


☆祈里待:っつ!


◇㐂那屋敷:いい反応するじゃねえか!

      今までのザコとは大違いだ! 嬉しいぜ!!


☆祈里待:そいつは……どうも! ふんっ!!


◇㐂那屋敷:はっ! 随分と戦いにこなれているじゃねえか。

      よく見たら、その短刀と服……なるほど、警邏隊けいらたいか。

      だったら、わかるよな?

      俺はそこらへんのぞく共じゃねぇぞ!

      そんななまくらじゃ俺を斬れねぇ!!

      もう一つの刀、その腰に差しているモノはただの棒じゃねえだろ?


☆祈里待:なんなんだ、こいつは?!


□竜宮:【竜生九子りゅうせいきゅうし】がひとり、『闘争』を司る龍――【睚眦がいさい】。

   その継承者である㐂那屋敷きなやしき 厳爾朗げんじろう

   此度の儀式にて、お前の素質そしつを測る者じゃ。


☆祈里待:ちょっと待って?!

     あのヒト、全力で俺を殺そうとしてきているんですけど?!


□竜宮:祈里待いのりまちよ、其方は【椒圖しょうず】の次期後継者である。

    どんなに否定しようとも、その事実は変えられぬ事だ。

    お主がすべきことは……?


☆祈里待:――目の前の敵に勝つ事。


□竜宮:ご名答♪


☆祈里待:滅茶苦茶だ……


□竜宮:勝てなければ、お主は死ぬ。それだけじゃ。


☆祈里待:――あぁ、納得。

     だから桔梗ききょうたちの同行を許さなかったのは、これが理由か。

     なんとなく薄々と感じていたけど……

     まったく、ヒトの人生をなんだと思っているんだ。


□竜宮:さて、戦いは始まってしまったが……何か言葉はあるかのう。


☆祈里待:――ひとつだけ。


□竜宮:なんじゃ?


☆祈里待:約束を果たし、桔梗ききょうの元に戻ります。

     俺はここで死ぬわけにはいかないんです。


□竜宮:――相承知あいしょうちした。

    ならば、行って参れ。


◇㐂那屋敷:ハッ! 刀を抜いたってことは覚悟が決まったようだなァ!

      久しぶりに楽しめそうな戦いだ。

      お前に敬意を表して、特別に口上こうじょうを述べてやるよ!

      ――我が名は! 【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱たる【睚眦がいさい】の継承者!

      第11代㐂那屋敷きなやしき家当主、㐂那屋敷きなやしき 厳爾朗げんじろう 宗伯むねのりなり!!


☆祈里待:腹をくくるか……(※一息を吐いた後に)我が名は!

     八芭螺はばら警邏けいら隊、第一分隊隊長! 祈里待いのりまち みなとなり!!


☆祈里待 / ◇㐂那屋敷:いざ尋常じんじょうに! 勝負しょうぶ!!



【禄】


△纏:(※大きなあくびを一回した後に)ヒトを呼んでおいて待機とか。

   暇すぎるな、お前もそう思うだろう? 桔梗ききょう


●桔梗:…………。


△纏:ききょー!


●桔梗:あっ! はい! どうしましたか、姉上?


△纏:全く……聞いていなかったな?


●桔梗:あっ……申し訳ありません……


△纏:アイツのことが気になるか?


●桔梗:い、いえ……


△纏:嘘をつくのなら、もう少し器用にやれ。

   表情かおに出ている。


●桔梗:……はい。


△纏:しょうがないヤツだ……

   桔梗ききょう、お前は【椒圖しょうず】の事は知っているな?


●桔梗:はい。

    【椒圖しょうず】は【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱であり、

    そして【将軍しょうぐん】・【霸上はじょう】・【囚牛しゅうぎゅう】と共に、我が國の【神祇官かみづかさ】の役割

    を担う特別な龍です。

    他の【竜生九子りゅうせいきゅうし】とは異なり、【椒圖しょうず】のみは【椒圖しょうず】自身に

    よって選ばれた者にしか力を継承出来ない。


△纏:そうだ、そこには家柄も身分も関係ない。

   ……前任者の皇儀すめらぎ 緋真ひさなさき戦役せんえき中にやまいによって命を落とし、

   そして前任者の死から九度くたびの命日を迎えし年に新たな継承者

   が現れるといわれている。

   全ては繰り返されるものだ。


●桔梗:姉上、その……継承の儀とはどういった事をするのですか?


△纏:まあ、聡明そうめいのお前ならば聞いてくるよな。

   黙っていようと思ったんだが……仕方がない。

   それに知っておいたほうがいいだろう。

   継承者に「己を【椒圖しょうす】の後継者であることを自覚させる」事だ。

   そして、その為には戦いを通して力を顕現けんげんさせる必要がある。


●桔梗:戦いを通して……それって……


△纏:そうだ、命懸けの戦いとなる。

   確かに、みなと警邏隊けいらたいの中でもずば抜けた

   戦闘力の持ち主だが、相手が厄介やっかいだ。

   この気配からして……今、戦っているのは㐂那屋敷きなやしきのヤロウだ。


●桔梗:㐂那屋敷きなやしきって【睚眦がいさい】の……!!


△纏:そうだ。

   【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱、『闘争』を司る龍、【睚眦がいさい】の継承者。

   ……厳しい戦いになるだろうな。


●桔梗:くっ!


△纏:どこに行くんだ。


●桔梗:止めるんです! こんなこと、馬鹿げています!!


△纏:これは勅令ちょくめいだ。

   お前ひとりで何とか出来る問題ではない。


●桔梗:ですが!


△纏:桔梗ききょう!!


●桔梗:っつ!


△纏:物事の道理が理解できないお前ではないだろう。

   何故だ、どうしてお前の心がそこまで乱れる?


●桔梗:そ、それは……


△纏:好き、だからか?


●桔梗:(※恥ずかしくなって声にならない声を挙げる)


△纏:まあ、そんなことはとっくの昔に気付いていたけどな。

   ただ……単純な好意じゃない。


●桔梗:えっ?


△纏:固執こしつしている、というのが正しい。

   理由はなんだ?


●桔梗:――彼とは……みなとと約束したんです。

    覚えていますか? 父上と母上が亡くなった日を……


△纏:忘れるわけないさ……いくら任務で離れていたとは言え、

   二人を守れなかったのは、俺の不徳を致す限りだ。


●桔梗:あの時、私も危うく殺されそうになりました。

    ですが——



(※回想シーン:開始)



☆祈里待:桔梗ききょう!!


●桔梗N:ぞく凶刃きょうじんから私を守るように

     みなとは前に立ち、攻撃を受けました。


☆祈里待:ぐあっ!!


●桔梗:みなと


☆祈里待:こんの……ま、けるもんかああああああああああ!!


●桔梗N:彼は倒れそうになったところを踏ん張り、

     すぐさま体勢を整えてぞくを斬りつけたのです。


●桔梗:みなと!!


☆祈里待:わるい……遅くなって……

     へへっ、桔梗ききょうに怪我がなくて良かった……


●桔梗:バカ!


☆祈里待:ちょ、ちょっと待って……俺、ケガ人……

     ぽかぽかなぐらないでぇ……


●桔梗:どうしてかばったりなんかしたのよ!

    下手したら死んでしまったかもしれないのに!!

    どうして?!


☆祈里待:……そりゃあ、桔梗ききょうだからだよ。


●桔梗:本当に、バカじゃないの……

    いくら主従関係を結んでいるからと言って——


☆祈里待:ちげえよ。


●桔梗:えっ?


☆祈里待:主とか関係なく、お前だから……桔梗ききょうだから守ったんだよ……


●桔梗:(※小声で)本当に貴方というヒトは……


☆祈里待:今、何て——いったぁ! そこ斬られたところ!!

     ……桔梗ききょう


●桔梗:そんなことを言うんだったら、約束して……私の傍に居なさい……


☆祈里待:桔梗ききょう……


●桔梗:絶対に生きて帰って来て! 何が何でも!!

    ……勝手にいなくなったら、承知しないんだから。


☆祈里待:わかった。

     ――桔梗ききょうの事は必ず守るし、勝手にいなくなったりしない。



(※回想シーン:終了)



●桔梗:――彼との大事な約束なんです。

    でも、申し訳ありません……私情しじょうはさむなんて……

    少し頭を冷やして——


△纏:いいじゃねえか。


●桔梗:えっ?


△纏:たくっ……ウチのかわいい妹にそこまで言わしたのか、あの小僧は!


●桔梗:姉上?


△纏:桔梗ききょうも、桔梗ききょうだ!

   お前のその言葉って、ある意味プロポーズじゃねえか!!


●桔梗:えっ……えっー!!


△纏:よし、行くぞ!


●桔梗:えっ? どこにですか?


△纏:決まっているだろ?

   お前の愛しいヒトに会いに行くんだよ!


●桔梗:ちょっと姉上!?


▽壱宣瀬:――やはり、来て正解だったな。


△纏:ちっ、空気が読めないヤツが来やがったか。


▽壱宣瀬:空気が読めないのは貴殿きでんの事だろう。

     神聖なる継承の儀を妨害する事は万死ばんしに値する。

     やはり、私の予感は当たっていたか。

     ――ならば、私はここで貴殿きでんを食い止める。


△纏:いいねぇ! 最近は平和過ぎて身体がなまっていたんだ!

   お前だったら手加減しなくても……半殺し程度で済ませられるな。


▽壱宣瀬:その軽挙妄動けいきょもうどういさめてやろう。


△纏:その刀を抜くか……って事は本気だな!

   ――桔梗ききょう! 行け!!


▽壱宣瀬:行かせぬ!


△纏:おっと! 邪魔してるんじゃねーよ!


▽壱宣瀬:ぐっ!


△纏:テメェが龍の力を使うんだったら、コッチもやってやるよ!


▽壱宣瀬:貴様……!


●桔梗:姉上!!


△纏:俺の事はどうでもいい、早く行け!

   こいつを抑えている間に!!


●桔梗:っつ……はい!


△纏:――よし、行ったな。あら、よっと!


▽壱宣瀬:ぐっ!


△纏:刀だけが戦う手段じゃねえぞ。

   脇腹わきばらがガラ空きだったんで蹴りを一発、いれさせてもらったぜ。


▽壱宣瀬:ちっ……やはり、私はお前を嫌悪する……!


△纏:それは奇遇きぐうだな! 俺もお前の事が嫌いだよ!

   てか、俺の大事な妹を斬り殺そうとしたよな?


▽壱宣瀬:儀式を邪魔する者は、【八大貴族はちだいきぞく】であっても

     例外なく処罰するのは当然だ。


△纏:お前の辞書には「柔軟性」という言葉はねぇのかよ?


▽壱宣瀬:私は【八大貴族はちだいきぞく】筆頭の壱宣瀬いちのせ家当主であり、

     『秩序ちつじょ』を司る【竜生九子りゅうせいきゅうし】、【贔屓ひき】の継承者。

     その私が、貴様らの様な愚行ぐこうおかす訳にはいかぬ。


△纏:やっぱりうざいな、お前。


▽壱宣瀬:その言葉……貴様にそっくりそのまま返してやる。


△纏:上等だ……やれるもんならやってみろ!


▽壱宣瀬:『秩序ちつじょ御旗みはたもとに げる』


△纏:『森羅万象しんらばんしょう あまね灰燼かいじん煉獄れんごくほむらよ』


▽壱宣瀬:『てん逆巻さかまき 規行矩歩きこうくほたる守人まもりびとよ 此処ここに』


△纏:『暗翳あんえいに 光輝燦然こうきさんぜんしめせ』


△纏 / ▽壱宣瀬:『龍令解号りゅうれいかいごう!!』



【漆】


▽N⑤:場面は移り変わり、幕府地下最下層・阿鼻あびの間。

    部屋全体に響き渡る剣戟けんげきの音。

    ――刃と刃がぶつかる度に周囲に衝撃しょうげきが走る。

    それが苛烈かれつきわめる戦いであることを示していた。


☆祈里待:くっ!


◇㐂那屋敷:剣の腕は悪くねぇ……ただ、そんなモンじゃ俺に勝てねぇぞ!!


☆祈里待:そんなこと言われなくても……わかってる、つーの!


◇㐂那屋敷:おっと! いいじゃねえかァ!

      守りの剣ばかりじゃつまらねぇからなァ!!

      剣は殺める為に或る!!


☆祈里待:無茶苦茶な事を言いやがる……


☆祈里待M:これが【竜生九子りゅうせいきゅうし】の力か……

      刀の一撃一撃が重い……!


◇㐂那屋敷:逃げの剣ばかりしているから、テメェも偽物かと思っていたぜ。


☆祈里待:勝手にそっちが偽物とか、本物とか決めつけているだけだろ!


◇㐂那屋敷:うるせぇ奴だな、文句はテメェの中にいるヤツに言え。

      まあ、偽物でも本物でも俺にとってどうでもいい……


☆祈里待M:なっ、消え——


◇㐂那屋敷:戦える事だけで満足だからなァ!!


☆祈里待M:一瞬で目の前に……! まずい!!


◇㐂那屋敷:遅い。


☆祈里待:ぐうっ!


◇㐂那屋敷:ほう? てっきり真っ二つにしたつもりだったんだが……

      対応出来るとは上々だ。

      ほれほれ! 生きたければ、俺をたおせ!!

      そんなクソみてぇな剣術じゃあ、どうしようもないぜ!!


☆祈里待:好き放題言ってくれるじゃねえか!!


◇㐂那屋敷:少しはマシな動きをしてきたな、戦いを通して成長しているのか。

      もう少しやり合いたいところだが……だが、もう時間切れだ。

      テメェ如きに、この力を使う必要はねぇが——


▽N④:そう言って、㐂那屋敷きなやしきは持っていた刀を地面に刺した。

    そして、腰に差しているもう一本の刀をさやから取り出す。

    彼はそれを天高く天高く掲げた。


◇㐂那屋敷:――全力でれとの勅令ちょくれいだからな、悪く思うなよ。


☆祈里待M:なんだ? 空気が……


◇㐂那屋敷:よーく見とけ、これが俺の本当の力だ……【竜生九子りゅうせいきゅうし】としてなァ!!

      ――『屍山血河しざんけつが舞台ぶたいから天魔てんまわらい』


□竜宮:祈里待いのりまち、気をつけろ。


◇㐂那屋敷:『龍虎相博りゅうこそうはくとうとぶ』


□竜宮:そして刮目かつもくせよ、お主が今から見るは【竜生九子りゅうせいきゅうし】の本当の力じゃ。


◇㐂那屋敷:『龍令解号りゅうれいかいごう!!』


▽N④:まばゆい光が部屋全体を一瞬にして

    包み込むが、それは一瞬にして消えた。

    そして——


☆祈里待:なんだ……あの姿は……?


▽N④:彼は驚きを隠せなかった。

    姿形すがたかたちはヒト型のままではあるが、

    頭には龍の角を生やし、そして龍と鬼が混ぜ合わさった

    黒曜のよろい面頬めんぼおまとっていた。

    その隙間から見える、視た者全てをらいくすあか

    これが【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱、『闘争』を司る龍、【睚眦がいさい】の姿。


◇㐂那屋敷:この力を使うのは久しぶりだァ……だからよ……

      加減は出来ねぇぞ!!


☆祈里待:突っ込んでくるか、なら——


▽N④:みなとが刀を構えたその刹那せつな、【睚眦がいさい】のこぶしが彼の鳩尾みぞおちなぐりつけた。

    そしてみなとは吹き飛ばされ、身体全体が壁に叩きつけられる。

    時間にしてほんの一瞬。

    その場で倒れ込んだみなとは、自分の身に起きた事を

    理解することは出来なかった。


☆祈里待M:い、ま……何が……起きた……?

      早過ぎる……くっ、身体が……


◇㐂那屋敷:ちっ、今回もあっけないもんだったな。

      まあ、しょうがねえな。

      それじゃあ——


☆祈里待M:まず、い……このままじゃ……っつ!

      ダメだ……全身が痛く、て……動けない……


◇㐂那屋敷:――死ね。


●桔梗:みなと


▽N④:【睚眦がいさい】の鍵爪かぎつめみなとの命をろうとした瞬間だった。

    声が聞こえる、の名を呼ぶふるえた声が。

    その声に黒曜こくようの龍の動きが停まった。


☆祈里待:き、ききょう……!


◇㐂那屋敷:あっ? なんだぁ、あのガキは?


●桔梗:みなと、起きて! お願いだから起き上がって!!


◇㐂那屋敷:うるせぇガキだ。


☆祈里待:ま、待て……どこに、いくん……んだ……!


◇㐂那屋敷:決まっているだろ、戦いの邪魔をする奴は女であろうと関係ねぇ。

      たたるだけだ。


☆祈里待:や、め……ろ……!


▽N④:きょうがされたことに、【睚眦がいさい】は苛立いらだちの表情ひょうじょうを浮かべ、

    八芭螺はばら 桔梗ききょうの元に近付く。

    みなとは止まるために必死になって身体を起こそうとするも力が入らない。

    無情にも距離は縮まる一方であった。


●桔梗:みなと!!


◇㐂那屋敷:うるせぇぞ! ガキがァ!!


●桔梗:っつ!


◇㐂那屋敷:儀式の最中だ、邪魔するんじゃねぇ!

      死にたくなければ、さっさと此処から出ていけ!!


●桔梗:出ていきません!


◇㐂那屋敷:いい加減にしろ!

      奴は負けた! もう動けねぇ!!

      戦いで敗者に待ち受けるのは死だ。

      せめての情けだ、早く出ていけ。


●桔梗:まだ……


◇㐂那屋敷:んっ?


●桔梗:まだ、祈里待いのりまち みなとは負けていません!


◇㐂那屋敷:ガキが、何を寝ぼけたことを言ってやがる!!


●桔梗:私はガキではありません!

    私の名は、八芭螺はばら 桔梗ききょう!!

    貴方に戦いを挑んだ勇士ゆうし祈里待いのりまち みなとの主です!!

    例え【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱であったとしても彼は負けない!!


◇㐂那屋敷:――言うじゃねえか、八芭螺はばら 桔梗ききょう

      なら、その生意気な口を黙らせてやる。


●桔梗:斬れるものなら斬ってみなさい!

    私は逃げたりしない!


◇㐂那屋敷:その気概きがいは認めてやる。

      わずかのではあるが、辞世じせでも考えておくんだな。


□竜宮M:まずいな、ここはわらわが……んっ?

     あぁ、この感じは……そうか、選択のときが来たのじゃな、緋真ひさな



【捌】


☆祈里待:どう、なっているんだ……これは……


▽N⑥:八芭螺はばら 桔梗ききょう㐂那屋敷きなやしきに手をかけられそうになった瞬間。

    時が停まったかのように、目の前の光景が停まっていた。


☆祈里待:どうして……


●皇儀:手痛くやられましたね。


☆祈里待:あなたは……あの時の……!


●皇儀:私の言葉、覚えていますか?


☆祈里待:言葉――あぁ、あの時にこう言いましたね。

     「何のために戦うのか」、と。

     そして、それに対する俺の選択を聞きたいと。


●皇儀:ええっ、そうです。

    あの時は出来なかった。でも、今は問う事が出来る。

    この選択で貴方と、そして貴方の勝利を信じた彼女の運命が決まります。


☆祈里待:桔梗ききょう……


●皇儀:――祈里待いのりまち みなと、改めて貴方に問います。

    貴方は何のために戦うのですか?


☆祈里待:それは——


●皇儀:自らの命のためにですか、己の立場を守るためにですか?

    それとも——


☆祈里待:違う。


●皇儀:えっ?


☆祈里待:俺が、戦うのは……


▽N⑥:満身創痍まんしんそういでふらつきながらもみなとは立ち上がる。

    今に倒れそうではあるが、彼は意地でも立ち続けた。

    そして彼の顔は決意に満ちていた。


☆祈里待:俺が戦うのは……「〝誇り〟を守るため」、それだけだ。


●皇儀:誇り、ですか?


☆祈里待:そうだ……自分の命を投げうってでも守り通したいモノの為に……


●皇儀:それは自己犠牲とは何も変わらないのでは?


☆祈里待:――確かに、一種のエゴだ。

     桔梗ききょうにもそう言われて怒られたなぁ

     ……確かに、死にたくなさい。

     死ぬのは俺だって怖い。

     でも——


●皇儀:でも?


☆祈里待:それよりも大切なヒトがいない未来が怖いんだ。

     今はこうやって戦う事を生業なりわいとしているけど……昔は無力だった。

     目の前で家族を殺されても……

     その時の俺は臆病おくびょうで、怖くて、怖くて何も出来なかった。


●皇儀:…………。


☆祈里待:俺だけが生き残った。

     でも、心を支配していたのは絶望と空虚感、そして孤独感。

     常にそれらが俺をさいなみ続け、死んだ家族の幻覚げんかくも出て、

     「どうしてお前は生きているんだ」って責められ続けてきた。

     段々耐えられなくなってきて、何度も何度も死のうとした。

     でも……ぜーんぶ、あいつが、桔梗ききょうが止めるんだ。


●皇儀:…………。


☆祈里待:――だから、ちかったんだ。

     今度こそ失う訳にはいかない、命を賭けてもだ!

     自分勝手な我儘だと理解している。

     でも、決めたんだ。

     ――それが理由なんです。

     だから、俺は戦い続けることを選択したんです。


●皇儀:(※小声で)……立派に育ちましたね。


☆祈里待:えっ?


●皇儀:いえ、それが貴方の答えなのですね。


☆祈里待:――はい。


●皇儀:祈里待いのりまち みなと

    ――【椒圖しょうず】のまことなる継承者として、貴方を認めます。

    さあ、私の手をとって——



【玖】


▽N⑦:八芭螺はばら 桔梗ききょうは目を閉じた。

    目の前の男に殺される事に覚悟かくごはあったものの、

    やはり恐怖というものはある。

    それでも、彼女は自身の行動に後悔はしていない。

    しかし、彼女が予想していた結末は違った——


●桔梗:えっ?


▽N⑦:ふと自分の身体が浮かぶような感覚を覚えた。

    そして気付いた、自分が誰かに抱きかかえられていることを——


◇㐂那屋敷:おいおい……やってくれるじゃねぇか!!


▽N⑦:【睚眦がいさい】の嬉しそうな声が聞こえた。

    桔梗ききょうは目を開けると――


●桔梗:み、なと……?


☆祈里待:悪い、ちょっと寝てた。

     大丈夫か? 怪我はしていないか?


●桔梗:……うん!


☆祈里待:そうか、それならよかった……よっと。

     勝負は終わるまで此処にいてくれ。


●桔梗:みなと


☆祈里待:んっ?


●桔梗:絶対に……勝ってね!


☆祈里待:――あぁ、承知した! お嬢!!


◇㐂那屋敷:おいおい、小娘こむすめひとり助けたぐらいで調子に乗って——ぐっ!


☆祈里待:黙れよ。


◇㐂那屋敷M:なんだ……この力は……!!

       龍化りゅうかした俺を吹き飛ばした、だと?

       いや、それよりも先程とは様子が違う……


☆祈里待:うおおおおおお!!


◇㐂那屋敷:ちっ!


☆祈里待:……お前には随分ずいぶんとやられたな。

     その礼を返してやるよ。

     ――『みぎかいな万民ばんみんみちび御旗みはたごとし』

        『ひだりうで救国きゅうこくみちびけんごとし』


◇㐂那屋敷:その口上こうじょうは……!?


●桔梗:みなとの周りに……ひかりが……


□竜宮:ふふっ、認めたのじゃな。緋真ひさな


●桔梗:どういうことですか、将軍様?


□竜宮:見ておれ、八芭螺はばらの娘よ。

    あの者が——新たなる【椒圖しょうず】の正当なる継承者じゃ。


☆祈里待:『窮鳥入懐きゅうちょうにゅうかい救世済民きゅうせいさいみん――此処ここ体現たいげんす』

     ——『龍令解号りゅうれいかいごう』!!


▽N⑦:【椒圖しょうず】の力、此処に覚醒かくせいせし。

    清廉せいれんを象徴とする白銀はくぎんよろいまとい、

    白き龍の面頬めんぼおからのぞかせる強く優しきひとみ


●桔梗:あれが【椒圖しょうず】の姿……きれい……


□竜宮:悪をただし、民を救い、國を守る

    ——【竜生九子りゅうせいきゅうし】最後の一柱、『封印』を司る龍。

    そして【神祇官かみづかさ】がひとり……さあ、お主の力を示すのじゃ。


◇㐂那屋敷:あーははははっ! 最高だ!!

      力を覚醒したってことは、テメェが本物だったという訳かァ!

      だけどよォ! 戦いはまだ終わってねぇ!!

      ここは龍命脈も豊富にあるからな……命脈よ、集まれ!


□竜宮M:【睚眦がいさい】は『闘争』を司る龍である以上、

     ただでさえ規格外の命脈炉めいみゃくろを持つ故に

     龍命脈と接続することで強大な力を発揮はっきする。

     さて、どう止める?


◇㐂那屋敷:――喰らいな! 『咬吭拳閃衝こうごうけんせんしょう』!!


▽N⑦:【睚眦がいさい】のこぶしから放たれた

    巨大な赤い閃光せんこうが【椒圖しょうず】に襲い掛かる。

    しかし彼はおくする様子を見せず、そこに立っていた。


☆祈里待:――ふうじろ。


▽N⑦:そう言い、手をかざすと閃光は一瞬にして消える。


◇㐂那屋敷:なっ!?


☆祈里待:よそ見をしている暇はないぞ!


◇㐂那屋敷:テメェ、いつの間に——


☆祈里待:返してやるよ、一太刀ひとたち斬撃ざんげきとして!!

     ——『櫻蘤一閃おうかいっせん』!!


▽N⑦:光り輝く刀を具現化し、そして一太刀の斬撃が

    【睚眦がいさい㐂那屋敷きなやしき 厳爾朗げんじろうを斬りつけた。


◇㐂那屋敷:かはっ!


▽N⑦:㐂那屋敷きなやしきは元の姿に戻り、その場で倒れ込む。

    ――勝敗は決した。


☆祈里待:よっしゃあ……勝ったぁ……


●桔梗:みなと! 大丈夫?!

    しっかりして!! みなと!!


☆祈里待:(※寝息をたてる)


●桔梗:えっ……寝てる……?


□竜宮:当然じゃ、力の消費が激しい故に疲れてしまったのじゃろう。


●桔梗:そうですか……もう、本当に心配ばかりかけさせて。


▽N⑦:するとみなとは再び光に包まれ、そして元の人間の姿に戻る。

    そして、そのかたわらに一本の刀が転がっていた。


●桔梗:元に、戻った……それにこの刀は……


□竜宮:【竜生九子りゅうせいきゅうし】としての力は、1本の刀として具現化する。

    そのかたわらにあるのが——【椒圖しょうず】の力の証じゃ。


△纏:終わったのか?


□竜宮:まったく……お主の仕業じゃな?


△纏:なんのことだ?


□竜宮:あの娘をここに寄越したのは。

    わらわが気を利かしてやったっというのに……


△纏:そんな気持ちなんて一切ないだろ?

   アンタのてのひらの上に、敢えて乗っただけさ。

   アイツを……祈里待いのりまち みなとに【椒圖しょうず】の力を覚醒させるためにな。


□竜宮:さあ? どうじゃろうな?


△纏:どこにいくんだ?


□竜宮:【継承の儀】が終わったのじゃ。

    功労者へのいたわりと、城の修復をしなければいけないからのう。

    大方、【贔屓ひき】と派手にやったのだろう?

    それとも——修繕費しゅうぜんひ八芭螺はばら家に全額請求しても良いか?


△纏:うっ……それは……


□竜宮:冗談じゃ、うふふ。


△纏:全く……読めないヒトだよ、アンタは。



【拾】


☆祈里待:桔梗ききょう!!


▽壱宣瀬:起きたか。


☆祈里待:あれ? ここは……


▽壱宣瀬:幕府内にある一室だ。


☆祈里待:えっと……壱宣瀬いちのせ はかり 様、ですよね……?


▽壱宣瀬:…………。


☆祈里待:あの――


▽壱宣瀬:本来であれば、この様なほどごしを受ける権利はないが……

     【椒圖しょうず】の継承者ならば話は別だ。


☆祈里待:……どうも。


☆祈里待M:感じ悪っ!!


☆祈里待:あっ、そういえば……


▽壱宣瀬:んっ、なんだ?


☆祈里待:アイツ……いえ、あのヒトは無事なんですか?

     【継承の儀】で戦った……えーっと……


▽壱宣瀬:あぁ、㐂那屋敷きなやしきの事か。

     あの者ならば心配する必要はない。

     しばらく休養をとれば元に戻る。


☆祈里待:そうか……良かった……


▽壱宣瀬:其方そなたを殺そうとした者を心配するのか?

     変わった考えを持つ者だ。


☆祈里待:そりゃあ、そうかもしれないですけど……

     でも、誰だって好きで他人の命を奪うことはしたくないでしょ?


▽壱宣瀬:…………。


☆祈里待:それに、あのヒトは【竜生九子りゅうせいきゅうし】のひとりです。

     この國を守る存在だ、尚更無事であって欲しい。


▽壱宣瀬:――戦いに身を投じる者の発言とは思えないな。


☆祈里待:壱宣瀬いちのせ様は、仲間の事が心配じゃないんですか?


▽壱宣瀬:其方そなたの事を知るのは……少々時間がかかりそうだな……


☆祈里待:出て行っちまった……



(間)



△纏:おっ!


▽壱宣瀬:…………。


●桔梗:ご、ごきげんよう。


△纏:オレにボコボコにされたはかりさんじゃないですか~!!


●桔梗:姉上!!


▽壱宣瀬:はぁ……


△纏:随分とうんざりとした表情をしておりますな~?


▽壱宣瀬:お前だけならば……


△纏:んっ?


▽壱宣瀬:お前だけならば、こんなに悩まなくても済むのにな。


△纏:あっ? ははーん、なるほど……みなとだな?


▽壱宣瀬:……あの者を理解することは中々難しい。


△纏:緋真ひさなのことを思い出すだろ? アイツを見ていると。


▽壱宣瀬:其方そなたと同じ考えに至るのは不愉快極まりないな。


△纏:そいつはどーも。

   そういえばよ、俺たちの処遇はどうなるんだ?


▽壱宣瀬:んっ?


△纏:【継承の儀】の件についてはどういった罰則が与えられるんだ?


●桔梗:か、覚悟はしております!


▽壱宣瀬:――必要はない。


△纏:はっ?


▽壱宣瀬:此度の件については不問だ。

     お前たちの行動は、きっと【将軍】の思ししなのだろう。


△纏:けっ、お前も気付いていたのか。


▽壱宣瀬:それに——あの者の功をいたわることで不問に処すことにした。


△纏:マジかよ……規則と法律の塊であるお前がそんなことを言うのか?!

   驚きを通り越して、キモイわぁ……


●桔梗:姉上は黙っていてください!


▽壱宣瀬:まったく、私なりの気遣いだということを理解出来ない

     というのは……やはり、お前は猿以下の知能だな。


△纏:うっせ! おとといきやがれー!!

   行くぞ! 桔梗ききょう!!


●桔梗:あぁ、もう! 姉上ったら……あ、あの!


▽壱宣瀬:なんだ?


●桔梗:ありがとうございました!


▽壱宣瀬:……ふぅ、其方そなたはあの者の主だったな。


●桔梗:はい。


▽壱宣瀬:其方にとってあの者はなんなんだ?

     臣下か? それとも友人か?


●桔梗:いいえ、そのどちらでもありません。


▽壱宣瀬:では、なんだ?


●桔梗:『誇り』です——彼は、守るべき『誇り』です。


▽壱宣瀬:――そうか、全く姉妹揃って度し難いな。



【拾壱】


☆祈里待:これが【椒圖しょうず】の刀……力の証……

     俺は本当に【竜生九子りゅうせいきゅうし】になったのか……

     うーん、実感出来ない!


□竜宮:そうじゃろうな。


☆祈里待:そうそう——えっ?


□竜宮:元気そうじゃな、祈里待いのりまち


☆祈里待:うぇ!? 将軍様!! すいません!!


□竜宮:其方そなたは療養中の身じゃ、おもてをあげよ。


☆祈里待:あ、ありがとうございます!


□竜宮:のう、祈里待いのりまち、お主に聞きたい事があるんじゃが……よいか……?


☆祈里待:喜んで、なんでしょうか?


□竜宮:緋真ひさなを……いや、前の継承者をどのように感じた?


☆祈里待:……不思議なヒトでした。


□竜宮:不思議?


☆祈里待:自分は元々戦災孤児だったんんです。

     先の大戦で母親を亡くして、それで独りになった俺を

     祈里待いのりまちのヒトが受け入れてくれて、それで色々あって

     今は八芭螺はばら家にお世話になっているんです。


□竜宮:…………。


☆祈里待:早くに亡くしたとは言え、母の顔を何故か思い出せないんです。

     なんかぽっかりと空いてしまったかのように……

     でも、あのヒトはまるで母のように懐かしさを感じたのです。

     だから、不思議なヒトだなって。


□竜宮:そうか……そうなのだな。

    突然の訪問、すまないな。

    わらわはここで失礼しよう、ゆっくりと休むが良い。

    お前にはこれからも十分働いてもらわないと困るからな。


☆祈里待:あ、あの……将軍様……


□竜宮:んっ?


☆祈里待:お願いしたい事があるんです。


□竜宮:なんじゃ? ひとつだけ何でも叶えてやろう。


☆祈里待:実は——



(間)



□竜宮:ふぅ……んっ?


●桔梗:あっ!


□竜宮:おや、八芭螺はばらの娘。


●桔梗:将軍様! 失礼いたしました!!


□竜宮:……お主は幸せ者じゃな。


●桔梗:えっ?


□竜宮:それではな、フフフ……


●桔梗:……どういうことだろう?



(間)



□竜宮:まったく、おもしろい奴じゃ。

    本当に……其方そなたにソックリだな、緋真ひさな

    やれやれ、此度の因果いんがというものは如何いかなる物語をつむぐのか。

    ――これからが楽しみじゃ。



(終)

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【声劇台本】活劇×龍櫻綺伝 序章/覚醒 篇『キミシニタモウナカレ』 家楡アオ @aoienire

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