第2話 あの男を突き止めろ


 サーハルは特に手段を選ぶことのない何でも屋である。


 特に甘味が関われば猛獣と化す。限定品だと尚更だ。


 しかし、そのような本気を出す場面は限られているのd絵普段は相当だらけていると言って過言ではない。


 他者から見たら才能を相当余らせている上にはぐれ者であるためギルド協同組合にも所属していない鼻つまみ者である。


 問題児みたいな扱いのこいつが依頼無しに独自で調査していることがある。


「ふーん、『ゼロ・ライジング』ねぇ。性別は男でヘンテコな格好をしていろんな依頼をこなしている、か」


 聞き込みで得た情報を羊皮紙にまとめて書き込んだものをひらひらと眺めてつぶやいた。


 ギルド協同組合に届けられる依頼はピンからキリまで多種多様。底辺がこなす溝掃除や王族から直接依頼の竜退治など料金と難易度に振れ幅が大きい事もしばしばある。


「街の清掃から真面目にやって、薬草取りに行ったらワイバーンの群れに襲われて難なく撃退…………うわ、すっごい知ってる経歴」


 サーハルの相棒も似たようなことをしていた。


 こいつの相棒も出会う前は真面目に依頼をこなしつつ高頻度で起こるイベントに巻き込まれながら対処していたということをよく聞いたものだ。


「戦闘スタイルは今のところ分かってないみたいだけど、武器らしきものは身に着けていない。やっぱり拳かな?」


 外見の特徴からワイバーンを大量に屠った戦闘スタイルを考察するが、はっきり言って当てにならない。


 何故なら得物が無くとも魔法と言う己の生命力を一時的に削る、もしくは何らかの形で対価を払い虚空からエレメンタルな攻撃が可能な者も居るからである。


 サーハルもその部類の戦闘スタイル故に初見殺しの厄介さは知っている。


「やっぱり現地で確認しなきゃいけないよなぁ。『鳥』はレアモンスター扱いだし『犬』は目立ちすぎるし…………」


 どうにかしてゼロが街を出る依頼を受けている間に現地に行かず観察できないか思案していたが、個人事業主であるサーハルに取れる手段は思っているよりも少なかった。


 羊皮紙を紙飛行機に折り曲げてから机に投げ捨て、そのまま事務所から出ようと足を動かす。


 どうせ依頼はこないし事務所を開けてても問題ない。金目のものも全くないため空き巣が入ろうが関係ない。


 なお、空き巣が入ったら入ったで徹底的に追い詰めはする。


 自分に甘く、他人には辛く適当に当たるのが世の常である。


「よし、毎日ギルドに顔を出すみたいだから張り込みかな?そして尾行して何者か知る、これだね!」


 やりたいことはやる、そして相棒のそっくりさんの正体も知ることも重要。


 かつて、あの誇り高い姿で正義を成した相棒の姿で何かしてようものなら…………


 なんでもやる・・・・・・


 心の隅でそんな決意を抱いて意気揚々と出たサーハルだった。


 こいつは一つ忘れている事がある。


 砂糖たっぷり糖分満点な甘いものを食べまくっている。


 臭いという物は簡単に消すことは出来ない。


 魔法を使えば隠蔽することは出来るが根本的な解決にはならない。


 そこで、甘い匂いを出して無相応にターゲットを追いかけ森に入った者の末路は決まっている。


「ぎゃーっ!虫っ!動物!モンスター!」


 虫にはたかられ、小動物には齧られ、さらに自然発生するモンスターもサーハルに牙をむく。


 あまりにも杜撰に臭いを放てば寄ってくる。あまりにも無様な姿をかつての相棒が見たらどう思うのか。


 ぶっちゃけるとサーハルにとってモンスターは片手間に処理できる存在だ。


 この世界のモンスターは魔力の澱み、生き物が魔力を使う際に僅かに出る残滓の寄せ集め。


 生きている限り生成される自然現象は人々を悩ませ、そしてある種の恵みを与えていた。


 サーハルが情けなく追い回されている熊のモンスターは一般人からしたら十分な脅威ではあるが受肉しているため倒せば肉や毛皮を利用できる。


 それらをまとめて売ると十分な金額になるのだが、サーハルはあえて手を出さない。


 何故なら普通に金持ちだからである。


 いくら閑古鳥が鳴こうと住民税を支払い続けられる資金、その金は副業によってもたらされているが基本的に公にすることもない。


「だー、もう!無駄に寄ってき過ぎだって!あえて見逃してやってることが分からないのか獣畜生!」


「ぐるあぁっ!」


「そんな知能もなかったねバーカバーカ!」


 言葉も通じむモンスターに向かって叫んで逃げ続けるこいつの脳には砂糖しか詰まっていない。


 こいつはこいつなりの配慮でモンスターを乱獲しないようにしており、同業であるギルド協同組合にも分け前を与える口実でバランスを保っているのだ。


 個人が突出すると集団から迫害される。かつての相棒がそうだったように。


「はぁーっ、あれ?」


 かなり複雑に森の中を逃げ惑っていたせいか、熊のモンスターの姿がなくなっていた。


 サーハルにとって熊は大したことないのだが、虫が一番嫌だったため体にまとわりついていたのを振り払うために走り回っていたもの。


 モンスターの意識が別の方へ向いたのか、はたまた気まぐれで見逃したのか、サーハルもモンスター心があまり分からないので気にすることもない。


「あーあ、目的の場所と結構離れちゃった。ちぇ、うげ、まだ引っ付いてやがる!」


 服についていた虫を取っ払い、土の汚れも掃って嘆いた。


 もう今更尾行しようと結構叫んでいたし、明らかに他に誰かいると気づかれているだろう。


 相棒でなくても気づく、気づかないわけが無い。


 なのでサーハルは諦めた。


「やーめた。またいつでも正体探れるし今じゃなくてもいいよね」


 明らかにダメな傾向なのだがこいつは気にしない。


 何故なら依頼された事以外には適当なのだから。


「帰ってクッキー焼こっと。小麦粉も家にあったよねー?」


 いつものように独り言を呟きながらサーハルは街へ向けて足を動かす。


 森の中を縦横無尽に駆けずり回ったのに帰巣本能はいっちょ前なのか、はたまたからくりがあるのか。


 何も警戒していないサーハルはそのまま帰路につくことになる。


「…………」


 その後ろを見ていた『相棒の姿』があったことを知らずに。


 で、その翌日。


「おい聞いたか?あの新人がまたやったって」


「ブラックベアを三頭まとめてやっつけた話か」


「よくやるよな、しかも森に捨てられた少女を助けたって話だぜ?」


「カワイ子ちゃんまで拾うとは、もってるな」


 もう少し根気強く探せばよかったとサーハルは後悔した。

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We wish want a HERO 蓮太郎 @hastar0

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