甘え上手の姫サマ

 姫の歌声が好きだ。


 でも、姫は滅多に歌ってくれない。


 小学校の音楽の授業で、クラスメイトに声が変だとからかわれて以来、歌うことに抵抗があるらしい。タイムマシンがあったら、発言主をぶん殴りにいくところだった。


 それでも、着実に姫と信頼関係を築いた結果、私の前だけでは歌ってくれるようになった。


 この前、初めて二人でカラオケに行った時、姫は可憐なウィスパーボイスで幻想的な曲を歌ってくれた。聴いていて、胸がキュンキュンした。


 また聴きたい。


「だから、これからカラオケ行こうよ!姫サマ〜」

「……嫌です」


 提案したら、プイっとそっぽを向かれた。そんな……


「姫の歌声、ほんとに好きなのになぁ……」

「…………」


 そっぽを向いたまま、何か思案している様子の姫。そして、


「……なー」


 ゆらゆらと左右に揺れながら口を開いた。


「なーでて♪なでて♪」


 甘えるように、私の顔を見つめながら歌う姫。まるで、無垢な幼子みたいだ。


「なでて♪なでて♪」

「わかったよ!!」


 姫のかわいさに秒でやられた私は、小さい姫の頭にポンと手をのせる。


 そのまま、優しく撫でると、姫は満足気に微笑んだ。


「んふー」


 あーかわいい。かわいすぎる。そのうえ、シルクのような素敵な撫で心地。


 充分な時間、撫でまわした。


 一瞬手を離した隙に、姫はぴょこんと飛び退き、書斎に戻ろうとする。


「姫……カラオケ行かない?」

「歌ってあげたからいいでしょ」


 まんまと嵌められた気がする。断られたうえに、撫でさせられた。


 なんて甘え上手の姫サマ……!

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かわいい年下彼女と同棲日記 むらさきふも @purple_fumo

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