矛盾

 今日の姫サマは不機嫌だ。


 ベッドの上で体育座りをしながら、私を睨んでいる。


 私はベッド横のテーブルで紅茶を飲みながら考える。うん。何か悪いことした覚えはないから、放っておく。大丈夫。


「ボク、拗ねました。なぜなら、唯都いと流風るかさんたちに好意をもっているからです」


 ほら、すぐ不満点を訴えてくれた。姫サマは素直なのだ。


 確かに、昨日は早く登校して、流風に勉強を教えたり帆南はんなに勉強を教わったりしていた。でも、特別心身が密着することはなかった。


 しかもその時、姫も一緒にいた。二人ともただの友達だと、見たらわかるはずだ。


「あれはただの友愛だよ。話してるだけで浮気認定するのか?」

「友愛だろうが全部ボクにください。ボク以外には無関心でいてほしいんです」

「一昨日、自分は嫉妬しない性格だって言ってたくせに」

「……気分によるとも言ったでしょう」


 姫はバツが悪そうに俯いた。


「唯都が他人に好かれるのは嬉しいけど、唯都が他人を好きになるのはモヤモヤします。あなたの愛情を全部独り占めしたいんです」


 うーん……なんとなく察した。


 まず不機嫌が先にあった。そんな時に、私が他の子と仲良く勉強会している様子を見て、自分がなおざりにされていると感じたのかもしれない。


 そういえば最近、姫に私の匂いを吸われることが多かったな。


 導き出した真相を問いかけてみる。


「姫。最近スランプで、全く小説が書けてないでしょ」

「!?」


 姫が驚いた顔で私を見つめる。


「さすが唯都。なんでもお見通しですね!」

「やっぱり……うぉわ!?」


 ベッドから勢いよく飛び降りた姫に抱きつかれた。衝撃に耐えきれず床に倒れこむ。


「しあわせのおもみこうげき!」


 仰向けになった私の体の上に乗る姫。私の下腹部が無邪気に押されている。楽しそうなのはなによりだが、やめてそこ変な感じがする。


 さりげなく姫をどかし、私から強く抱きしめた。


「唯都……」


 姫はすーっと私の体臭を嗅いでいる。『これがスランプ解消に一番効く』と姫が前に言っていた。でも今回は解消されてないみたいだから……


「気分転換にどっか行くか?」

「んー……」


 迷っている声。


「歩いていける距離に中国庭園があるらしいよ。行ってみる?」

「ん」


 興味をもった声。


「チャイナ服もレンタルしてるんだって」

「チャイナ服!?」

「着てみる?姫のチャイナ服姿見たいなー」

「ボクだって唯都のチャイナ服姿見たいですよ!」


 姫は顔を上げ、花を咲かせるような笑顔で、謎の歌を歌い始めた。


「チャイナ唯都♪チャイナ唯都♪アニメの香港マフィア風にしてもらいましょ♪」


 なにはともあれ、元気になってよかった。

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