恋人が学校でモテてる話

 私の恋人はお姫様みたいだ。


 腰まであるフワフワくるくるのブロンドヘアー、同色の長いまつ毛、彫りが深く端正な顔立ち、140センチほどの小さい背丈。


 そのうえ、リボンやらセーラー襟やらフリルのついた服を好んで着ており、それがとても似合っている。


 姫の隣を歩き、フリルの日傘をさしてあげている私は、さながら従者みたいに見えるだろう。本当は、姫が体育のバレーで突き指をしたので、代わりに持ってあげているだけなのだが。


 十六時頃。全日制と定時制が入れ替わる時間帯に、よく生徒が姫の噂をしているのを耳にする。

「定時制にすっげーかわいい子がいる」「お人形さんみたいな子がいる」「芸能活動してんのかな」「配信者とか?」などなど。


 勝手に写真を撮られることもあったので、私はヤンキーみたいな服を着て、威圧することにした。学校にいる時は(も)ずっと姫をガードしている。


 今日もトイレで、全日制の女子二人組に、姫が話しかけられていた。


「インストとティップトップのアカウント教えてください!」

「え……あ……えと……」


 姫はかなりの人見知りだ。オドオドしながら、私の後ろに身をひそめた。代わりに私が答える。


「どっちもやってない。この子、そーゆーの苦手なんだ」


 女子たちは残念そうなリアクションをとる。


「えー!?もったいなぁーい!」

「絶対天下とれるのに!」


 天下って、何の?


「というか、黒髪のお姉さんの方はやってないんですか?」

「お姉さん、すごいイケメンですよね!トイレで会うまでお兄さんだと思ってました」


 私に聞かれるパターンは初だな。だるい。早く逃げなきゃ。隣にいる姫を見ると、なぜか嬉しそうな顔をしていたけど。


「私もやってないよ。もう授業はじまるから行くね!」


 姫の腕を引っ張り、早足でトイレを抜け出した。

 

 二年A組、正確にいうと十六時までは二年一組の教室にたどり着いた。少し早いが、全日制の生徒は誰もいなかったので、遠慮なく席につく。


唯都いと、ボクがモテるのは嫌ですか?」


 素直に嫌だと言いたいところだが、面倒なヤツと思われそうで怖い。誤魔化すことにする。


「別に。ただ、野次馬みたいなヤツらに迷惑しているだけだよ。姫、目立つの苦手だろ」


 姫はニッと小さく笑った。


「ボクは唯都が褒められると嬉しくなります」

「妬かないんだな」

「気分によっては嫉妬する日もあります。ボクは気分屋なので。でも基本は妬かないですね」


 そういうところが意外だなぁと思う。姫は甘えんぼうで寂しがりやで、よく私にベタベタひっついてくるからだ。これでやきもちやき属性がないなんて。


「だって、唯都がボク以上の人を好きになるなんて思えません」


 そうだった。自信家でもあったなこのお姫様。姫が小学生の頃から、ずーっと「姫は宇宙一かわいい」と甘やかし続けてきたおかげで、こう育ってしまった。とてもかわいい。


「唯都はボクのモノですから。ボクのモノが褒められたら嬉しいのです」

「光栄だよ。お姫様」

「そして、ボクは唯都のモノでもありますから、ボクが褒められた時は、妬いても喜んでもいいんですよ?」


 え……?


「ひ、姫を私の所有物だって、思ったことないけど……姫は恋人でパートナーで……」

「でもボクは思ってますよ。ボクは唯都のものです」


 どう返答するか迷っていたところ、鐘が鳴ったので、急いで教科書と筆記用具を取り出す。授業の準備をしている間に話はうやむやになった。だけど。


『ボクは唯都のモノです』


 姫の言葉が頭から離れなくて、一日中授業どころではなかった。


 私、ニヤニヤしてなかったかな。大丈夫かな。

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