第12話 蕎麦と米。

 夏休みも後半戦に入った。

 キコもシオンも宿題は終わり、最近は気兼ねない雑談やゲーム、好きな漫画の貸し借りなどをしていた。それに、けん玉の練習も少し。


「うまくなってきたね」

「でしょでしょ?弟におしえよっかなー」

「調子乗りすぎだバカ」

「すぐバカにするんだから。普段猫かぶりすぎ」


 かっ、かっ、とけん玉の練習を継続するキコの横で、シオンは、はたとけん玉をやめた。手に持ったそれを見つめたまま静かに言った。


「夏休みの最後の日曜さ、お母さんとお姉さんに会ってみない?キコのお父さんも連れて」


 キコのけん玉の玉が、大皿のふちにあたってぶらんと下がった。


「もちろん、俺抜きだよ。四人で」


 玉が左右に振れる。


「というのが、二人からの提案」


 振り子運動が終わる。


「…会う、うん、会うよ会ってみるよ!お母さんとお姉ちゃんに」

 夏の光よりもまぶしくてきらめくしたキコの瞳が、シオンをじっと見つめている。

 その瞳からは前のような怯えはなく、これから起こる変化をワクワクと待っていた。


「わかった。そっちもお父さんに伝えといて」


 シオンはほほえんでいた。

 何を感じているかわからないニコニコ顔ではなかった。


「あ、四人じゃなかった」

「え?」

「うどんもいる」



 2学期が始まった。

 教室に一番乗りでやってきたシオンは、窓側の一番後ろの席に座った。

 ほどなくして、夏休みの間、一番顔を合わせていた女子生徒がやってきた。


「おはようシオン君」

「おはようキコ」


 キコは自分の席であるシオンの隣に座り、猫を飼うことにしたと報告した。近所の家で子猫が生まれ、引き取ることにしたという。

 「名前は『そば』か『おこめ』にするつもり」、というと、「センスなさすぎだバカ」と返ってきた。

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私と僕と夏休み、それから。 坂東さしま @bando-s

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