2話 実戦テスト:ティニア岬基地強襲


《作戦領域に近付いています。戦闘モード移行》


視界の中央に赤いロックオンカーソルが現れた。

イレヴンが被るヘルメットは、機体のカメラが捉える景色を網膜に直接投影している。そこに加えてアシスト機能や資料が表示されるのだ。

ロックオンカーソルに続けて、


《レーダーによる地形スキャン開始……周辺情報を取得しています》

《マップを作製しました》


と、視界の右端に簡易的な地図が表示される。


《センサーによる索敵結果を反映します》


地図の上に赤い点が現れた。

表示が濃いものが一つ……単独行動中の大型兵器らしい。

イレヴンは地図を視界の端に退けるように脳波で操作し、臨戦態勢に入った。

照準を定めると、左の第1トリガーを長押しして


《左腕部レールガン、出力を引き上げています……チャージ完了》


との通知を聞いてから、そっと指を離す……光る粒弾丸が一本の筋を描いて前方に飛んで行った。

数秒後、遠くで何かが爆発した。



 目標の敵基地に到達し、本格的に戦闘が始まる。


《追加ブースタータンク、パージしました》

《シールドユニット起動、プラズマフィールド展開》

《索敵結果を更新。敵機59感知》


「敵機」という単語には、ピンからキリまで様々な兵器が含まれるとは言え、本来ならば・・・・・59対1という状況は絶望的である。

しかし、この程度・・・・の状況にイレヴンは絶望など微塵も感じない。

彼の駆るフォーキンシリーズは、テレストリス軍に対抗する為の超高性能ロボット兵器。戦車、艦艇、航空機といった既存戦力は疎か、同じ人型ロボット兵器である【ワーカー】にすら太刀打ちを許さない。


《マルチロック完了。マイクロミサイル発射》


現に、イレヴンがたった一度トリガーを引いただけで敵の半数が壊滅している。

その後、彼はペダルを踏む足を緩めて減速した。敵を十分目で捉えられるようになると、今度は射撃を開始。

操縦に最適化されたイレヴンの神経と優秀な支援システムにより、両手に持った銃は百発百中。弾丸は相手に吸い寄せられるように飛んで行き、次々と火が上がる。


 敵からすると酷い話である。

絶え間無く飛んで来る高精度の攻撃、爆風を浴びるだけでイチコロ……この時点で完全な負け戦だというのに、自分たちの武装は豆鉄砲も同然。そうなってしまう訳は【プラズマフィールド】にあった。

11号機は周りの空気に膨大なエネルギーを纏わせ、常に360°のバリヤを展開している。それに触れた弾丸は瞬く間に焼き切れ、レーザーなども反発して寄せ付けない。


『所属不明機体襲来! 総員第3戦闘配置!』


敵基地のサイレンが今になって鳴り響いた。音速で飛来した11号機に対処しきれず、襲撃を受けてからしか対応できなかったのだろう。

尤も、イレヴンは耳を傾けずに集中して敵を掃討した。




《肩部マイクロミサイル、残弾数0%》

《右腕部アサルトライフル、残弾数30%》

《左腕部レールガン、残弾数15%》


残弾も減って来た頃合。

最後の破壊目標である倉庫目掛けてトリガーを引こうとした瞬間、アラートが鳴り響く。


《熱源反応急上昇》


倉庫の屋根を貫いて、太いレーザーが向かって来た。

イレヴンは横にブーストを吹かし、間一髪で躱す……これも普通の兵器ではできない動きだ。

ただし、それはどうやら相手も同じらしい。見事に焼き切れ、穴の開いた倉庫から宙に踊り出て来たのは、人型ロボット兵器【アセラント】――先程の雑魚どもとは違い、アセラントは世界に数十機しか存在しない圧倒的エリート機体。

イレヴンの駆るフォーキンシリーズはこれに対抗する為に開発された。(製造元が違うだけで、フォーキンシリーズもアセラントの一種だが)

シュミレーターで幾度と無くこれを相手にして来た彼は、冷静な対処を試みる。


《敵アセラント、データに照合有り。機体名【ヴィルヘルム・カッセル】、戦術レベルC》


相手の武装構成は、右手に大型レーザーライフル。左手にレーザーブレード。両肩にミサイルと、背中にバズーカらしきものを一丁。

早速ブーストを吹かして接近して来る。突撃に合わせて、こちらに向けられた発射口たちがそれぞれ火を吹いた。

これに対し、イレヴンも残る武装で一斉射撃を行いながら、フルスロットルで迎撃に出る。


《衝突注意! 衝突注意!》


交戦距離が一気に縮まり、アラートが鳴る。イレヴンは警告を承知の上で、強気な姿勢を崩さない。

向こうのパイロットもこれには驚いたのだろう、一気にペースを握る事に成功。

ただ、ブレードによる苦し紛れの反撃を貰ってしまい、


《右腕部アサルトライフル、破壊されました》


レーザーブレードは射撃武器と違って、純粋な攻撃力が極めて高い。すれ違い様の一瞬でプラズマフィールドを貫通したようだ。

それでもイレヴンは急旋回し、振り向くや否やレールガンのチャージショットを叩き込む。


《姿勢制御が乱れています。一時着陸を推奨します》


反動が悪さをしたようだが、これも知ったことではない。相手に痛手を与えた今こそ、形振り構わず押し切るのだ。


 イレヴンは無意識に高揚していた。気分の悪くなる実験と、雑魚散らしのシュミレーションばかりの生活を送って来た中で、対アセラント戦だけは楽しいと思えた。

今回が実戦とは知らないが、だからこそコンピューター相手には無い死闘感を味わい、余計に闘争へ引き込まれていた。



 相手の武装をあらかた破壊し尽くし、レーザーブレードを残すのみとなると、ヴィルヘルムは捨て身の猛攻を仕掛けて来た。


(速い。でも、きっと僕の方が速い)


イレヴンは前のめりになって思い切りペダルを踏み、トリガーを引き続けた。


《シールドユニット、オーバーヒートが近付いています》


至近距離での競り合いで、あらゆるアラートが鳴りっぱなしだ。

イレヴンは連続で繰り出されるブレード攻撃を何とか往なし続けていたが、


《左腕部レールガン、残弾数0―― 《左腕部武装、破壊されました》


手持ちの武装としては・・・・・・・・・・最後のレールガンが、弾切れと同時に破壊されてしまう。

けれど、実は超至近距離で相手が隙を晒す瞬間を待っていたのだ。

……空中での激闘の末、切り札が姿を見せる。


《ジェネレーター直結回路を接続》


11号機の背に設けられた、天使の両翼のごときブースターユニット。それが中の機関を露出させるように変形し、肩の辺りから太い砲身を二門展開した。


《エネルギー緊急充填……》


砲身がバチバチと音を立て、青色の光が溜まる。

ただ、それにはほんの数秒しか要さなかった。


《プラズマキャノン照射》


霹靂のような熱線が走った。

ヴィルヘルムはこれをレーザーブレードの反発で防ぎ、機体の原型こそ留めたものの、表面装甲が一瞬にして沸騰し、グチャグチャに熔けてしまった。

その残骸は11号機に向かって哀しそうに手を伸ばし、下へ下へと落ちて爆散した。


《周辺に活動する敵機無し。全滅を確認》



 崩壊した基地と撃破したアセラントをしばらく見降ろしていたイレヴン。

が、いつまで経ってもシミュレーション終了の通知が来ないことに気が付き、心に薄っすらとした不安が舞い込んだ。


夕日はまだ水平線に沈んでいなかった。




・後書き――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おもろいやん」「続き読んだろ」

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