第12話 かなりびっくりしただけで、悪い気はしない……?

「せんぱい。ずっと映画中震えてましたね」


「あんなの聞いてない……」


「あははー」


「それで、この後どうするんだ?」


「先輩と行きたい場所があるので一緒に来ていただけませんか?」


「わかった。それで羽衣はどこ行きたいの?」


「マッサージですね」


「マッサージ……? どこか疲れてるのか……?」


「いや、そういう訳ではなく、せんぱいと一緒に行きたいなって思ってまして」


「マッサージに?」


「はい。マッサージに」


 まつりは少し不信感を抱いたが、まあ深く気にしないことにした。


「それで僕は羽衣について行けばいい?」


「はいー。話が早くて助かりますー」


「それじゃ、行きましょうか」


 2人はゆっくりそのマッサージ店? へと向かって歩き出す。


「そこにはよく行くの?」


「えぇ? あーたまにですねー」


「羽衣って何か映画サークル以外に入ってたっけ?」


 ちなみに、映画サークルというのはまつりや紫音が入っているサークルである。


「入ってないですよー」


「そうか」


 まつりは意外にそういった経験が無いため、この先行く場所の検討もつかず、無駄にドキドキしていた。デートだということを意識すればより緊張が増していく。

 度々、会話。そして、また無言を繰り返していると紫音が急に足を止める。


「せんぱい。ここですよ」


「おおーここか」


 雰囲気はなんか普通の家みたいな感じだった。

 本当に家。お店みたいな感じはしない。


「え? ここ?」


「はい。私の家です」


「何してるの!?」


「何してるも何も今から私がせんぱいにマッサージしてあげるんですよ。いつもおつかれでしょうし」


「そうだったのか……。まあ、わかったよ」


「話が早くて助かります。じゃあ、どうぞ中に入ってください」


 まつりにとって女子の家など入ることなど初めてで緊張しっぱなしであった。

 そのため、普通に考えたら色々おかしいこの状況にも何ら不信感を抱く余裕などなかった。


「じゃあ、このマットの上にせんぱいは横になってください」


「え……うん。わかった」


「あ! その前にせんぱい中にシャツ着てますよね。じゃあ、上の服脱いでもらっていいですか?」


 言われるがまま、まつりは服を脱ぐ。


「では、横になってください」


「わかった」


「どうですかー? きもちーですか?」


「気持ちいよ」


 紫音の手は的確にまつりのツボを刺激していた。

 気持ちよさのあまり、まつりもウトウトし始める。


「ちょっとせんぱーい。私がマッサージしてあげてるんですから寝ないでくださいね」


 そう言って紫音はまつりの背中の上へとちょこんとのる。


「こっちの方がやりやすいんでいいですよね?」


「うん、全然大丈夫だよ」


 段々と紫音のツボを押す力が大きくなっていく。

 少しまつりが痛気持ちいくらいになってきたころだろうか。


 ぎゅうう



「いったい。痛い。羽衣ちょっと強いよ!」


 まつりは起き上がって紫音の方を見る。


「ご、ごめんなさい。ちょっとだけ……強くしちゃって……」


 何故か以上に息切れをしている。


「気をつけますから、今度は仰向けになってください」


 まつりは段々と恐怖を覚え始めていた。

 瑠依のあの言葉は本当だったのだろうかと不審に思い始めた。


「じゃあ、今度はお腹辺りやりますね」


「え……うん」


 ……


「ちょっっ。くすぐったいってやめてよ羽衣」


 こちょこちょをして息ができなくなりかけているまつり。

 そしてそれを楽しむ紫音。


「ちょっと待ってって。ちょ……」


 まつりは何とか紫音から離れて距離をとる。

 しかし、そんなまつりを紫音は逃さない。


「私ずーと好きだったんですよ……」


「え?」


 まつりの顔のほんの目の前。

 お互いの息がかかるほどの距離まで紫音は近づく。


「せんぱいのその顔近くで見てたらもう我慢でき無くなっちゃいました」


「我慢できないってどういうk……」


 まつりが言葉を最後まで言い切ることなく、紫音の唇によってまつりの口は塞がれる。


「んんn」


 ぷはっ


「おい、何するんだよ」


「えーダメですか?」


 紫音の手がまつりの後ろへと回されており、まつりを簡単に逃そうとしない。


「そういうのはもっと段階を踏んでからじゃないと」


「はあー。うるさいな」


 そう言ってまたまつりとキスをする。

 今度は舌まで入っていく。


 まつりは紫音の手を取り、何とか引き剥がす。


「本当に何やってるんだよ!?」


 誤魔化すような笑いをする紫音を見て、まつりはさっさと上着を手に取り、そこから逃げるようにして帰る。




「おかえり」


「ああ、ただいま」


「どうしたの? 何かあった?」


「いや、なんでもないですよ」


 まつりはトイレにこもり、もう一度さっきの唇の感触を思い出す。

 その事がずっと頭から離れない。

「……どうして羽衣はあんなことをしたんだろうか?」

 ただその疑問だけがまつりを不安にさせた。

 だが、まつりの心は折れることなく、もう一度紫音に会って話をして今日のことを聞こうと思った。

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○○をしてきたお姉さんが少女になってしまったので、僕が責任を持って彼女と同棲しようと思います。 神野 兎 @z1nnousag1

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