chapter:6-2

「お前らのボスか……本当何を考えてんだよ」


 丈が言った、クロイツの仕業ではない――とは言い切れないこととボスの命令を聞き玲は呆れるようにため息をついた。

 前もボスの命令で拉致られた身としては、言っては悪いがボスの考えが理解できない。1ミリも。


光聖上こうせいじょうにしろ、燈弥にしろ、丈たちのボスにしろ……トップに立つ奴ってのは考え方からして一般人とは相容れないな。まぁ、だからトップになるのか」


 呆れながらも何処か納得したように玲は頷いた。


「いやー、照れるねえ。そんなすごい奴みたいにいわれると」


 そんな玲にナナは笑う。自覚があるタイプのイカれ具合のナナは、ぬかに釘であり暖簾のれんに腕押しだ。


 そんなやりとりを聞いて丈は玲のため息混じりの声に、暗闇で立ち止まったまま少しだけ笑い声を上げる。


 自分がアウロラに入団してから4ヶ月ほど経った先日の玲誘拐事件。そのすぐあとに、丈と瀧は初めてアウロラの本当のトップに面会した。

 というのも、実質アウロラを仕切っているのは一番隊隊長だが、実は本当にアウロラ結成の第一人者は別の人間だったのだ。


「いや、ウチのボスはすっごく一般人だよ。この前の瀧と燈弥君の喧嘩で、慈音君に出番奪われたってぼやいてるくらいに」


 口元を手で隠しながら、少し笑いつつ告げる。まるで威厳いげんなんてものはなく、ともすれば気のいい友人のような、そんなボス。

 だからこそ、多く彼のもとに人間が集まるのかもしれない。そんな少しだけ魅力のある一般人なのだ。


 呆れた玲に二人は言葉こそ違うが似たような反応をした。ナナも丈も笑っており、玲からしたら、そんな反応はどーでもいい。


「まぁ丈たちのボスが一般人ってのは……なんとなくわからないでもないかも。お風呂で声のやり取りだけ聞いた時、なんかマヌケな感じだったし」


 ナナに対しては言わずもがな。丈に対しては少し考える素振りを見せ答えた。ボスと壁一 枚挟んだ接触はしたが、確かに部下をエクレアで動かしたりしていた。

 なんとなく威厳というものは感じない。それが逆に慕われる魅力ならば、そーいうボスの方が断然好きだと玲は思う。面倒くさくなさそうだから。


 和やかな雑談の空気の中、丈の様子を見てナナは思案する。確かに怪しい発言はない。今の所は。

 しかし、目が見えてないにも関わらず、声だけで玲を認知したというのがせなかった。

 玲がいると確信しての発言ならば、油断ならない。

 だってそれはまるで、玲のいる場所にわざわざきましたというようなものだから。


「なるほどねぃ。ほんじゃ、視界をクリアにしてあげようかな。ただし、条件付きでね」


 とりあえず今は丈から情報を得ようとして、ナナは見えるようにする代わりに交換条件を出した。

 条件は二つ。

 一つ目、丈の能力を明かすこと。

 二つ目、この壁について知っている情報を話すこと。

 さあ、正直に答えるか誤魔化すのか。

 ナナは丈の反応を注視する。



 警戒心を解かずに丈に質問するナナを見て玲は思った。

 確かに丈は、こんな大層なことを仕出かしそうな団体の一員である。

 そんな彼は、目が見えないことを示しナナに協力を頼んだ。


 その言葉に玲も最初は自分も視界が真っ暗だった事を思い出す。こっちからは姿が見えても向こうからは見えない。あれ?ならば……何故丈は自分を認識できたんだろうか?疑問は疑惑に代わり、玲は静かに丈を見つめる。


 二人とは反対に丈は警戒心はない。

 ナナの提案にも何のためらいもなく「いいよ」っ即答した。


「俺の能力は「空間転移」。「瞬間移動」とはまたちょっと別物だから、この壁の中に入れたんだ。えっと、能力の詳しい説明はしなくてもいいよね?それから、この壁についてだけど、瀧曰く「能力波遮断物質」とやらでできてるらしい。要するに、能力による攻撃系統が全く無効化されるんだって。そんで、この壁を作った張本人だけど――」


 そこまで言った瞬間。丈の背後に三体のヒトガタが現れ――。


「ウチの元研究員。今は元老院だか、十三党だかに抜擢ばってきされて学園のために働いてるね」


 そう柔らかく告げた時に背後のヒトガタは、彼の眼前に組み敷かれていた。


「え?なに?つか、なんでそんな悠長なの丈は?」


 突然目の前に現れたヒトガタをなんなく処理した丈をみて玲は目を丸くした。

 丈の態度とあまりにも理解できない状況に思考はキャパオーバー。彼女にしては、苛立ちや怒りの様子のないマヌケな声をだす。


 きょとん、とした様子で「え?え?」と目をパチクリさせ る仕種はハムスターやリスなど小動物を連想させるだろう。

 もちろん、ビックリしたために丈の説明はだいたい吹っ飛んだ。「とにかく、早くここから出たい」と、そんな思いは更に強まったが。

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