無力なガラクタ
chapter:6-1
ナナがヒトガタを倒す直前。
燈弥はひいた拳を構えた。
腰を落として左手でしっかりと照準を合わせながら、右手をゆっくりと引き、全能力を解放する。
―― 一発目と同時に足を踏み出し、連打で決める!!
「 ……その力でラッシュなんざしたら、体がぶっ壊れんぞ?」
打ち込もうとした右手を背後から掴まれ、燈弥は動きを止められる。
そして背後から聞こえる、聞きなれない声。
驚き、掴まれた手を振りほどくと、背後を振り返った。
驚いた理由は2つ。
空間把握は基本的に微弱ながらも、燈弥が常に放っている能力の一つだ。
そして、相手の気配が感じ取られたのは一瞬前。要するにこの気配は一瞬で現れた 。
そして、驚いた理由のもう一つ。それは、自分の本気の一撃をはなとうとした、その腕をつかみ、止めたことだ。
単なる異能力者に、王である自分の攻撃を止められるとは思えない。いや――。
目の前にいる、この男は別か。
先程まで、燈弥の腕を掴んでいた手をゆっくりとおろしながら、まるでそのへんにいるチンピラのような、坊主頭のピアス男――アウロラ四番隊の瀧は言葉を続ける。
「 中のことは心配すんな。それよりも―― 話がある」
燈弥のように視覚に頼っていればわかっただろうが、ナナが倒したこのヒトガタは壁の材質によく似ている。
ゆえに、本来ならば打撃攻撃や能力による攻撃はほとんど効果がない。
だが、ナナが放ったのはただの打撃ではなく光速の打撃。
つまり、レーザービームだ。貫通させてしまうほどの威力。
だからこそ、倒せた。
「すごっ……」
目の前で起きた出来事に玲は、そう呟くしかなかった。
これが王の実力。
もちろん全力ではなさそうだが、短い間にこれだけ濃いパフォーマンスを見せられれば、誰もが
玲もお礼を言うのも忘れ、その場に座りこんだままだった。
ヒトガタはナナの一撃をくらい呻くような重低音を漏らし、苦しまぎれの最後の足掻きをしたかと思えば、ピタッと動きをとめた。
これで、終わったのか?
玲が怪訝そうに様子を見守ると突如として、ヒトガタの腹の部分から、ぬっ、と人が 現れる。
「 あれー?普通に倒すなんてすごいねー 」
そして響くは気の抜けるような陽気な声。
整った顔立ちに長い茶髪、周りの空気を和ら げるような優しげな表情を浮かべる青年。
彼はどこか困ったようにそう言いながら、ヒトガタの体を足蹴にして地面に降り立つ。
その姿は玲も知っていた。否、知っていたレ ベルではない。
「――丈?なんで……?」
“丈”と呟いた口は、閉じることも忘れたまま、玲は困惑と驚きを隠せず、目の前に降り立つ青年――アウロラ四番隊の丈から目が離せない。
二人の関係は、いろいろな内情を省けば“加害者と被害者” 。
だが、玲は丈に親切にしてもらった記憶しかない。名ばかりの加害者なのだ。
「……っ、丈……」
ヒトガタが倒された安堵から、張り詰めていたものが崩れ玲は、ようやくホッと息をついた。
「えーこのチャラそうなお兄さん、玲ちゃんの知り合い?危なっ、モンスターから出てくるから第二形態かと思って攻撃するとこだったよ」
玲の様子を見てナナは丈に対してそう告げる。
しかし、わざわざヒトガタから出てきて、その上、ヒトガタについて何やら知ってる素振りをみせる発言にナナは隙をみせない。
「へぇ、丈君って言うんだ。これもキミの
これとは言うまでもなく壁や奇妙なヒトガタのことだ。
暗い。丈は正直中がこんなに暗いとは思っていなかった。
夜目で慣れるとかそういうレベ ルの暗さではない。まるで暗闇の中で目隠しでもされているかのような、そもそも光源が存在していないかのような暗さだ。
いくらアウロラの一員として、丈が多少気配に強いといっても流石にこの暗さはどうにもできそうにない。
「えっと、それを説明したいんだけど――、俺も玲ちゃんと同じように見えるようにしてくんない?」
そう、少し情けないなと感じつつも告げる。
丈がなぜ玲がナナの異能により、目が見るようになっているのか知っているのか?
その理由は簡単だ。玲の能力は回復であり、それ以上の活性化の能力はない。
それなのにもかかわらず、自分の声だけで自分の存在を確認した。
いや、通常一度二度であっただけの人間の声を記憶して、何のためらいもなくその人物だと確信するのはなかなか骨が折れるだろう。
それに加えて隣にいるであろうナナは
彼女の能力なら、この暗闇の中でも視野を獲得させることくらいできるだろうと推測した。
「それで、今回の件だけど。んーと、違うかな。これは俺らの仕業じゃない――かどうかはわからないけど、ボスの命令でここに来たんだ」
ナナや玲の声の方向を頼りに、丈はフラフラと歩いていくが、何かにつまずいた拍子に転びそうになり、それからはその場所からむやみに動くのをやめた。
そして、そんな風に告げる。自分は敵ではないと。
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