chapter:5-11

 玲がヒトガタに襲われているのと同時刻、燈弥サイド。


 外に転がりでるようにして、壁から排出された燈弥は、何がなんだかわからない。といったふうにしばし呆然とした。が、すぐに気がつき起き上がる。


 ―― 中には玲が取り残されたままだ。


 周囲の気配を探る。動物の気配は多少するが、人間の気配はない。

 これなら全力でこの壁に一撃を打ち込める。


 壁に手のひらを向けるようにして昇順を合わせる。

 中腰に膝を曲げ、腕を折ると―― 空間演算開始。筋力強化最大。形状解析。


 森の動物たちが、燈弥のまとう不穏な空気を察して逃げる。

 そして、燈弥は今もてるすべてを込めた拳を壁に打ち付けた――。



 爆音が響き渡る。彼を中心に半径20m程にわたり草木はなぎ倒され、そして壁は―― ヒビ一つ入っていなかった。

 いや、正確には「ヒビが入った瞬間から修復されていた」というのが正しいだろう。


 燈弥は目を見開く。

 手加減などしたつもりはなかった。本気で“壊す”つもりで拳を放った。

 だが、その結果得られたのは右拳から肩にかけて走る痛みと、そして“壊せない” という絶望だけだった。


 自身の記憶を探るまでもない。こんな物質・能力は初めて見る。効果的な対処方が全く思いつかない。――八方塞がりだ。


「 クッソ!!」


 どうしたらいい、この材質。やはり能力波を吸収するのか?いや 、だとしたら能力補正による俺の攻撃が防がれるわけが――。



 壁に手を付き、忌々しげに睨みつけながら燈弥は内心で考える。

 だが、考えれば考えるほどこの壁をどうすることもできるようには思えない。

 それに加えて、なぜ自分が外に出されたのかすら、今となっては考えが及ばないほどに、彼は焦っていた。



 刹那、地面を伝い振動が足元に感じられる。――壁の中でなにか起こっている。 直感的にそう確信した。


 ガラではないが、考えている暇はない。自分の体が壊れようが、どんなことはどうでもいい。

 玲の姿を思い浮かべ、燈弥は再度、次は一撃ではない、壁が壊れるまで神速の攻撃を続けようと、拳を引く。




 燈弥が壁の外で奮闘している最中、玲はもう後がないほどに追い詰められていた。


 振り返る先には、ギザギザに開かれた口をニタァっと歪めたヒトガタ。

 ゆっくりと、確実に一歩ずつ近づいてくる。玲は口を結んで、震える体を落ち着けようと、左手首をぎゅうっと掴んだ。


 動かなければ、動かなければ!

 そう思って立ち上がろうとしても、足がすくんで思うように動けない。こちらの事情はお構いなしにヒトガタは距離を詰めてくる。

 絶対絶命― ―そんな単語が頭を過ぎった。


「――っ、何なんだよ……お前は何なんだ!?」


 混乱とどうしようもない恐怖が怒りになり、ヒトガタに声を荒げ、睨みつける。

 そんなのは無意味かもしれない。でも、せずにはいられない。

 相手から目を逸らさないまま、 後ろに下がる。座りこんだままの体勢だから、とてつもなく遅いのだが、逃げなければ簡単に追いつかれる。


 もう目の前に迫るヒトガタ。

 玲は恐怖からぎゅっと目を閉じて――。




 ――目の前に走る閃光。



 そのは瞬く間にヒトガタに真正面からぶつかり、瞬間、ヒトガタは胸に穴が開き後ろに倒れるように崩れ落ちる。

 そこへ、怒涛のラッシュを決めるがごとく、ドドドドっと打撃音を奏でて、最後に首をめがけてトドメの一撃を響かせた。


 短く太い首と胸に穴が開いたヒトガタは、ギザギザに開かれた口から、重低音を漏らしつつ、両手足をジタバタと動かす。 が、立つことすらままならない。

 そして、ついにヒトガタは動かなくなった。




 玲は何が何だかわからないという感じに目を丸くすると、倒れたヒトガタの目の前には――。





「玲ちゃん、大丈夫ー?なにこれ中ボス?それとも雑魚モンスター?」



 オクターボレクス。

 光属性最強能力者。

 光聖上《こうせいじょう》白石ナナ。


 またの名を――――光速ルーキス弾丸バレットガール。


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