chapter:5-8

「あらー、全然ダメ入ってないじゃん。やば、詰みゲー?」


 燈弥の行動にケラケラ笑いながらナナは玲の方へ向かう。

 闇帝あんていに直々に頼まれたのだ。

 ここでふざけすぎるのはよろしくない。


 ナナは玲に近づくように足音をたて……直後、額同士をくっつける。

 突然のことにビックリして後退しそうになる玲の肩を掴み、その眼に目わ合わせた。


 視神経にじょうほうを流し、視界を妨げる状態をナナの光を持ってクリアにしていく。


 それはまるで、光のゴーグルを装備しているような快適な状態。


 ナナのおかげで数秒もしない内に真っ暗だった玲の視界が見えるようになる。

 そして視界に映るのは――――超至近距離にあるナナの顔。


「うわっ!?……って、あれ?見える……へぇ、さすが光のトップだな。ありがとう助かった」


「あはっ、いいリアクション!どーいたしましてー」


 驚きはしたが、ナナもすぐに顔を離したので玲も文句は言わなかった。助けてもらっておいて文句も何もないが、心臓には悪い。

 お化け屋敷でお化けに遭遇した並の驚きはあ った。


 とりあえず、先程より見えるようになったので、玲はナナにお礼を言いつつ燈弥からバッと手を離す。

 見えない時は必死で余り考えなかったが、冷静になれば自分は恥ずかしいことをしているように思えたのだ。



「……で、壁はどんななの?あー……さっきの衝突音で傷つかないとかヤバイな」


 見えるようになったため、玲も壁に近づきまじまじと見つめる。手で触れてみても無機質なただの壁。

 触ってもダメージは受けない辺り、本当に捕えるための檻のようだ。


「完全に籠の中の鳥か……闇と光のトップとわかってて捕まえたのかもな。あー疲れたからか眠くなってきた」


 淡々と思案しつつ、一つ欠伸をし目を擦る。トラブル続きからの疲れなのか、目の前の壁が何らかの原因なのか……。分析力の乏しい玲にはわかるはずもなく、二人の言葉を待つ。



 燈弥はといえば、壁を殴った自分の手の平を観察する。殴り返ってきた衝撃で、ビリビリとした少しだけ心地の良い感覚が残るそれ。


 全力とは言えないが、普通ならばこのレベルの力を受け止められるモノは数少ない。

 異能が発現する前や、ここまでgradeUPする以前にしか感じたことのない懐かしい感触だ。


 しかし、今はこの懐かしい感触にうつつを抜かしている場合ではない。

 数日間体中が筋肉痛になることを我慢して全力で壁を壊そうとこころみるのも一興だが、100 m四方の壁の中では、下手に本気を出してしまうと、ナナはともかく、玲が衝撃波や爆音の反響で傷ついてしまう可能性も高い。


「おーおー燈弥。イライラか?なんだ、なんだ?お目目見えるようにしたげよっか?」


 燈弥の精神を逆撫でするようなナナ。それに対して燈弥はとびきり大きな舌打ち一つ。


「テメェと額くっつけるくらいなら見えなくたって構わねェ」


 自分の力が通用しないもどかしさと、悪く言えば足枷あしかせになってしまっている玲。

 そしてそのことを心のどこかで考えてしまっている自分に対し、一抹の不安と、限りない 苛立ちが芽生え、そんな風にぶっきらぼうに答えてしまう。


 気配に頼るということも大事だが、やはり視覚が見えているのと見えていないのとでは、あからさまにハンデの差が大きい。

 冷静な判断も、今の燈弥にはできていないようだ。


 燈弥はもう一度壁の中の気配を探る。

 やはり、何者の反応も見られない。


 燈弥は一息、ため息のように息を吐けば、心地よい感触の消えた手と玲に離された手、その2つの寂しげな手をポケットに突っ込むと、壁にもたれかかるようにして地面に片膝を立てて座り込む。



「 ハァ。俺は寝る。テメェ等も寝といたほうがいいぞ?」


 そう告げれば、瞳を閉じて、静かに寝息を立て始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る