chapter:5-7
少し落ち着きを取り戻し、玲は燈弥の話に耳を傾け、そして頭に疑問符を浮かべた。
暗くて見えはしないだろうが、その表情は怪訝そうに歪められている。
「能力者の
はぁっと深いため息をつき、玲は嫌そうに肩を落とした。
こうも行く先々でトラブルに会えば仕方がない。今日は厄日か何かか?と思案してしまう。
「――で?どーする?面倒事は
淡々と嫌そうに呟いた玲は、言葉とは反対に燈弥の手を握り続ける。強気に平然を装っても、やはり不安は完全には拭えないのだ。
また、変に怪我をしないか……それも心配なのである。もちろん、自分だけのことじゃない。燈弥とナナ、二人に対してもだ。
「えー、なにこれー。今日なんか大規模イベとかあったっけか?」
燈弥や玲と似たようにナナにもこの状況は把握できていない。しかしなんとも
それもしっかりと二人を見て話すものだから、この闇の中ではっきり見えているのか?と玲は不思議に思った。
なにせ自分には全く見えていないのだから。
燈弥はそんなナナをみて合点がいく。
「 白石。お前の能力で玲の目をなんとかできないか? 」
闇に目が慣れたとは言え、流石に昼間と同じようにとはいかない。
燈弥とて能力による補正をかけてさえ、これだけ視界が悪いとなると、この壁の中には一切の光が入っていないようだ。
こんな状況では、常人ならば闇に目がなれるわけがないだろう。玲も不安なはずだ。
能力でどうにかしてやりたいが、燈弥には難しい。
燈弥の能力は詳しくいうならば、『瞬時に最適解を出せる脳による、絶対的な空間把握に演算能力を加えたもの』である。
その脳にしてみればあらゆる事柄の完全記憶ができるし、それに加え脳による最高のパフォーマンスをするための身体の強化と飛躍的な感覚神経の向上。
空間把握による人や物質の存在をいち早く察知し、加えて聴覚や視覚などの能力強化を使えば、それが届く範囲内なら危機察知も瞬時にできる。
つまり前にも語ったが、スパコンの数十倍を超える脳内処理と、それについてこれる体を有しているのだ。
一見して闇属性に全く関係なく思える能力だが、実際は「闇」の力が脳に深く内蔵されたものであり、すべての「
燈弥の異能は自身に使えても他者には何の手助けにもならないのだ。
この場合だと、特にそれが浮き彫りになる。
だからこそ、燈弥はナナに頼んだ。
ナナは光属性最強能力者。この闇の中でナナだけは視界へのデバフを感じさせない振る舞いをしている。
「んー、できると思うけど。別にそのままの方が燈弥的にはラッキー何じゃないの?いいの?」
「は?こんな時に何言ってんだお前」
ナナの言葉に燈弥は呆れる。
確かに、この壁の中に能力者の気配はしないし、自分たち以外の生物の気配もしない。だが、それだけで安心はできない。
何しろ、玲の手を握ったまま戦闘になることだけは避けたいのだ。
「……古い知り合いに、忠告された。 “これからは、色んな組織の人間に狙われるかも”ってな」
燈弥は少し息を整えて、軽く玲の手から力を抜く。
背後にある壁に意識を向ければ、普通のコンクリートならば砕けるほどの掌打を打ち込む。
硬質な衝突音に加えて、空気がひどく振動するが、壁は壊れるどころか、ヒビ 一つ入らない。
やはり特殊な何かでこの壁は出来ているのだろう。
そして、きっ とこの壁を作り出したのは、単なる組織ではなく、もっと学園の闇に根付いた――。
「――わっ!?びっくりしたぁ……」
燈弥の壁の調べ方は、なかなかに乱暴であった。空気を揺るがすほどの衝突音に玲も肩をビクつかせ声を上げる。
だがまだ手を握っていたので、そんなに取り乱すようなことはなかった。
燈弥とナナは、こんな状況でもさすがに冷静でおり玲は感心する。
逆に自分は、未だに真っ暗な視界に恐怖を感じて気が狂いそうだった。
視界――いわゆる一つの感覚を奪われれば
普通ならば落ち着いてなどいられない。やはり、二人は王なのだと納得する。
誰かに狙われているのか……この状況を打破するには、とにもかくにも目が見えないことには何もできない。
このまま燈弥とずっと手を繋いでるわけにはいかないのだ。
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