chapter:5-4
「 お前も反抗せずにされるがままなんざ、大概オカシイぜ?」
若干ニヤついた玲の言葉に、燈弥も意地悪に微笑む。
「ははっ……じゃあオカシイ同士、お似合いってことだな」
玲も笑って返す。
確かにオカシイ。まるで何かに憑かれてるみたいに、らしくない。お互いに、だ。
しばらく二人で夜景を楽しむ。
人工の光だと分かっていても何も考えずに眺めていると、思いのほか悪いものでもない。
一息つくと、燈弥は玲に視線を落とす。眼下に広がる宝石のように綺麗な光と、玲の表情。 ――悪くないな。
「 今日だけ……。だから、な?」
「え、なに?」
ふと、燈弥を見上げていれば、絡み合う視線。小さく、告げる言葉とその表情に玲は息 を呑む。
見たことなど無いといえるくらい、珍しい表情を……意地悪く、しかし少しだけ優しく微笑んだ顔を見せる燈弥。
その顔が、静かにゆっくりと近づいてくる。
まるでスローモーションのように酷くゆっくりに感じた。
そして――。 おでこを同士をくっつけると、燈弥は目を閉じて一息吐く。
触れるおでこ同士、そこから伝わる熱。目を閉じる相手に倣い、反射的に玲も目を閉じる
――瞬間、唇に伝わる呼吸の感触。
「――――っ」
玲の口から小さく吐息が漏れ、体が強張った。触れていないのに、触れたような……時間は一瞬だったかもしれない。
だが玲は、酷く長く感じた。そして、今何が起こったのか……頭がようやく理解したのはおでこが離れて数秒後。
「な、なっ……!?」
瞬きを繰り返し、顔を赤く染め玲は言葉にならないというように、動揺した。下手したら卒倒してしまいそうで、それほど強烈な出来事。
「なん……何する!?」
わかりきってるくせに、焦る心は、意味のない台詞を吐いてしまう。
唇が触れそうで触れない、その切ない数センチの距離に燈弥は息を
このまま、後少し前に出れば……などと考えていると、突如響く声、否――――騒音。
「あっれぇぇぇ!?燈弥じゃーん!何してんのー!?」
ビュンっと真横に現れた人影、それはそのまま瞬く間に下へと消えていく。
まるでレーザービームのように一瞬で、その聞きなれた声に燈弥は舌打ちした。
今まではこれっぽっちも気にしたことなどなかったが、今ほどこの声を憎たらしいと思ったことはないだろう。
さすがは学園一のスピードスター。
そんな風に考えられるだけ、まだ理性が保たれているということだろうか。
燈弥は青筋を立てる。
玲に触れている温もりを感じたのは本の一瞬であり、幸せも一瞬で
「 マジで、ぶっ殺す 」
かなり凶悪な笑みを浮かべていただろう。笑顔がひきつるのが自分でもわかる。
燈弥は玲を抱いたままビルから飛び降りた。
玲は動揺した。今まで余裕そうに構えていた燈弥。しかし、その口から突如囁かれるのは甘い言葉ではなく……
「な、なに?なに急に……はぁ!?」
玲は横からの声に気付いてなかった。
いや、自分の状況にいっぱいいっぱいで他の情報は入ってこなかったのである。だから、燈弥が何故そんな物騒なことを言ったのか、何故そんな凶悪な笑みを浮かべているのか、何故ビルから下に落下しているのか……全てわからない。
「ちょ、バカ!落ちるなっ!!」
本日何度目かの恐怖を味わい、玲はギュッと目を閉じ必死に燈弥にしがみつく。
あっという間に何事もなかったかのように燈弥は無事に着地したが……玲からしたら冗談ではない。こんな絶叫マシーンは遠慮したいのだ、心から。
そんな玲の心情など知らず、先ほどの声の主の前に降り立つ燈弥。
そこらのチンピラ程度ならば声を上げて逃げるほどの威圧感を出しながら告げる。
「 ンで、何の用だよ。 答えようによってはぶっ殺すぞ? 」
三白眼を見開きながら、能面のように笑顔を顔に貼り付けて、首をかしげる。
この際、玲は燈弥の腕の中にまだいた。
ようやく呼吸が整い玲は文句を言おうと閉じていた目を開けた時、燈弥を見てギョッとした。
これは怒っている。何に対して?と、疑問に思い燈弥の視線を辿れば……そこには茶髪のボブヘアの一人の少女。
「――
マジか!?と今度は玲が声を上げた。
目の前にいたのは、ただの少女ではない。
オクターボレクス、光属性最強能力者。
玲が所属する派閥のトップである。
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