chapter:5-3
玲の抗議は無視という感じに、燈弥は玲を抱え直し妙なことを言う。
絶対に普段なら聞くことができない、甘いようで、甘くない台詞。お姫様抱っこというのもあり顔の距離が近いせいか、玲は顔を赤らめ
意地悪な微笑みなど、ある意味反則だ。これだから顔のイイ奴は……玲は小さく舌打ちした。
「〜っ、あーわかった!好きなだけ抱けばいいだろ!変態研究員っ」
珍しく玲が折れた。いや、燈弥とのやり取りでは玲が折れる方が多いのだが、このような女の子のような扱いを強要されるがままにいるのが珍しいということだ。
「で、どーする?帰るんだろ?」
燈弥には目を合わせないまま、ぶっきらぼうに吐き捨てた。さすがに玲も疲れている。
お風呂もリラックスして入れなかったし、ベッドにダイブしたい気持ちもある。
そう思っていたら、自然と軽く欠伸がでた。咄嗟に片手で口を塞ぐ。欠伸をしたためか目は若干涙が滲んでいた。
そうか、今この状況は変態なのか。などと燈弥は内心思った。
玲の疑問系のセリフを聞いて視線を下に向ける。
欠伸したのだというのは雰囲気から伝わってきていた。だが、距離の近い顔と潤んだ瞳に上目遣いのコンボ技は非常に攻撃力が高い。
「 とりあえず、中央地区帰るぞ」
燈弥は慌てて玲から視線を逸らす。
自分の顔が赤くなっていくのも感じたが、それを悟られないために、少し早口で告げた。
不意に視線を逸らす燈弥に玲は?マークを頭に浮かべたが、一々気にしていたらきりがないので、特に言及せずに瞼から流れた涙を軽く拭う。
その間に燈弥は動き出し、また空中へと高く跳んだ。
一歩、二歩、三歩。
燈弥ならば、一瞬で最高加速まで達することができるし、それにも耐えられるのだが、玲がいるとなるとそうもいかない。
だんだんとスピードを上げて、四歩目で高く飛ぶ。
行きと同じように能力を駆使しながら、器用に電柱や配線塔などを足場にする燈弥。
女を姫抱きしながら夜の空を駆ける姿は、まるでお伽話に出る王子様そのもの。
いや、怪盗の方が燈弥には似合う。真っ暗な闇が似合う、狙った物はどんな手を使っても手に入れる……そんな怪盗。
かなりスピードが出ているので、玲は紅灼にしっかりしがみつきながら、そんなおかしな事を頭に描いていた。
夜風が肌に当たる。とても寒い。
だが、それを察してか燈弥は自分の胸に玲を強く抱いた。その温もりが、何だか心地好い。
10分ほど走っただろうか。
「 玲、見てみろよ 」
「は?下?――――わぁっ」
中央地区の外れ、この背の高い建物は研究施設かなにかだろうか?その屋上、避雷針の横に立って、燈弥は玲に告げる。
燈弥の目には単なる人口の明かりに見えるが、眼下に広がる色取り取りの光は世界の夜景ベスト10に選ばれるほどらしい。
そこから広がる光景は玲も感嘆の声を漏らした。眼下に広がる、色取り取りの光。人工的な明かりだが、夜景としては素晴らしいものだ。
「綺麗……」
それしか例えようがない。そんなありふれた言葉を玲は口から発する。言葉数は少ないが、その表情は明らかに喜んでいた。
「ただ家に帰るだけじゃなくて、こんな寄り道までするなんて……今日の燈弥はオカシイな」
悪い意味ではなく、玲は不思議そうに、でも若干ニヤついた表情を浮かべて燈弥に告げた。
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