chapter:5-2

 しっかりと抱えていたはずだったが、着地の際に少し気を抜いたためズレてしまった玲を、もう一度しっかりと抱える。


「そうか、家はわからねェのか?」


「帰ろう」という玲の言葉に、その言葉のうちに未だ不安が残るのを敏感に感じ取った燈弥は、心多の家がわからないかどうか聞く。


 発信機の情報はそこまでしっかり見てはいないし、基本的には大まかな位置情報しか記されないのでわからないが、この東地区は基本的には住宅街や神社、森林などが主にある地区だ。


 そこまで大型のショッピングモールや、わざわざ行きたいというような場所もないだろう。

 中にはお寺や神社などを回るのが好きというもの好きもいるであろうが。


 燈弥の言葉に、う〜ん?と唇を少し尖らして玲は考える。

 自宅に一度お邪魔になったが、一 度だけだ。そうそう覚えているはずはない。


「家には一回しか行ってないから、詳しくは覚えてない。ただ……神社が近くにあった

 。和風の、大きい家だ」


 道順はわからないが、印象は頭に残っている。思い出すように、ゆっくりと燈弥に告げる。


「っというか、俺はその心多とか言う奴の素性が知れねェンだが?」


 よくよく考えれば、玲がせがむため連れては来たが、燈弥自身その心多という人物のことを全くと言っていいほど知らない。名前から男だということが推測できるレベルで、苗字や年齢などさっぱり分かっていないのだ。


「心多は、背が高くて……なんというかー、お兄ちゃんみたいな雰囲気のやつだ。学園で知り合ったんだよ、今日な」


 そんな燈弥の疑問にも自分のわかる範囲で玲は答える。


 心多との初コンタクトを思い出す。燈弥から逃げる際に学園の廊下で声をかけられ、そのまま食事という流れとなった。


「食事を一緒にしてな、手作りだ手作り。凄い美味しいんだ。それで、そのあとバイク で送ってもらおうとしたら……拉致られたってわけ」


 流れを思い出しながら、明るい顔をしたり、少し顔をしかめたりと玲は百面相のように忙しなく表情を変化させた。無事、と思うが……怪我をさせた相手だ。何とも罰がわるい。


 燈弥は黙って玲を見つめる。話を聞く限り、その心多という人物はかなり世話焼きでおせっかいらしい。燈弥の脳裏に懐かしい人物が頭をよぎる。


 同時に玲がこんなに気にかけることに驚きもあった。

 いや、自分はいつも実験ばかりだったから玲の本質が見えていなかったのかもしれない。


 善意に応える彼女は、やはり光属性なんだなと燈弥は改めて感じた。


「連絡先でも、聞いとくんだった」


 燈弥に抱かれた状態でぽつりと呟いた。こうも簡単に相手が見つからないというのは心

 配もあるがイライラもしてしまう。それに、未だにお姫様抱っこの状態というのは、玲も恥ずかしかった。


「なぁ、とりあえず。この状態は……堪えられないんだけど」


 思い切って、燈弥に静かに抗議してみる。


「 ここから歩いて駅まで遠いぞ? 」


 今は能力による筋力補正を解いているため、言葉通り自力で玲を支えている。そこまで苦痛ではないが、やはり多少ずれてしまうのは仕方がない。


 もう一度、玲を上に上げるようにしてお姫様抱っこを整える。


「 いいだろォが。こんな事、今で無けりゃァ出来ねェンだ 」


 今日は色々あり、少し燈弥のテンションやら気持ち構えやらが高まっている。多少酔っているという表現が似合っているのかもしれない。


 だからこそ、これが明日になってしまえば、お姫様抱っこなんて頼まれてもしないだろうし、進んでもやらないだろう。

 それどころか、こんなに玲とも密着しないかもしれない。それを頭の冷静な部分でわかっているからこそ、燈弥は少し意地悪な微笑みを浮かべて告げた。

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