一緒にはいられない、守りたいから
光速の弾丸ガール
chapter:5-1
燈弥からすれば、先程から話題に出ている心多という人物が非常に気になるわけだが、なぜこんなにも気になって気に食わないのかはよく理解できていない。
ただ、玲が心配だというのならば急いだほうがいいだろう。あまり戦闘以外で能力を使うのは好きではないが、仕方がない。
少し先を行き急かす玲を見ると、燈弥はその場で靴の調子を確かめるように、トントン、っとつま先を地面に打ち付ける。
急かしているのに、走りだす様子もない燈弥に玲は怪訝な顔をした。表情から気持ちを読み取るのであれば「何をしていやがるコノヤロー」である。文句を言ってやろうかと、口を開こうとした――瞬間。
「前向いてろ。 ――行くぞ?」
能力発動。 身体能力上昇。空間把握開始。
「――わっ!?って、えぇぇぇっっ!?」
ビル全体が震度2ほどの揺れを観測するほど、一瞬で燈弥が加速すると、背後から玲をお姫様抱っこし、2歩で長いコンクリートの通路を抜ける。
次の一歩でビルの外に出て、そのまま斜め上に飛び上がった。
体感速度は軽くマッハに到達するほど。眼下には森が広がり、その向こうには東地区の街並みが広がる。
突如、ふわりと体が浮いたと思えば、近くに燈弥の顔があり玲は肩が跳ねるほどに驚愕した。
それもそうだ、急にお姫様抱っこをされれば誰でもビックリするし慌てる。しかもメチャクチャ速い。絶叫マシーンが得意な者でも、これは怯むだろう。玲など燈弥にしがみついて目も開けられない。
すると、続いて体に感じたのは上に引っ張られそうになるような妙な浮遊感。――否、浮いてるのではない。落ちているのである。
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!?」
一瞬目を開いた玲は叫ぶとすぐに目をとじ、必死に燈弥に先程より強くしがみつく。
そう、燈弥は玲をお姫様抱っこしたまま、上空120m程を只今落下中。
「んで?心多ってやつはどのへんにいるんだ?」
なんでもない風な燈弥と違い玲の心は大混乱だ。心多と何処で別れたかなど、まともに答える余裕はない。
「わかんないっ!わかんないっ!どっか、道!!」
若干パニックになりながら、やっとそれだけ答えた。
「 ハァ!?道って……、とりあえず東地区だよな 」
玲のセリフに燈弥は一瞬驚きの声を上げるが、冷静に先ほど玲が連れ去られた際の、発信機の動きを思い出す。
信号に止まったわけでもなく、停止していた場所。東地区の中央近く、住宅街の細道。
いつの間にか星が見え始めた空から、その場所を目指すのは困難だが、アウロラのビルがあった廃墟群の場所とその場所を照らし合わせて道を計算する。
「 つーか、治したんだろ? それじゃぁその場所にはいねぇんじゃ……」
玲の行方がわからなくなったのに気がつくまでに1時間、玲の居場所を割り出すまでに1時間、到着するまで1時間。
大体だが、最低でも2時間は優に越している。
玲が心多の家に着き、ご飯を食べていたのが4時だと考えると、既に七時くらいの時間だ。
電柱や電塔などを足場に、先ほど玲が連れ去られたと考えられる場所にたどり着く。
「 ほら、ついたぞ。 目ェ開けろ 」
未だ燈弥の腕の中、玲はそーっと目を開き下を見た。
確かに、なんとなく覚えのありそ うな風景。だが今日初めて通った道だ。確実には覚えていない。だが、燈弥が示した場所がこの場所なら、それも間違いないはず。
「……いない」
目を開いて暗がりの中を探してみる。
燈弥の言う通り、心多の姿はなかった。怪我は治した。自分で移動ができたのかもしれない。ならば……大丈夫だろうか。アウロラの四 番隊、神内も大丈夫と言っていたし。
「家に帰れたんだよな、きっと……」
玲は少し不安ながらも、大丈夫だと気持ちを切り替えるようにして燈弥にぎゅうっと抱き着く。
「……きっと大丈夫だ。帰ろう」
夜空に浮かぶ星を見ながら、続いて燈弥に顔を移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます