chapter:4-5

 デコピンが燈弥の額にヒットすると、いい音が鳴る。どうも、玲の言葉は心に刺さる。

 ヒリヒリとする痛さと、自分の不甲斐ない言動に燈弥は眉をひそめて微笑む。


「アァ、そうだな。らしくないことで悩んでた」


 そう呟く。玲には玲の譲れないものがあるし、戦い方がある。自分は玲が傷つかないように全力で戦えばいい。


 それでも玲が傷ついてしまったときは――



「もっと、強くなればいいだけだもんな」


 そう言って玲を離した時には、既に先程までの表情はなく、今までのどこか凶悪で自信に満ちた、危うさのない表情が浮かんでいた。


 額の可愛らしい攻撃、否――痛みの度合いからすれば可愛らしくはないのだが、燈弥の表情がいつもの凶悪かつ自信に満ちた表情に戻ったため玲も安堵する。

 普段憎らしい相手が、らしくないと調子は狂うものだ。


「ふぅー、まったく……手のかかる子どもみたいだな」


 やれやれと言った感じに肩をすくめて玲は冗談っぽく呟いた。


 そして、燈弥は歩き出す。

 これから先立ちはだかる敵に臆することのないように、屈することのないように――。

 力強く。




「 俺は、自分の“モノ”を……、みすみす誰かに奪われるようなタマじゃねぇ 」




 解放された両腕を軽くほぐすように振り、燈弥の後を追うように続いて歩きだした玲は、隣にきた時、 調度聞こえた彼の力強い台詞に、正直どう反応したらよいかわからず顔を若干赤くさせた。


「……熱烈だな。恥ずかしいから、そーいう事サラッと言うのやめろ」


 燈弥の“俺の物”発言に彼から顔を逸らしてボソッと呟いた。

 所有物という考えにどのような意図があるのかは謎だが、言われた方はドキリとするもの。

 よくよく考えれば、ただの俺様発言というだけだが……。


「つーか、こんな悠長にしてる場合じゃないぞ。心多の安否を確認するまで、私は全然安心できない」


 若干、顔をしかめて玲は燈弥を急かした。

 本当はゆっくり話はしたいが、それはいつで

 もできる。今気掛かりなのを解決するのが最良だ。


 玲は隣の燈弥を追い越し、先にビルの外にでた。しかし、置いてくことはしない。まず一人では帰り道もわからない。


「燈弥、早くしろよ!」


 振り向き、そう叫ぶ玲。別に怒ってはいないが、若干声を荒げる。

 そんな玲を見つめて燈弥は、口元に弧を描き、なんとも言えないなような表情をしていた。


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