chapter:4-4

 エレベーターが開き、一歩進もうとしたところで燈弥が強く握り返してきた。


 正直、玲には何故自分が狙われるのかは理解できなかった。何しろ、まったく珍しい能力でもないし、 gradeも特出したようなレベルではない。

 理由はわからない。だが、燈弥が“一緒にこい” と言うのなら、それに素直に従うのがいい気がした。


「……慈音って人に、感謝しないとな」


「昔から、アイツは良い奴だったよ」


 玲の慈音に対する言葉を聞けば、若干はにかみながら、燈弥はかつての慈音の姿を思い出す。


「お前の友達とは思えないくらのな」


 そんな燈弥に玲はそう冗談っぽくニヤッとした笑みを浮かべ、エレベーターの向こう側に降り立つ。

 小奇麗なエントランスは、やはりホテルのような印象で、このような所からもアウロラは力のある組織なのだとうかがえる。


「いいぜ?お前の考えにノってやる。ただし!守られっぱなしは嫌だからな。丁重に扱うなんて、似合わないことしなくていいから」


 凛とした声でハッキリと意思表示をし、玲は燈弥に顔を向ける。その表情は、強気な笑みが浮かべられていた。

 ただの守られるお姫様には、なるつもりはないらしい。


「つーわけで、心機一転。これから、よろしく」


 繋いだ手を上に上げ、玲はそんな風に言った。端から見ればテンションの高い人に見られるが、玲なりの気持ちの切替をしたまでだ。


 しかし燈弥は振り上げられる手を


「わかってねェ。玲、さっきの戦い見なかったのか? 俺がたかだか下っ端にアノ様だ」


 玲の両方の二の腕あたりを掴むと、そう真剣な目で告げる。


 確かに玲の力は特別だ。

 ソレは能力開発の最先端を行く燈弥がよくわかっている。

 だが、いくら特別だといっても、ソレは治癒の領域を出ない。戦闘には全く向いてい

 ないのだ。


「 俺は、お前にこれ以上傷ついて欲しくない。これから、あんな強さの連中に狙われたら、俺は―― 」


 燈弥はそこから先を口にすることはできなかった。

 ソレは、口にしてしまえば現実になってしまいそうだったから。

 ソレは、口にするにはあまりにも惨めだったから。


 まるで泣き出しそうな子どものように、燈弥は玲をしっかりとその両手に捕まえながら、俯く。



 自分の意思表示。その振り上げられる手を予想外に振り払われ玲は目を丸くする。

 少し唖然とした様子で燈弥の方を見れば、不意に両方の二の腕あたりを掴まれ、いつになく真剣な目で告げられる言葉。


 その話をする燈弥は、高圧的なのに酷く辛そうに見えて、玲も息を呑む。

 途中で切られる言葉の先を聞くことはできないが、まるで泣き出しそうな燈弥に玲はフッと柔らかく笑った。


「さっきから、ゴチャゴチャと考えすぎだ。この島にいてなんてのは無理だろ?」


 それは、決して燈弥を責めるわけではなく。

 ただ、当たり前のことをいつもより少し優しく伝えているだけ。


「強い奴が相手なら尚更、お前はお前のことを一番に考えろ。この島にきた時から、それくらいの覚悟は私にもある」


 ただお気楽な気持ちで、ここに生きてるわけではないのだ。

 玲は凛とした声で言葉を紡ぐ。


「――それでも……それでも、私を守りたいなら……強くなれよ」


 意地悪っぽい笑みを浮かべ、玲はつかまれている左手をゆっくり上げ、燈弥の額にデコピンした。バチッと痛そうな音が聞こえたが玲は笑うだけ。


「いつまでも、面倒くさいこと悩むな。闇帝あんてい?」

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