chapter:4-3
あの意地っ張りで弱みを見せなかった燈弥が……ねぇ。
玲に対し、今まで見たこともないような弱々しい表情と声色で告げた燈弥を見て、慈音は感慨深く思う。
一人で突っ走って、何もかもを背負い込んでいた今までの燈弥が、玲と出会ったことでどのように変わっていくのか。楽しみだ。
そんなふうに慈音が思っていると、不意に告げられる玲の言葉。その返答に困っていると、 今更ながらに金髪をカチューシャでオールバックにした青年が現れる。
玲も見覚えのある人物――神内だ。
「瀧と丈には俺から言っておく。……それと、心多。とかいったか? あの男も心配はいらねぇ……」
神内の申し出に「じゃあ、頼む」と玲は頭を下げながら彼の言葉の意味を理解する。
心多は大丈夫のような発言だったが……本当だろうか?もちろん、アウロラの彼らが嘘をついてるようには思えない。
ただ、それでも自分で確認しないと心配というのは消えないものだ。
玲の返事を聞いた後、神内は慈音に声を
風呂場に残ったのは燈弥と玲、そして神内だけだ。
「まぁ、ボスの意思はこの際どうでもいい……。帰るンなら、下から帰ってくれよ?」
そう言い残し、神内は玲に彼女のスマホを手渡すと潰れた風呂場の方へと足を運ぶ。修繕でもするつもりなのだろう。
それを尻目に、燈弥は玲に告げる。
「だ、そうだが。どうする?一度その場所へ向かうか?」
燈弥の声に玲は小さく頷いて、意志を表す。
「神内って人が言うんだから、大丈夫なんだろうとは思うけど。一応、心配だし。私の鞄もそこに置いてきたし」
そう言うや否、玲は繋いだままの燈弥の手を引っ張り風呂場の出入口へと向かう。
帰り方は玲もだいたい覚えている……変に迷わなければいいが。
玲に連れられるままに燈弥は歩きだす。
正直神内の言うことなど守らず、空から帰っていくつもりだったのだが、あんなことがあった手前、玲に強く言えず、そのままだらだらとこの状態。
だが、正直顔が見れない。冷静になればなるほど燈弥は今のこの状況がとても恥ずかしく感じた。
二人はエレベーターに乗り一階を示すボタンを押して、後は流れに任せるだけ。屋上から一階という距離、少し話でもしようか?玲はそう思い、隣にいる燈弥に顔を向ける。
「アウロラ……ここの組織の名前なんだけど。そのボスと燈弥って、なんか関係があるのか?風呂場にいたから捕まえようと思ったんだけど、逃げ足が速くてさ」
玲は苦笑いして、あの時を思い出す。この騒動の発端者に話があったし、巻き込まれた自分としては顔の一つでも見てやろうと思ったのだ。だが、まぁ今はとりあえず、いいだろう。
こうして、何とか無事に解放されたのだから。そう思い、玲は燈弥の手を強く握る。
「……とりあえず、ここ出るまで。手は離さないで?やっぱり、ちょっと……もう捕まりたくないしさ」
少し困ったような、そんな笑みを浮かべて玲は前を見据えた。燈弥の顔を見るなんてのは何だか恥ずかしかったし、もうそろそろ一階に到着しそうだからである。
「 アウロラ……か。さァな。心当たりはいない 」
嘘をついた。アウロラとは燈弥がこの学園島に連れてこられる前、小学生の頃に故郷の街で友人たちと名乗っていたチーム名だ。そしてそのチームのリーダーは――
エレベーターが一階につく。
それと共に、燈弥は思い出しかけていた顔を頭から追い出した。 玲の横顔を横目で見ながら、強くその手を握る。
「これから俺たちはいろんな組織から狙われる。多分、それを知らせるために……慈音はこんなことしたんだ」
エレベーターの向こう側。小奇麗なエントランスの広がるその場所を見て、一歩足を踏み出してそう告げる。
そして――。
「だから、玲。 俺と一緒に来い」
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