chapter:4-2

 基本的に治癒能力とは、相手の細胞を活性化させるなど、相手の自然治癒能力を高めるものがほとんどであり、そういった者の能力は非常に“気持ち悪い”。


 理由は簡単だ。細胞が無理やりうごめく感覚と、熱を持ち敏感になる患部、そして、無理な体の状態異常に対する嫌悪感からくる。


 だが、玲のソレはそういった感覚がまるでしない。まるで幼い頃に撫でられた母の手のぬくもりのような。白く暖かい――。




 あまりの唐突で目まぐるしい状況変化と疲労感。そして、治癒の温かみに当てられて 、ガラにもなく燈弥のまぶたが重くなる。

 だが、玲の言葉に、急激に意識が覚醒してゆく。


「なんでテメェが謝ってんだよ?悪いのは俺だ。俺がハッキリしないせいで、慈音にこんなことさせちまって。そして、お前までひどい目に合わせた」


 俺の責任だ。最後に言った言葉はかすれて声にならなかった。胸に当てられる玲の手に、燈弥は自分の手を重ねて優しく、強く握る。


「 悪かった。これから俺のせいで、お前が危険な目に合うかもしれない 」


 うつむき、懺悔ざんげする。ソレは燈弥が今まで気にしていなかったこと。

 自分が玲に執着して実験をしていたと、調べれば簡単に分かってしまう。


 だが、彼はそんなことを気にしてはいなかった。どんな敵が現れようとも、この街では無敗。どんな敵が現れようとも、彼女に危険が迫る前に自分ならその危険を取り除ける。


 そんな傲慢が、今回の事態を引き起こした。玲の心に傷を残した。



「 帰ろう 」


 そう顔を上げ、真っ直ぐに玲の瞳を見つめる。



 自分を責め、謝罪までする燈弥の姿が玲には信じられなかった。いつも自分勝手に振り

 回されていた記憶しかないから。こんな、優しい声を発する彼を玲は知らないのだ。


 しかし、燈弥の胸に当てた手に彼が手を重ねて、優しく強く握る……今起こっていることは嘘でも夢でもない、真実。


“帰ろう”と、俯けていた顔を上げ、真っ直ぐに瞳を見つめてくる燈弥に玲が抵抗するだろうか?らしくない、と反抗するだろうか?――否、そんなことは、あるわけがない。



「――うんっ」


 連れ去られ、不安の中で何度も頭に浮かんだ燈弥の姿。こうして、ちゃんと助けにきてくれた……その事実は何より嬉しかった。


 玲は見せたことのないような、優しい笑みを 浮かべ、燈弥の手を握り返す。その後、慈音に顔を向け「あの……」と切り出した。


「丈と瀧にお礼を伝えといてくれ。その、親切にしてくれたからさ」


 慈音を見る顔は燈弥に見せた穏やかな笑みは浮かべておらず、いつものように凛と相手をまっすぐに見つめていた。

 そして、何か思い出したようにハッとし燈弥に顔を戻す。


「燈弥、実はここに拉致られる時に知り合いが怪我をしたんだ。一応直したけど……心配だ。心多のところに一回寄ってくれ」


 玲は声は凛としているものの、表情には焦りが浮かんでいた。自分と心多が別れた場所に戻り、彼の安否を確認したいらしい。

 燈弥に寄ってとお願いする辺り、一緒に帰るという気持ちも優先したいようだ。


 不思議なことだが、玲は燈弥と離れたくなかった。その理由は、本人にも正直よくわからない。

 ただ、今......自分が思うままに行動しようと 玲は本能に従っているのだ。


「ダメか?」


 若干眉を下げ、燈弥を見つめる。

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