新たな一歩
chapter:4-1
「――え?だ、れ?」
この場に似合わない優しい声に玲は恐る恐るといった感じに状況を把握するべく、声の主に目を向けた。
悠々と、なんでもないように燈弥と瀧の動きを軽々と止める新手の登場に、玲は不安感を隠せず若干、肩を震わせる。
「燈弥……」
もう、わけがわからないという風に、玲は燈弥の名前を呼ぶことしかできなかった。普段強気な分、予想ができないこの状況は玲の精神に多大なストレスを与えたのだ。丈が腕を離せば、その場に座り込むような勢いだった。
燈弥は今の状況をしっかり目に焼き付ける。
まるで最初から動いていなかったかのように、自分のスピードや威力などすべての付加エネルギーが感じられなくなった。
懐かしく妬ましいこの感じ、聞きなれた優しげな声、視線をあげた先の煌く銀髪。
一瞬で自分の中の何かがはじけ飛ぶ感覚に燈弥は襲われた。
「 うっ!?ひどいなぁ。燈弥」
ガツンッ っという鈍い音。振り抜かれた拳と、顔面を抑え背後によろめく銀髪の姿。仮 面の下から覗く、優しげだがどこか困ったような表情。
「
かすれた声で、燈弥は懐かしい名前を呼ぶ。口の端から流れる血を親指でぬぐい、姿勢を正して真っ直ぐに自分を見つめる藍色の瞳。煌く銀髪。優しげで時折困ったような表情を浮かべる顔。
その全てが懐かしく――。
「 名前覚えててくれたんだ。燈弥がここに来るって聞いてね 。あれから兄貴もずっと気にしてるよ」
「 兄貴……、あの人は生きてんのか!? 」
慈音と名乗る青年と、燈弥。
この2人の関係はいわば仇であり幼馴染。かつて本気の殺し合いをしたことすらある友人だ。ただ、今ここで彼らの過去を語ることはしない。
「 ピンピンしてるよ。最近は顔を合わせてないけどね」
「 そうか、そりゃァよかった……な」
「 ったく、燈弥さ、別に昔のことは気にすんなよ。わざわざ一芝居打つのも面倒なんだ」
「 あぁ、話してみればなんてことはねぇな」
かつて燈弥と慈音は喧嘩別れをした。
ソレは些細な理由ではなかったのだが、それが理由で燈弥はガラにもなく、慈音に引け目を感じていたのだろう。
「燈弥は自覚した方がいいよ。自分の立ち位置とそれを付け狙う輩がいることを」
慈音は玲を一瞥して告げる。それを聞いて燈弥は「そうだな」と素直に返事をした。
「わざわざ、このためにか?」
「あんな別れ方したから、素直に聞いてくれるとは思わなかったしね」
「んだそれ」
いわば茶番といったところだろう。今回のこの騒動は。
燈弥とコンタクトを取ることが難しい慈音がボスからのお達として四番隊の協力の元企てたもの。
事実を知らされていない瀧と丈は未だに状況が飲み込めていないようで、その二人をルウが奥へと連れて行く。それを見送った慈音は玲の方を振り返ると――。
「 えぇっと、玲さんだっけ?ゴメンね、色々迷惑かけて。 燈弥になんか奢ってもらってよ」
玲の思考は追いつかない。丈の手が離れ、力なく座りこんだ。
かけられる慈音の言葉に、未だに理解しきれてない頭では、ろくな返事も出来ず、ただ……燈弥へと顔を向けた。
「燈弥……」
何が何だかわからない。けれど、解放された体は、もう自由だ。玲は震える体を立ち上
がらせ、慈音の横を通り、燈弥の前へと近づく。そして、悲痛に顔を歪めながら燈弥の
体を見た。
「どこか、痛いところはあるか?治してやる……ごめんな?」
小さく言いながら、燈弥の胸や腹部に手を当てる。大抵のものなら治るが、もし酷ければ玲も治せない。
そうなれば、尚更……玲は申し訳なくなる。自分のせいで、自分が捕 まったせいで……そう心に負い目を感じながら。
「本当にごめん」
再び、謝罪の言葉を口にした。
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